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天秤のアムリタ  作者: ぐぅぜん
はじまり
6/35

レディー(1)

 暗闇の中。


 身体は、何も言う事を聞かない。


 虚無の中を、ずっと落下し続ける。


 シンは、ふと考えた。

 このまま、どうなってしまうのだろう……。



 ――そう思った矢先。



 突如背中に弾力を感じ、体が反射的に動いた。

 足の裏が、存在しない床を蹴り、空を切る。それに反応した体が、驚いてビクッと、跳ね上がった。



 ()()()というヤツだ。



 シンは、勢い良く体を起こし、周りを確認する。今居るのは、カプセルの中だ。それは、間違いない。

 しかし、その周りの風景は、見たこともない場所だった。一面が真っ白で、生活感が感じられない。ガラスの封は解かれ、白衣の男性も消えていた。――これは、ゲームの中なのか?


 シンは、筐体(フォグ)から出て、ひんやりした白い床の上に立つ。

 不恰好な黒色の全身スーツを着ていたはずだが、何故か靴を履いていて、服も着ている。

 白い上着に、白い長ズボン。ジャージの様に伸縮性があって柔らかいが、見た目はスーツに近い。フォーマルとまではいかないだろうが、()()()()()()()と、いった感じだろうか。


「どうなってんだ?」


 体の感覚が現実と全く同じで、ゲームの中だとは、到底思えない程に現実的(リアル)だった。――まさか、フルダイブがこれ程だなんて……。


 シンは、頬を抓りたくなる程に驚いた。本当に夢でも見ているかの様な気分だ。



《ようこそ。アムリタへ。》



 突然、何もない空から、女性の声が聞こえて来た。


「――うお!?」


 シンは、反射的に空を見上げて声を上げた。空には本当に何もなく、どこまでも白い空間が続いている。


《わたしは、リスタートポイント・ナビゲーションAIの()()()()()です。この空間内でのサポートをさせて頂きます。》


「へ……よろしく、ナビ子さん。」


 シンは、唖然として、真っ白な天井を見上げた。何処にもスピーカーは、見当たらない。


《それでは、まず始めに、バディー召喚を始めます。召喚ゲート前にて、お待ち下さい。》


「バディーシステム!」


 シンは、展開の早さに、ワクワクとした笑みを浮かべた。



 バディーシステムとは、事前説明会で知らされた数少ないこのゲームの情報のひとつだ。


 アムリタでは、ソロでの冒険が困難らしく、ソロでも行動出来る幅を広げられる様に、取り入れられたシステムだと言う話だ。

 人と近い知性を持った生物が召喚され、仲間となる。云わば、ノン(N)プレイヤー()キャラクター()の相棒。

 円滑にゲームプレイを進める為に用意された、プレイヤーのサポート役。と、言ったところだろう。これは、ゲームでは、良くある仕様だ。


《バディーは、あなたの生体情報を元に、AIが判断した相性の良い個体が選ばれます。能力、見た目等の選択、変更は、一切出来ません。》


 ナビ子さんの言う通り、バディーの種類は、様々だ。言葉を交わせるものもいれば、犬だったり、猫だったりもするらしい。(言葉が通じなくとも、メッセージ機能で会話が可能とのこと。)

 そして、バディーとは、魂で結び付いており、仲が深まると、お互いの感情を読み取る事も可能だと言う。本当に()()()()()()仕様だ。


 実際、シンは、ゲームだからと言って、そんな事が出来るとは、思っていなかった。コンピューターが予測して、何か送ってくるのだろう。その気持ちは、ここに来て、より一層深まった。


 心で思っている事を読み取る?心の友よ?そんな感覚を、この現実味の溢れる身体が、持ち合わせているわけがない。


 そんなものは、子供騙しの嘘も方便だ。


 ゲームとは、子供の為にある物だが、残念ながら最近の傾向はそうではない。法律に則った年齢制限という物があり、大人の娯楽へと変化しているのだ。

 この『アムリタ』もそうだ。フルダイブという危険性。リアルな操作性にリアルな表現。これに、年齢制限が掛からないはずがない。



《生涯を共にする相棒です。()()()が欠けたとしても、新たにバディーを組む事は出来ません。それでは、召喚を開始します。心の準備は、よろしいですか?》



 シンは、筐体(フォグ)の横にある、四角い門の様な模様の壁の前に立った。壁には、セフィロトの樹が描かれている。


「はい!お願いします!良いの来い!」


 シンが祈りながら返事をすると、目の前の壁が、キラキラと輝き始めた。門を描いた模様の中心が、魔法の様な眩い輝きを放つ。

 召喚だとか、ガチャだとか、ワクワク要素が堪らない。

 心を通わせる。と、いう仕様には、否定的だったシンだが、もうそんな事は、どうでも良かった。一体、どんなバディーが現れるのか、夢と希望が詰まり捲りだ。――こんなの、現実じゃ、ありえない。


 シンは、興奮が抑えきれず、顔面から、門と同じぐらいの眩い輝きを放ち始める。


《バディーとあなたは、一心同体です。》


 天の声が、優しい声を発する。


 目の前の輝きは、楕円を描き、シンの背丈よりも大きくなった。逆に心が、光の中へと吸い込まれそうだ。


《バディーと絆を深める事で様々な力を得られ、どんな困難をも乗り越える事が出来るでしょう――。》


 どんどん輝きが増し、今にも何かが飛び出て来そうだ。

 そう思ったその時、光の中に影が現れた。――あれ?思ったよりも大きいぞ。


 シンは、そう思い、片足を一本引いた。


 しかし、逃げるには、既に遅かった。


 光の中から、人間の指先が飛び出した。そして、その勢いのまま、パーッと、全身が飛び出す。


「――女の子っ!?」

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