表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天秤のアムリタ  作者: ぐぅぜん
はじまり
27/35

ログアウト(2)

「なあ、君!」


 ロクは、立ち上がり、大急ぎでシンに近づいた。彼が立ち上がると、その背の高さと、スタイルの良さが栄える。彼は、あのダサいボディースーツを、嘘の様に着こなしていた。


「ふぁい!?」


「彼女に説明してあげてくれないか?安全だって!」


 ロクは、大声で言いながら、ダブレットの画面をシンに向けてくる。画面には、髪の長い美女の顔が、大きく映し出されていた。


「おれがですか!?」


 シンは、驚いた。いや、おったまげた。


「そうだよ。彼女が心配性でね。困ったものだよ。」


 ロクが半笑いで言うが、彼女が心配するのは、もっともな話だ。テストプレイヤーの本人たちでさえ、不安なのだ……。もちろん、全員が、危険を承知の上で参加している。


 このリアル過ぎるフルダイブ技術に、何も不安を感じない人は、心が少しぶっ壊れてしまっていることだろう。狂人、犯罪者予備軍。そう呼ばれる前に、誰かに相談するべき事案だ。


 運営は、そんな参加者の精神面をも考慮して、参加者には、二日に一回のカウンセリングを義務付けている。手間ではあるが、ログアウトして、専門医の診断を受けなければならない。

 リアル過ぎるが故に、トラウマを抱える者が必ずあらわれる。非現実的な現実的仮想空間は、それほど人の感情に揺さ振りを掛けるものだということだ。


「でも、何を言えば……。」


 シンが困った顔をしていると、ロクが優しく提案する。


「アムリタに行って、良かったこととかないかい?」


 ロクは、短い髪を垂らして、シンの顔を覗き込む。

 シンは、難しい顔をして考える。


「んん〜。」


 考え込むシンを見て、画面の中の女性が言う。


「ほら、ロク。彼が困ってるじゃない。」


 彼女は、星の様に綺麗な目を輝かせて、心配そうにシンを見た。


「いや!色々あって、急に出て来なくって。あはは……。」


 シンは、苦し紛れに答えた。

 ロクが楽しそうに笑って、催促してくる。


「で、良かったこと。あったかい?」


 美男美女の視線がシンに刺さる。

 シンは、それを振り払う様に軽く咳払いして、指を立てた。恥ずかしさと緊張で、少し頬が赤い。


「さっきまで、知り合いたちと、レストランでメシを食べてたんですけど…。」


「うん。」と、ロクは、興味津々に相槌を入れた。


「向こうのメシは、()()()()()()旨いです!」


 シンは、目一杯強調して言った。

 しかし、画面の中の女性は、残念そうな顔をする。


「えー。そんなの、わざわざゲームの中で食べなくたって、いいじゃない。」と、巻かれた前髪が、綺麗なおでこの上で揺れた。


 シンは、否定する彼女に、間髪入れずに発言する。


「彼女さん!聞いて下さい!」


「なっなによ?」


 彼女は、急なシンの大声に驚いた。


「ファンタジー映画とか、夢物語に出てくる、ぷりっぷりの大きな分厚いお肉に、かぶりつくと堪りませんよ?こっちには、無い、夢の食材が、向こうにはあるんですよ。しかも、食べても現実の体には、影響ないし。」


 シンは、少し大胆に言ってのけた。

 これに、彼女は、納得の表情をする。


「なるほどね。私も馬鹿じゃないから、そういうのが魅力的なのは分かるわ。」


「だろ?だから、大丈夫だって言ってるだろ?」


 ロクは、ほっとした顔をした。

 しかし、彼女は、まだ納得していなかった。


「でも、安全かどうかは、別じゃない。だって、バケモノと戦ったんでしょ?」


「そうだけど。そういうのも、楽しみのひとつなんだよ。」


 すると、画面の中の女性の目が、再びシンに向いた。


「そこのあなたも戦ったの?」


 シンは、この質問には、苦笑いするしかなかった。自分は、見ていただけで、一切戦っていないからだ。


「おれは……仲間が、あっという間に倒しちゃって。でも、今言った肉は、倒した魔獣の肉ですよ。」


 シンの話に、意外にも、ロクが食いついた。

 ロクが目を丸くして、シンに聞く。


「えっ。君、魔獣の肉食べたの?」


「っうん。レストランで調理して貰って。広場の前の。笹崎さんが屋上に立っていたっていう建物の所です。本当に絶品でしたよ。」


 これに関しては、シンの笑みが止まらない。


「うわ〜。俺もそうすればよかった!」


 ロクが、悔しそうに笑った。

 画面の女性も、悔しそうに頭を抱えている。


「はぁ。分かったわよ。もう、男のロマンってやつ?くだらないんだから。でも、ちゃんと連絡してよね?」


「ああ。戻った時は、すぐに連絡するよ。」


 ロクは、彼女がうっとりする程の、白い歯を見せた。


《ピロリン、ピロリン。》


 シンは、電子音のする方に顔を向けた。


「あ、メシ来たんで。おれは、この辺で。」


「ありがとね。わざわざ。」


 お礼を言う彼女に、シンは、笑って手を振り、画面の前から立ち去った。


 ロクは、タブレットを持って、元いた場所へと戻って行く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ