スタンピード(3)
二時間は、戦っただろうか……。
長期戦に疲弊し、途中、危なっかしい事態も起こったが、なんとか無事に魔獣を討伐することが出来た。
ロクは、最後の指示を出す。
「手の空いているパーティーは、街の人達と協力して、魔獣の処理をお願い。でも、まだ気を抜かないで!魔獣が潜んでいる可能性がある。警戒は、怠らないように。」
それから、ロクは、疲れ果て、尻を地面に突いている集団に、挨拶に向かった。彼らは、大きな盾を地面に投げ出し、大きく口の開いた顔を天に向けている。
ロクは、彼らの輪の中に腰掛けて、話し掛けた。肩の上のフェニックスは、飛び上がり、大空へ舞った。
「壁役のみなさん。本当にありがとう。大きな被害も無く、無事に終えられたのは、君達のおかげだよ。」
その言葉に、大きく手を横に振って、男性が答える。
「いえいえ。笹崎さんの指示が無かったら、こんな纏まり無かったですよ。」
「そうだよ。みんな、ロックに励まされたんだから、こちらこそだよ。」
「そう言って頂けると、俺も動いた甲斐がありました。」
ロクは、ほっとしながら頭を下げた。
「お陰様で、楽しかったっす。本当は、笹崎さんも、戦いたかったんじゃないっすか?ずっと、指示出ししてましたもんね。」
彼の言葉に、ロクは、恥ずかしそうに本音を吐く。
「ええ。実は、めちゃくちゃ我慢してました。あはは。」
そこで、一人の男性が森の方を見て言った。
「お、あれのラストアタック行きますか?」と、兵士が魔獣と戦っているのを見つけて、腰を上げようとした。彼は、まだまだ暴れ足りないらしい。
「いえ、今日始まったばかりですし。これから、いくらでも機会がありますから。」
ロクは、兵士たちが魔獣を仕留めるのを見守った。
そこで、ロクと話していた立役者たちが、ロクの背後を見上げる様に顔を上げた。
ロクは、自分に背後霊でも取り憑いているのかと、振り向いた。あれだけ魔獣を狩ったのだ。一匹ぐらいいても、おかしくはない。
振り向いた先には、ガッシャガッシャと、鎧の音を鳴らして歩く騎士の姿があった。顔全体を覆い隠す兜に、全身を包み込む鋼の鎧。肉体は隠せても、体付きの良さまでは、隠せていない。
部下らしき鎧の兵士を共に連れ、真っ直ぐロクの下に向かって来る。
「君が、テスターの指揮官だね。」
兜で籠もった男性の声がした。
「えっと。指揮官って程じゃないですが。まあ、そうなるのかな。」
ロクが困った顔をして見上げると、騎士が、兜を脱いで顔を晒した。
なんと、彼のその顔は、人間の顔では無かった。
あり得ない程に、紫色の(ピンク色に近い)肌をしており、鼻の下には、髭の様な触手が二本生えている。頭には、毛が無く、小さな角の様な突起が、二つ生えている。
彼は、兜を左の腰に抱え、空いた右手で握手を求めた。
「騎士のダルアンだ。素晴らしい指揮だった。こちらも、鼓舞された者が多い。助かったよ。」
ロクは、すぐに立ち上がり、手を取った。
「笹崎ロクです。そちらは、被害ありませんでしたか?」
ロクは、彼の容姿への驚きを、最小限に抑えた。分厚い彼の手の握りは、力強く、逞しかった。
「ああ、お陰様でな。なんだ?お前たち。ヒューマン以外の人種と会うのが初めてか?」
周囲のざわついている者たちに気づき、ダルアンが眉を上げた。
ダルアンの視線を浴びた男達は、言葉も無く、苦笑いで誤魔化した。すかさず、ロクがフォローに回る。
「ええ。みんな、アムリタに来て、すぐにこちらへ向かったので。アムリタの住人に会うのが、初めての方ばかりです。気に障ったのなら、謝ります。すみません。」
ロクが軽く頭を下げると、ダルアンは、笑って手を振った。
「いやいや、いいんだよ。アムリタには、私のような雷人以外にも色々といるからな。会うのを楽しみにするといい。」
「それは、楽しみだ。」
ロクは、心の底からそう思った。
「あと、魔獣は、狩ったら放置せず。きちんと処理するように、皆に伝えてくれ。死骸の放置は、重罪だ。恩人たちを、しょっ引かなくてはいけなくなるからな。」
ダルアンは、休んでいるテストプレイヤーたちに向けて言った。
「分かりました。伝えておきます。」
「まさか、テスターが来る日に、こんな事が起きるとはな。本当に助かった。ありがとう。では、我々は、失礼するよ。」
ダルアンは、別れを告げると、部下を連れて戻って行った。




