表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天秤のアムリタ  作者: ぐぅぜん
はじまり
18/35

バンケット(2)

 『レストラン・トラモント』



 一行は、広場の店の前に着いたところだ。


 多くのテストプレイヤーで溢れていた広場には、嘘みたいに人がいなくなっていた。あれだけ騒がしかったプレイヤーたちは、一体何処に行ってしまったのだろうか。


 御者の男性と押していた馬車を、店の前に停めて一息吐く。生き残った二頭の馬と、町まで押して運んだのだ。

 汗でテカった額を手で拭い、バーチルが言う。


「先にわたしが話をつけて来ますので、少しだけお待ち頂けますか?」


 全員が了承すると、バーチルは、店の裏口へと消えて行った。


 四角い土壁の建物の一階には、陽の光を避ける為の天幕が張られ、外でも食べられるようなテーブル席が設けられている。

 大きな窓ガラスの向こう側は、ランプの灯りに照らされていて、暖かそうな雰囲気の店内が丸見えだ。木造のテーブルと椅子が並び、大衆食堂の様に広々としている。

 奥のカウンターに立つ、バーチルよりも福与かな女性が、店の前にたむろするシンたちに、不思議な顔を向けていた。



 荷台から肉を手に取った男性陣(トールの肉だけ、馬鹿デカい。)は、肩をつき合わせて思い思いに語る。


「楽しみですねぇ。」と、店の外観を見上げて、心を躍らせるナッチとは違い、カゲミチは、げっそりとした表情で呟く。


「解体した後で、よく食欲が湧くな……。」


「確かに、グロかったけど。それと、これは、別腹じゃないかな。どんな料理が出てくるか、楽しみじゃないですか。」


 ダンが、カゲミチの辛そうな表情を見て、笑って言った。

 すると、マモルのバディーのケシルが、大きな口を開いた。


「おでが食べれるもの、あるケロ?」


「――喋れるの!?」


 シンは、ケシルを見て跳び上がった。ダンやトールも驚いている。ケシルの大きくて、()()()そうな体を、珍しそうに観察する。

 それは、饅頭の様で、ゼリーの様な光沢もある。シンたちが、これまで見た事のない生物の体をしていた。


 シンたちの驚く顔を見て、マモルが面白がる。


「あっはっは。普通に会話が出来るバディーもいるって、運営が言ってただろ?きっと、バディーたちが食べられる物も、用意してくれるはずさ。」


 マモルは、そう言ってカゲミチの肩にいるボルトに笑顔を向けた。マモルは、周りが見れる気が利く男なのかもしれない。

 ボルトは、頭のランプを光らせて、「ピポパポ。」と、電子音を鳴らして答えた。



 そこで、バーチルが、店の従業員を二人連れて戻ってきた。彼らは、エプロンと、ねじり鉢巻を着けている。きっと、料理人だろう。


「彼らに肉をお渡し下さい。これから料理をして貰える事になりましたよ。」


 肉が、彼らの持つトレーの上に、山盛りにして置かれた。二人掛(ふたりがかり)でトレーを持った従業員が言う。


「みなさん、店内のお席でお待ち下さい。飛び切りのご馳走を用意しますよ。」


「やったー。」「おおー。」と、歓声が起こる。


 シンたちの喜ぶ笑顔を見て、バーチルも太陽の様に、ホクホクと顔を綻ばせる。


「それでは、皆さん、お食事を楽しんで下さい。わたしたちは、仕事が御座いますので、これにて失礼致します。」


 お辞儀をするバーチルに、シンは、お礼を言う。彼を引き止めるのは、野暮だという事だ。


「バーチルさん、ありがとうございます。」


「ありがとう!」と、皆が続く。


「いえいえ、こちらこそ。また機会がございましたら、よろしくお願い致します。では。」


 全員で、バーチルの馬車を見送り終えると、体の向きを変え、ぞろぞろと、店内に入って行った。



     ◇ ◇ ◇ ◇



 シンたちは、長い大きなテーブル席に案内され、それぞれバディーと並んで席に着く。


 トールが、やっと腰を下ろせたと、大きな体をドンと椅子に預けた。


「いやー、いい人だったな。」


「世の中、ああいう人ばかりだったら、平和なのにね。」


 ダンは、カブトをテーブルの上に降ろした。

 リラックスした様に、椅子で背を伸ばしたカゲミチが、ダンに同意する。


「ちげぇーねー、ちげぇーねー。」


 カウンターにいたエプロンをした女性が、飲み物を両手いっぱいに抱えて持って来る。


「ほーら。エールだよ!」


 ドンッ!


 テーブルの真ん中に、雑に置かれ、各々が手を伸ばす。バディーたちの分もある様だ。


「がっはっは。そういや、ちゃんと挨拶もしていなかったな!っはっは。」


 トールは、元気に立ち上がり、エールを掲げた。そうして全員に顔を向ける。


「俺は、トール。プロレスラーだ。そして、バディーのキール。かんぱーーーい!」


 唐突な乾杯に、シンは、戸惑った。


「ええ!?かんぱーい?」と、エールを掲げると、皆が続いた。


「乾杯!」「かんぱーい!」


 全員が、不意を突かれて笑顔でエールを口にする。乾いた喉に、ごくごくと、水分が流れ込む。


 そして、「ぷはぁ〜。」と、各々が胃の中の悪臭を漂わせ、美味しそうな笑みを浮かべた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ