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天秤のアムリタ  作者: ぐぅぜん
はじまり
31/35

アッシュ(2.5)

 二人は、暗い噴水の横を駆けた。強風で、石畳の隙間の砂利が宙を舞う。


 そこで、突如、空から灰色の物体が、二人の上空に降って来た。その物体は、強風を物ともせず、木の葉の様に舞い揺れながら、二人の周囲を取り囲む。


 ホノカは、ハッと見上げて、足を止めた。シンを掴んだ腕を放し、腰の刀に手を伸ばす――。

 しかし、そこには、刀が存在しない。ホノカの指先は、残念ながら空を切った。その刀は、シンの腕に抱かれていた。


 シンがホノカに叫ぶ。


「ホノカ!そのまま走って!」


 シンは、そう言うと、灰色の物体を見上げ、腰から剣を抜いた。


 嵐の中を泳いで現れたのは、灰色の奇妙な魚だった。眼球は、白濁しており、歯は、ピラニアの如く鋭い。歪に尖ったヒレを使い、強風の中を素早く泳ぎ回る。

 ホノカは、空を泳ぐ四匹の魚の間を、シンの指示通りに駆け抜ける。それに魚が反応して、ホノカに襲い掛かる。



 【灰魚〈イビルフィッシュ〉】…灰の嵐の中を遊泳する魚。群れを好み、集団で行動する傾向がある。小型で、一匹一匹は、比較的弱い。しかし、その魚群は、脅威である。嵐の中で一度目をつけられると、瞬く間にその身を食い散らかされることだろう……。



 シンは、無我夢中に動いた。冷静に考えている暇などない。



 ――思い出せ!



 その一瞬で、とあるゲームの事が頭によぎる。


 それは、般若の面を着けた侍が、鬼退治を行うアクションゲームだ。正に、こういった悪霊を刀で断ち斬って、ボスの下へと向かうのだ。


 シンは、剣を刀に見立て――振る。

 そして、もう一度――振る。

 立て続けに――振る。


 まるで、その侍が、シンの身体に乗り移ったみたいに、シンは、四匹の魚を叩き斬った。その動きは、正にゲームのキャラクターその物だ。


 斬られた魚は、魂が刈り取られるかの如く、塵となって風に撒かれた……。


 シンは、四匹の魚を消滅させると、我に返った様に目を見開く。必死で、どう動いたのかさえ分からなかった。倒せた事に、自分でもビックリしている。

 やり込んだゲーム程、その光景を鮮明に覚えているということだろう。見様見真似でも、案外上手くいくものだ。


 しかし、そう悠長には、していられない。この強風の中、再び何かが襲い掛かって来る可能性もある。


 シンは、こちらの様子を振り返って窺っている、ホノカの下へと駆けつける。


「行こう!」


 ホノカは、頷き、シンと肩を並べて、再び闇の中を駆け始めた。

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