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天秤のアムリタ  作者: ぐぅぜん
はじまり
24/35

スタンピード(2)

 西門では、魔獣の進行を抑えつつ、戦っている兵士たちがいた。鉄の甲冑を身に纏った、西洋の騎士を彷彿とさせる兵士たちが、門の前で、魔獣と激しい戦いを繰り広げていた。


 街の外壁の上からは、矢が放たれ、盾を構えて必死に魔獣を押し留めている兵士の上空を、矢が通過する。


 馬に乗り、颯爽と戦場を駆ける騎士が、号令を掛ける。顔を覆い隠した鉄の兜の男性だ。


「おい、テスターの応援が来た!指揮を上げろ!ここから、一気に畳み掛けるぞ!」


 騎士が手綱を引くと、馬が嘶き、脚を跳ね上げ、踵を返す。

 兵士たちは、歓喜して、その勢いを増した。



「「おおー!」」



 ロクたちは、西の森から彼らに姿を晒し、一気に魔獣に襲い掛かった。


 この西門付近に到着するまでに、数体の魔獣と遭遇した。何組かのパーティーで別れ、上手く処理する事に成功し、全員が勢いに乗っていた。

 一人では、到底敵わない相手でも、パーティーで協力すれば、意外と容易く討伐する事が出来ると分かった。魔獣と言えど、相手は獣だという事だ。


 初めての戦闘にしては、上出来だった。


 しかし、その所為か、ここに来て油断が生まれてしまった。

 ロクの下に、慌てて駆けつけた男達が言う。


「笹崎さん!芸人のミライが!調子に乗って、一人で突っ込んじまった!」


「なんだって!?ミライさんは、どこに!」


 前方の魔獣の相手を、仲間たちに任せて、彼らの方に顔を向ける。

 すると、一人の男性が俯いて、残念そうに首を振る。


「もう、やられちまったよ。」


 その悲しそうな声に、戦っている人達が反応する。


「うそでしょ?」「まじか……。」


 ロクは、このままでは、マズいと判断した。急いで後ろに下がり、大声で叫ぶ。


「みんな!気が緩んでる!集中して!油断は、命取りだ!時間は、たっぷりある!慎重に行こう!」


 まるで、球技でもしているかの様な声援だったが、しっかりと皆に伝わったようだ。全員の顔が引き締まり、魔獣との間合いを、大きく取り始める。


 そして、ロクは、戦況を見て、指示を出し始めた。


壁役(タンク)のみんな!これは、長期戦になる可能性が高い。深追いせずに、なるべくスタミナの温存を!」


 すると、各パーティーの盾持ちが、気合いを入れた返事をする。


「おうよ!」「任せろ!」と、盾をどっしりと構えて、腰を落とした。


 続いてロクは、白い上着を翻し、後方に向けて指示を出す。


遠距離班(シューター)は、南側に魔獣が向かわないように、牽制を!」


「はい!」と、一人が返事をすると、揃って森の中を移動し始めた。


 ロクは、正面に向き直ると、クチバシのある蛇の魔獣に向けて手を放った。すると、振った指先に沿って、炎が流れる。


絆技(シナジースキル) ・ 燃え盛る矢(バーニングアロー)


 指先から放たれた炎は、真っ直ぐ魔獣の目元に向かって飛んで行く。

 すると、炎が魔獣の目元で、ブワッと、燃え上がって消え去った。魔獣は、目を庇い、クチバシを大きく空に向けた。


「今だ!」


 盾を持った男性が叫んだ。


 そこへ、周りの人達が息を合わせて、大蛇の胸元に飛び込む。それぞれが武器を突き出し、槍や剣を、大蛇の体に突き刺した。

 魔獣が断末魔を叫ぶと、その大きな体が地面を揺らした。


 彼らは、武器を大蛇の腹から引き抜き、後ろに下がる。

 決して、気が抜けない。大蛇の死骸の後ろには、まだまだ魔獣がいるからだ。勝ち鬨を上げる暇もなく、彼らは、正面に身構える。


 彼らの連携は、素晴らしかった。ロクは、彼らなら、しばらく目を離しても大丈夫だと判断し、他のパーティーの様子を確認する。



 大勢いるテストプレイヤーの中で、一人。ずば抜けた動きをする者がいた。剣術家の音霧 シュウザンだ。


 上着の袖を腰に縛りつけ、上裸で刀を構える彼は、一人で何体もの魔獣を両断していた。

 髪色は黒く、長髪で、細身ながら鍛え上げられた筋肉をしている。剣術の師範代ともあり、年齢は、それなりに高そうだ。


 彼は、物静かに、しかし、ただならぬ気配を放ち、ゆっくりと間合いを詰める。彼の歪な気配の渦の中に飛び込んだ魔獣は、その身をばっさりと両断されて逝く。


 現実世界では、得られない快感に口角を上げて、魔獣を断ち切る彼のその姿は、まるで悪鬼だ。


 ロクは、妖美な彼の姿に息を呑み、要注意人物だと心に留めた。――彼なら人も斬りかねない。


 彼のこの姿を見れば、誰がどう見ても、そう思うことだろう。


(彼のバディーは、何処だ?)


 ロクは、その姿を探すが、パッと見ただけでは、見当たらなかった。ずっと、彼の事を見ている訳にもいかず、ロクは、諦めて、他のパーティーに顔を向けた。



 それから、ロクは、他のパーティーの援護に集中した。


 ロクは、自分も戦闘に参加したかったが、戦況を見つつ、指示を仰ぐ事に専念した――。

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