バンケット(2)
『レストラン・トラモント』
一行は、広場の店の前に着いたところだ。
多くのテストプレイヤーで溢れていた広場には、嘘みたいに人がいなくなっていた。あれだけ騒がしかったプレイヤーたちは、一体何処に行ってしまったのだろうか。
御者の男性と押していた馬車を、店の前に停めて一息吐く。生き残った二頭の馬と、町まで押して運んだのだ。
汗でテカった額を手で拭い、バーチルが言う。
「先にわたしが話をつけて来ますので、少しだけお待ち頂けますか?」
全員が了承すると、バーチルは、店の裏口へと消えて行った。
四角い土壁の建物の一階には、陽の光を避ける為の天幕が張られ、外でも食べられるようなテーブル席が設けられている。
大きな窓ガラスの向こう側は、ランプの灯りに照らされていて、暖かそうな雰囲気の店内が丸見えだ。木造のテーブルと椅子が並び、大衆食堂の様に広々としている。
奥のカウンターに立つ、バーチルよりも福与かな女性が、店の前にたむろするシンたちに、不思議な顔を向けていた。
荷台から肉を手に取った男性陣(トールの肉だけ、馬鹿デカい。)は、肩をつき合わせて思い思いに語る。
「楽しみですねぇ。」と、店の外観を見上げて、心を躍らせるナッチとは違い、カゲミチは、げっそりとした表情で呟く。
「解体した後で、よく食欲が湧くな……。」
「確かに、グロかったけど。それと、これは、別腹じゃないかな。どんな料理が出てくるか、楽しみじゃないですか。」
ダンが、カゲミチの辛そうな表情を見て、笑って言った。
すると、マモルのバディーのケシルが、大きな口を開いた。
「おでが食べれるもの、あるケロ?」
「――喋れるの!?」
シンは、ケシルを見て跳び上がった。ダンやトールも驚いている。ケシルの大きくて、軟らかそうな体を、珍しそうに観察する。
それは、饅頭の様で、ゼリーの様な光沢もある。シンたちが、これまで見た事のない生物の体をしていた。
シンたちの驚く顔を見て、マモルが面白がる。
「あっはっは。普通に会話が出来るバディーもいるって、運営が言ってただろ?きっと、バディーたちが食べられる物も、用意してくれるはずさ。」
マモルは、そう言ってカゲミチの肩にいるボルトに笑顔を向けた。マモルは、周りが見れる気が利く男なのかもしれない。
ボルトは、頭のランプを光らせて、「ピポパポ。」と、電子音を鳴らして答えた。
そこで、バーチルが、店の従業員を二人連れて戻ってきた。彼らは、エプロンと、ねじり鉢巻を着けている。きっと、料理人だろう。
「彼らに肉をお渡し下さい。これから料理をして貰える事になりましたよ。」
肉が、彼らの持つトレーの上に、山盛りにして置かれた。二人掛でトレーを持った従業員が言う。
「みなさん、店内のお席でお待ち下さい。飛び切りのご馳走を用意しますよ。」
「やったー。」「おおー。」と、歓声が起こる。
シンたちの喜ぶ笑顔を見て、バーチルも太陽の様に、ホクホクと顔を綻ばせる。
「それでは、皆さん、お食事を楽しんで下さい。わたしたちは、仕事が御座いますので、これにて失礼致します。」
お辞儀をするバーチルに、シンは、お礼を言う。彼を引き止めるのは、野暮だという事だ。
「バーチルさん、ありがとうございます。」
「ありがとう!」と、皆が続く。
「いえいえ、こちらこそ。また機会がございましたら、よろしくお願い致します。では。」
全員で、バーチルの馬車を見送り終えると、体の向きを変え、ぞろぞろと、店内に入って行った。
◇ ◇ ◇ ◇
シンたちは、長い大きなテーブル席に案内され、それぞれバディーと並んで席に着く。
トールが、やっと腰を下ろせたと、大きな体をドンと椅子に預けた。
「いやー、いい人だったな。」
「世の中、ああいう人ばかりだったら、平和なのにね。」
ダンは、カブトをテーブルの上に降ろした。
リラックスした様に、椅子で背を伸ばしたカゲミチが、ダンに同意する。
「ちげぇーねー、ちげぇーねー。」
カウンターにいたエプロンをした女性が、飲み物を両手いっぱいに抱えて持って来る。
「ほーら。エールだよ!」
ドンッ!
テーブルの真ん中に、雑に置かれ、各々が手を伸ばす。バディーたちの分もある様だ。
「がっはっは。そういや、ちゃんと挨拶もしていなかったな!っはっは。」
トールは、元気に立ち上がり、エールを掲げた。そうして全員に顔を向ける。
「俺は、トール。プロレスラーだ。そして、バディーのキール。かんぱーーーい!」
唐突な乾杯に、シンは、戸惑った。
「ええ!?かんぱーい?」と、エールを掲げると、皆が続いた。
「乾杯!」「かんぱーい!」
全員が、不意を突かれて笑顔でエールを口にする。乾いた喉に、ごくごくと、水分が流れ込む。
そして、「ぷはぁ〜。」と、各々が胃の中の悪臭を漂わせ、美味しそうな笑みを浮かべた。




