レディー(3)
ホノカにきっぱり断られると、シンは、諦めて浮いている武器を順番に見て行く。
武器のホログラムを指でクリックすると、その武器の名称とオプションの内容が窓に表示された。
シンは、後方で刀を床に突き立て、じっと見守っているホノカの視線が気になった。
(バディーって、あれで良いのか?普通のゲームだと、こういうのって、幼い相棒と共に、成長して行くコンテンツのはずだろ?ホノカは、もう成長しきってるよな……色んな意味で。)
きっとコンプラ対策だろう。最近は、無理な修正を入れている作品も少なくない。
シンがそんな事を考えていると、ホノカから声が掛かった。
「どうですか?」
シンは、ビクッとして愛想笑いする。
「あはは……。ホノカは、日本人なの?金髪だけど。」
ホノカの容姿は、西洋風だが、顔立ちは、割と日本人に近い。しかも、何故か武器が刀だ。
ホノカは、シンの問いに首を傾げる。
「日本?いえ、違いますよ。私は、集中都市ゼルバーグから来ました。」
「ゼルバーグ?」
それは、初めて聞く都市の名前だった。
「はい。バディーは、みんなゼルバーグから選出されていると思いますよ。武器は、決まりそうですか?」
「いえ!まだです。すみません……。」
(ゼルバーグ?NPCの――AIたちの都市って事か?ここに来てから情報が、多過ぎて混乱する。駄目だ、駄目だ。武器選びに集中しなきゃ。)
シンは、首を振り、ホログラムに向き直る。
「ん〜武器か。こういうゲームだと、遠距離からプスプスやるのが最強だよなぁ。」
弓やボウガンは、在るが、銃火器がここには、存在しない。アムリタがどの様な世界かまだ分からないが、銃があっても弾の入手が難しそうだ。
「そうなると……多様性だと剣。槍も良さそうだ。でも、槍に付いてる盾は、デカ過ぎるな。これだと、動き辛いし……。」
シンは、端まで一通り見て歩き、元の位置へ戻った。
「ナビ子さん。これにするよ。」
シンは、ホログラムの武器を指先でタップした。
すると、ポップアップウィンドウが現れて、大きな確認ボタンが表示された。続けてシンは、そのボタンをタップする。
《片手剣Aが選択されました。BOXが支給されます。中身をご確認下さい。》
光の柱と共に、小さな宝箱の様な箱が、天からゆっくりと降りて来る。その箱は、シンの腰の位置で停止すると、勝手に蓋が開いた。
――パカッ。
「なんで、それにしたのか聞いても?」
いつの間にかホノカが隣にいて、箱の中を覗き込んでいた。
シンは、箱に手を突っ込み、剣の柄を握り締めて言う。
「どのゲームでも、一番メジャーで使い慣れてるからかな。」
片手剣は、多くのゲームで登場する。その為、プレイヤーが操作する事も多い。ナイフや剣という物を持った事がなくとも、使っている姿を見慣れている人は、必然と多いはずだ。
そうして、腰のベルトに剣を提げると、もう一度、箱に手を突っ込んだ。
「それに、ホノカは、刀だろ?盾役が必要な時があると思ってさ。まあ、これじゃ、少し心許ないけど……。」
シンは、小さな丸い盾を、左腕に取り付けた。
「なるほど。戦略まで考えた、良い選択だと思います。」
ホノカは、最後に背嚢を背負うシンを眺めて、頬を上げた。思いの外、シンがしっかりと考えていた事を知り、ホノカは喜んだ。
それから、タイミングを見て、ナビ子さんが、次の話を始めた。
《それでは、左腕の端末についての説明に入ります……。》と、ナビ子さんがツラツラと端末について喋り続ける。
現実世界では、バンドを付けていた位置。左の手首の内側と外側の両方に、ひし形の青いクリスタルが埋め込まれている。
端末は、両側から指で挟み込む事で起動する。
すると、空中にホログラムの窓が現れ、様々なアプリケーションが表示される。チャットや掲示板、メモ帳や写真etc……。
そして、一番重要なのが、ゲーム内通貨の管理だ。
アムリタのゲーム内通貨は、貢献ポイント・CPと呼ばれる。CPは、普通にゲームを楽しんでいれば、自然と貯まる仕組みとなっているらしい。
業績やクエスト、入手した物の売り買いの他に、移動距離や掲示板などへの投稿と、いった一風変わった行動によってもポイントが付与される。
しかし、悪行を働くと減らされる。と、いう事だ。アムリタの世界に置いても、秩序のある行動が求められる。
そして、アムリタでは、明確なゴールは決められていないが、アムリタの開拓が、プレイヤーの主な目標となるだろう。
これは、アムリタの開拓に貢献すると、より多くのポイントが付与される。と、運営が明確にしている為だ。
開拓が、主に何を差すのかは、明確にされていないが、ゲームをプレイして行くと、自ずと見えてくるはずだ。
あと、便利な機能として、腕の端末を翳すだけで簡単にポイントを使用出来る――クイック精算機能がある。(CPからQCPに、ポイントを移動する事で使えるが、過払いに注意する必要がある。QCPに大金を入れるのは、危険だと言う事らしい。)
こう言った端末の説明を、ナビ子さんが長々と話した。
《最後に、現実世界に戻るには、この場所から筐体を通じてログアウトする必要があります。町からリスタートポイントに行く為のゲートを通るには、500CPが必要となりますので、ご帰還の際はご注意下さい。》
シンは、耳を疑い、誰もいない空を二度見する。
「ログアウトに金掛かるの!?まじかよ。」と、軽く幻滅した。
《それでは、冒険の準備が出来ましたら、ゲートをお潜り下さい。》
ナビ子さんがそう言うと、何も無い空間に光の渦が出現した。
ゲームだからと言って、謎の光の渦を通るのには、少しばかり抵抗があるが、通らなければ始まらないのだから、仕方がない。
シンは、意を決する。
「それじゃあ、行こうか、ホノカ。ナビ子さん、ありがとう!またね。」
シンは、空に向かってナビ子さんに別れを告げると、ホノカと並んで、光の渦に足を踏み入れた。
《よい旅を――。》




