バンケット(3)
全員が、コップを下ろしたのを確認したナッチは、勇気を振り絞って立ち上がった。みんなの視線がナッチへと集まる。
ナッチは、少しばかり声を震わせて話し始める。
「私は、菜並イチゴです。ナッチと、愛称で呼ばれる事が多いので、ナッチと呼んで下さい。普段は、農家をやっています。そして、この子は、ジビエ。みなさんよろしくお願いします。」
ナッチがぺこりと頭を下げると、拍手が起こった。
シンは、ジビエと言う名前を聞いて、気が気でなかった。
(食べる気だ!?絶対食べる気だ!?鹿って、農家の天敵だもんな!)
シンが、ナッチの事を、恐ろしい男認定していると、オレンジ色の髪を浮き上げて、カゲミチが立ち上がった。
「俺は、根路山カゲミチ。自動車メーカーで、メカニックをやってるぜ!バディーは、ボルト。よろしくな!」
カゲミチの肩に腰掛けているボルトが、ピカピカと、光りながら手を振った。
邪魔なハルバードは、店の壁に立て掛けているようで、挨拶が終わると、背中を気にする事なく豪快に、椅子に座った。
カゲミチは、エールのせいか、頬を赤く染めて、小っ恥ずかしくしていた。
次に立ち上がったのは、トールと同じぐらい大男のマモルだった。
「俺は、相仲マモル。会社員で、アメフトをやっている。マモルと、気軽に呼んで欲しい。」
そして、マモルがバディーに目を向ける。すると、大きな丸いカエル顔が動いた。
「おでは、ケシルだケロ。よろしくケロ。」と、ケシルは、三本指の手を振って挨拶をした。
拍手が続き、次は自分の番かと、シンが重い腰を上げようとした時、我先にと、ダンが立ち上がった。青いボサついた髪を揺らし、笑顔をみんなに向ける。
「僕は、的井ダンです。クイックロケッツって所で、プロゲーマーやってます。バディーは、カブトです。よろしくお願いします。」
ダンは、拍手を受けると、座りながらシンを見た。「次は、シンちゃんの番だよ。」と、その目が語っている。
シンは、仕方なく立ち上がった。「おれが最後かよ……。」と、ぶつくさと呟き、大きな咳をする。
「ごほんっ。あー、えー。光先シンです。大学二年生のただのゲーム好きです。この子は、バディーのホノカ。よろしく――。」
シンが言い終わる前に、カゲミチが叫んだ。
「ええ!?その子、バディーかよ!?」
マモルもナッチも、椅子から立ち上がり、ホノカを見た。
注目を浴びたホノカは、眉を上げはしたが、そこまで驚いてはいなかった。
「よろしくお願いします。」と、ホノカは、サラッと言う。
「やっぱ……そうなりますよね。あははー。」
シンは、彼らの反応に困った様に、遠い目をして頭を掻いた。知らない人と会う度にこれだと、面倒だと感じた。
呆気に取られたマモルだが、すぐに冷静を取り戻した。そして、立ち上がった状態で、シンに問い掛ける。
「それに、シン。ただの大学生が、テストプレイに選ばれる訳ないだろ?そんな奴は、ごまんといる。選ばれたのは、専門家や著名人だけだって話だからな。」
それは、本当に的を射た質問だった。だが、それについてシンは、自分から話したくはなかった。それは、完全に他人の評価だけの話で、シンがなりたくてなった訳ではないからだ。
しかし、そうもいかないらしい。説明が求められている。
どうせ説明するのならば、シンは、慎重に言葉を選んで説明がしたい。なるべく、印象が悪くならないように……。第一印象というのは、大事な事なのだ。
「えー。なんて言ったらいいのかな。」
シンが言い澱んでいると、ダンが嬉しそうに話し始める。まるで、自分の事の様に、ペラペラと……。
「シンちゃんは、最近のゲーム業界で有名なんですよ。新作荒らシンって名前で。ぷぷぷ。デバッカーより信頼できるとかで、最近は、開発者が配信を覗きに行くぐらい注目されてて――。」
ダンは、笑いを堪えながら説明をした。まだまだ、面白い話があると、話を続けようとしたが、カゲミチが大きな声で遮った。
「あ!俺、聞いたことあるぞ!ジャンル問わず、ランキング一位取る天才がいるって!」
シンは、カゲミチに勢い良く指を差された。
「いや、天才は、言い過ぎですよ!それに一位は、語弊があると言うか。取れたとしても、すぐに抜かれるし……。」
シンが困っていると、マモルが口を挟んだ。
「俺は、ゲームを然程しないが。体を動かすスポーツと違って、ゲームでランキングを取ったとしても、有名になるのは、難しいらしいな。回線やデバイスの違いもある。一番は、チートとかの違法行為が原因だろう。最近では、AIに操作させるなんて、滅茶苦茶な事が横行しているらしいぞ。」
そう真剣な顔で言うマモルに、ナッチが小声でツッコミを入れる。
「ゲームしないのに、めちゃくちゃ詳しいじゃないですか……。」
これがマモルに聞こえたらしく、マモルは、恥ずかしそうな顔を、咳をする素振りで誤魔化した。
「マモルさんの言う通り、ランキングだけでは、アラシンなんて名前、付けられなくてですね!」
「おい!ダン!やめろよ!」と、シンがダンを止めに掛かる。
「――はい、お待ちどう!どんどん持って来るからね。」
シンにとって最高のタイミングで、料理が運ばれて来た。




