スタンピード(1)
◇ ◇ ◇ ◇
笹崎ロクは、大勢のテストプレイヤーたちを引き連れて、北の街『双璧の渓谷』の前にやって来ていた。
ここまで来るのに、一時間半、いや、二時間は、掛かったのではないだろうか。全員が白い服を着ていて、テストプレイヤーだというのが、丸分かりだ。
これでも、最初の町で借りることが出来た馬車に、体力の無い者や特殊なバディー(歩くのが困難な者や遅い者)を乗せて、急いで来たつもりだ。
中々の道のりだったが、大人数での移動にしては、上手く行った方だろう。
そして、その肝心の双璧の渓谷は、堅牢なる城壁の様な背の高い壁に囲まれていて、外から街の様子が、一切確認出来ない。
閉じられた強固な門の上から、顔を覗かせた兵士が、西の方を指差して何か叫んでいる。彼が何を言っているのかは、聞き取れないが、街の西側で戦闘が起きているであろう音や、大勢の人々の怒号が聞こえてくる。
幸いにも、ロクたちのいる南門までは、魔獣がやって来てはいないらしい。
ロクが現状を探っていると、先に向かわせたプレイヤーの一人が、状況を報告するべく戻って来た。
彼は、なるべく大勢に聞こえる様な大きな声で、手短に説明をした。ロクに静かにするように言われ、全員が、相槌もせず、黙って彼の話に耳を傾けた。
彼が言うには、街の北には、大きな山脈があり、そこから魔獣が押し寄せて来ていると言う。その魔獣たちが、街の北側にある湖を迂回して、街の西側へと雪崩れ込んで来ている最中だ。
そして、その魔獣たちの種類は様々で、簡単に説明する事が出来ない。ほとんどの魔獣が巨大で、ライオンの様な魔獣から、ゴーレムの様な魔獣までいたりと、見た事もない化け物の百鬼夜行だと、彼は言う。
一体一体が、とてつもなく凶暴で、大勢で一体ずつ仕留めなければ、到底敵わない相手だという事だ。
街の西側は、予想以上に、緊迫した状況だということが、彼の話から伝わって来た。
「みんな、聞いたかい?我々は、ここから西へ向かい。側面から挟み込む形で、援護に回ろう。道中、班分けした通り、パーティーで慎重に動いて欲しい。決して一人で、突っ込んだりしないように。危険だと判断したら、すぐに下がる事。」
全員が、静かにロクの話を聞き、パーティーメンバーと目配せして、不安を紛らわせながら、決意を固める。
道中の時間を利用して、バランスが良くなるように、組分けをしておいた。仲間意識で、連携が良くなるという事もそうだが、一番は、同士討ちを無くす為だ。
同じ人間ならば、魔獣と間違えて攻撃することは、殆どないだろう。
しかし、バディーとなると、どうだろうか。
バディーは、多種多様。言っては悪いが、化け物の様な見た目の者も少なくない。お互いに、しっかりと把握しておかねば、もしもの時の判断が鈍る。戦場では、魔獣かバディーかを見極めている時間など、ないはずだ。
「魔獣を見つけ次第、各個撃破。もう言うまでもないが、我々の命は、ひとつだ。無茶せず、連携を取って、楽に倒せる方法があるなら、そうしよう。卑怯だって、いいじゃないか。」
ロクが笑顔でそう言うと、緊張で張り詰めた場が和んだ様に、人々が微笑みを返した。
それから、ロクは、真紅の髪を風で靡かせ、剣を天へと掲げる。すると、肩のフェニックスが翼を広げた。
「それじゃ!みんな!いくぞ!」
ロクが、西の空へ向けて号令を放つと、鬨の声が上がる。
「「おー!」」
流石、志願者なだけあり、全員の行動が早い。
一部、ふざけ合ったり、あたふたとしている者もいるが、40名も人がいれば、当たり前の事だろう。別に彼らは、軍人というわけではない。
先入りした者たちも含めれば、総勢50名を超える大人数だ。
これは、ロク一人で纏め上げるには、限界を超える許容量だった。
バディーを含めると、100名を超える訳で、そんな数の人々を、一人、一人、把握出来るはずがない。ロクも、一人の人間であり、超人というわけではないのだ。
だが、ロクは、俳優だ。――みんなの為なら、超人だって演じよう。
ロクは、仕事上、色々なタイプの人たちと、接してきた。俳優の勉強の為、人間観察も良く行っている。その上、有名になった今でも、演技の練習は、怠らない。
そんなロクには、プロとしての自信と誇りがあった。必要とされるのならば、何にだって成ってやろう。という誰にも負けない心構えが――。




