レディー(2)
「――女の子っ!?」
可憐な金髪の女性が光の中から召喚された。女性の後方の召喚ゲートの輝きが、後光の様な神秘的な演出を醸し出す。
その魔法の様な輝きが、彼女の綺麗な長髪を煌めく。その金色の髪は、頭の後ろで纏められ、風に乗る。
整った顔立ち、西洋風の軽鎧姿で、腰に刀。銀色のプレートメイルが、豊満な胸を押さえつけている。
召喚ゲートから飛び出した影響か。彼女は、地面に足をつけていない。鉄のブーツの爪先が、地面と並行して宙を移動する。
彼女の体が、シンに向かって、勢い良く飛び込んだ。
シンは、バランスを崩しながらも、彼女の腰に手を回し、受け止める。そして、彼女も、シンに抱きつく形で、何とか無事に着地した。
お互いの顔が、急接近した状態で、見つめ合う。
その場で固まり、お互いが動けない。
数秒間の沈黙――。
シンは、到頭恥ずかしくなり、堪らず声を掛ける。
「だっだいじょうぶ?」
「お、おしり……。」
シンは、何の事か分からずに聞き返す。
「おしり?」
ふと、右腕の感覚を辿ると、自分の右手が、彼女の尻を鷲掴みにしている事に気がついた。
「わわわっ!ごめん!」
シンは、咄嗟に彼女から離れ、両手を上げて弁解した。
「いえ。突然でしたし、大丈夫です……。」と、彼女は、シンと目を合わせられず、恥ずかしそうに顔を逸らした。
シンは、気まずい中、ドギマギと自己紹介をする。
「おっおれっ。ぼく?わたしは、光先シン。よろしく、オネガイシヤス。」
シンが、ぎこちなく頭を掻くと、彼女は笑った。
「そんなに畏まらなくても良いですよ。私は、ホノカ。あなたのバディーです。よろしくお願いします、シン。」と、ホノカは、丁寧にお辞儀をした。
シンは、まだ心が落ち着かず、目を泳がせる。
「女の子が出て来るなんて、予想外だよ!美人だし……緊張するな!あはははー。」
「……美人?」と、ホノカは、疑問に思ったようだ。
「てか、ナビ子さん。急に黙るじゃん。」
シンは、慌てて空を仰いだ。
《空気を読む。と、言う事は、とても大事な事だと認識しております。》
「いやいや。何でだよ。」
シンは、緊張を紛らわせる為に、わざと困った素振りをした。――おかしなAIだな。
少し間を開けて、ナビ子さんが提案する。
《次は、武器の支給を行いますが、どうなさいますか?》
「それじゃあ、早速、お願いするよ。」
シンは、ホノカを視界に入れない様にして、空に向かって言った。気を紛らわせて、心を落ち着ける作戦だ。
バディー召喚で、人間の女性が召喚されるなど、聞いていない。シンは、てっきり、小さなドラゴンとか、もふもふした亜人なんかを想像していた。
(他の参加者は、どうだったのかな。これじゃ、やり辛いったらありゃしないぞ……もしかして、バグじゃないだろうな?)
シンは、ホノカを横目で見た。
ホノカがシンの視線に気づいて微笑むと、シンは、パッと視線を空に戻した。――運営さ〜ん。スタッフ〜?
シンが神に祈っていると、真っ白な部屋に光が走った。――神様!?(*GM…ゲームマスターの略。)
一直線に部屋の中央を駆け抜けた光が、形を形成して行く。その光は、キラキラと、光学的な輝きを見せる。
すると、沢山の武器の形をしたホログラムが、綺麗に一列となって現れた。ずらりと、並んだ武器は、端まで長い距離がある。
《この中からご選択下さい。武器によっては、盾や矢筒などのオプションが付属される物もございます。これは、初回だけの特別支給です。今後、新たに支給を行なったり、破損、紛失の補填は、ございません。》
「この中からって……目茶苦茶あるじゃないか。」
シンは、現れた武器の数々を見て、途方に暮れた。
小ぶりな剣から大剣まで、あらゆる形状の剣に加え、槍や弓、ハンマーや杖といった様々な種類の武器たちが、ショーケースに飾られているみたいにして、宙に浮いている。
《共通オプションとして、ナイフ、水筒、小袋、タオル、スコップ、そして、それらを収納する為の背嚢が、支給されます。》
シンは、簡単に言うナビ子さんに困り果てた。
武器を選ぶ事は、これから始めるゲームプレイにとって、かなり重要な選択だ。これは、ただの道具と言う訳ではない。自身のプレイスタイルが、武器一つで大きく変化するのだ。
戦闘方法は、勿論。立ち回りでさえも変わってくる。剣を持つ人と弓を持つ人では、ただの道を行くだけでも、道順も違えば、索敵方法も違う。
大袈裟に言うと、弓を持った人は、態々水中を進まない。迂回が出来るのならば、陸の道を行くはずだ。
何をするにしても、その武器の長所を活かした行動を取る事になるだろう。
そんな重大な事を、パッとは、決められない。シンは、ホノカに助けを求めることにした。
「ホノカさんは、どれが良いと思います?」
「ホノカで良いですよ。」
シンは、ホノカに言われて言い直す。彼女も、それを待っている様子だ。
「ホノカは、どれが良いと思う?」
すると、ホノカは、腰の刀を、シンに見せてから答える。
「私には、この刀があるように。シンは、シンが自分の命を預けられる武器を、自分で見つけないと。」
ホノカの刀の鞘は、光沢があり、長くて格好が良い。唾も柄も、しっかりとした日本刀だ。
「ん〜。こういうの。時間掛けちゃうタイプなんだよなぁ。決めて貰えれば、サクッと行く派なんだけど?」
シンは、眉を上げ、期待した表情でホノカを見るも、ホノカは、断固とした態度を取る。
「いくらでも、待ちます。」
彼女は、ドンッと、地面に刀を突き立てた。




