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天秤のアムリタ  作者: ぐぅぜん
はじまり
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シナジー(4)


     ◇ ◇ ◇ ◇



《おー!っと、ここで!再び!ラントールお得意の場外乱闘だぁぁぁぁ!!》


 赤と青のロープの張られた四角いリングの外側で、二人の覆面レスラーが戦っている。


 ラントールは、長机を放り投げて相手に当てた。

 そして、相手が倒れたのを確認すると、両手を掲げて会場を沸かせる。


「おらー!見たかテメーら!もっと声を出せー!」


 大勢の観客からブーイングの嵐が巻き起こる。


 そこで、ラントールの背後に影が忍び寄る。

 いつの間にか立ち上がり、パイプ椅子を持ったパンダーが、襲い掛かる。ラントールの背中に、パイプ椅子が叩き付けられた。


「ぐわー!」


 大袈裟に叫び、倒れる。


 すると、パンダーは、ラントールを持ち上げてリングの中に放り込んだ。そろそろ決着をつける時の様だ。


《さあ!パンダーがラントールをリングに寝かせて!自身は、コーナーに登り始めた!》


(さあ。どうするラントール。体は、動きそうか?)


 暗闇の中、トールは、自分に言い聞かせた。

 今日は、いつも以上に暴れて、かなり疲弊した。体中が激痛だ。ハイになっていて分からないが、何処かの骨が折れてしまっているのは確かだ。

 毎回ギリギリの戦いをする訳ではないが、今日は、相手も本気らしい。プレイから、確実に勝ちに来ているのが分かる。


《そして、パンダー!会場に、トドメを宣言する様に、アピールを届けます!》


 会場内に歓声が湧き起こる。


(しかし、それじゃあ、面白くないよな?)


 ここで、トールが、ラントールに戻った。暗闇から解き放たれた様に目を開き、リングを眩しく照らすライトを見た。沢山の吊るされたライトで、視界が真っ白になる。


《そして、パンダーが!飛んだぁぁぁぁ!》


 パンダーが宙を舞う。


 ラントールは、息を吹き返し、動き出した――。



     ◇ ◇ ◇ ◇



 トールは、大木の幹に体を埋めていた。


 背中に激痛が走り、魔獣の攻撃を受けた腹は、赤く染まっている。死んでもおかしくない一撃のはずだったが、意外と大丈夫な様だ。


「いたたた。キールよ、大丈夫か?」


 トールが口の汚れを指の腹で拭き取り、キールを確認した。すると、スーツの一部が変形して、親指を立てた。

 キールが無事な様で、トールは安心した。


「そうか。この感じ、久々だ。リングの上を思い出すぜ。血が(たぎ)るってもんよなあ!キール!」


 トールは、大木の幹から地面に降り立ち、血の混じった唾を吐く。


「おい!みんな離れてろ!思いっ切りやるからな!っはっは!」


 全員が心配そうに、トールに振り向いた。


「えっまじ?」と、シンは、トールの正気を疑った。


 その沢山の視線の間を、トールは堂々と歩き、体に勢いをつけ始める。


「っしゃあ!」


 トールは、まずゆっくりと走り出し、徐々にスピードを上げて行く。――随分と遠くまで飛ばされたものだ。


 それからトールは、肩からマントを掴み上げ、体からキールを剥ぎ取った。そして、そのまま勢い良く、魔獣に向かってキールを投げつける。


 キールは、千秋楽の座布団かの如く、くるくると宙を回って飛んで行く。

 その様子を見守る全員が、息を飲んだ。まさか、バディーを投げつけるとは、誰も予想出来なかったはずだ。


 魔獣は、キールを警戒するも、キールは、弧を描いて魔獣から外れ、上空へと飛んで行った。

 魔獣の目が上を向いたその隙を突き、猛スピードでトールが魔獣の懐に突っ込んで行く。


絆技(シナジースキル)・影分身』


 キールの姿が輝き、トールの形に変形する。


 トールを迎え討とうとする魔獣に対し、キールが上空から叩きつけ(スタンプ)をした。


 魔獣の背中が沈み、顎が上がる。

 その上がった顎に向けて、トールが下からアッパーで攻める。


 バキッ!


 トールのメリケンサックが、魔獣の顎をぶち上げるも、魔獣が決死の覚悟で、反撃に出る。

 前足の爪を振り下ろし、トールを切り裂こうとするが、トールは、魔獣から距離を取り、爪は空を切った。


「おっと。今のを外したら、終わりだぞ?」


 上体を反らしたトールが、涼しい顔をして言った。

 そこで、最初の魔獣で見せた攻撃と同じパンチが、魔獣の横っ面に襲い掛かった。その攻撃は、トールの姿を模した、キールの拳だ。

 魔獣の顔面が跳ね上がった。そこへ、すかさず反対側からトールが同じ様に殴る。


「おらー!」


 バシッ。バシッ。バシッ。バシッ。


 魔獣の顔面が、左から右、右から左へと、メトロノームの様に吹っ飛ばされる。


 そして、最後に、魔獣の正面で、ふたつの体がひとつになる。眩い輝きを放って合体する。



必殺技(シンパシー)正義の雷(ミョルニル)



 トールマンの拳が、魔獣の眉間を撃ち抜いた。


 嵐の吹き荒れる雷雲から落ちた、一筋の稲妻の如く、青空の下に轟音が鳴り響いた――。

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