シナジー(3)
しばらく走ると、二台の馬車が見えてきた。一台は、真横に倒れて荷物が散乱している。
そして、大きな猫科の様な魔獣が、武器を持った男達を取り囲んでいた。
「はぁ、はぁ。あ、あれじゃない?」
ダンが息を切らせて指差すと、トールの走るスピードが上がり、一人で先に行ってしまった。
「がっはっは!ここは、おれに任せろ!軽く捻り潰してやるぜ!」
気合いを入れて、両手の拳に付いたメリケンサックを突き合わせると、眩しい火花が散った。
(……ヒーローなんだよな?まるで悪役の台詞じゃん。しかも、やられ役の。)
トールの背中を見送りながら、そう思ったシンは、足を止めて膝に手を突いた。
「はぁ、ちょっと息を整えてから、参戦しよう。流石レスラーだよな。体力が違い過ぎる。ホノカは、大丈夫?」
「ええ。でも、早く行かないと、あの人が全部倒してしまいそう。」
体力が無いのは、ゲーマーの二人だけなのかもしれない。
ホノカは、息も切らさず涼しい顔をしたまま、馬車の方を眺めた。その視線に釣られて、シンも顔を向ける。
「それは、流石に……。」
トールは、既に戦い始めていた。
「トールマン参上!」
トールは、キールと合体したままの状態で、魔獣にハルバードを振り回している男性の隣に現れた。覆面の中から、熱い眼差しを魔獣に向ける。
「がっはっは!みんな!俺が来たからには、安心してくれぇ!」
トールは、叫ぶと、ムキムキの太い右腕を前に掲げて、拳を握り締めた。その閉じた大きな指には、黄金のメリケンサックが掛かってる。
「名乗りは、いいから!早く手を貸してくれ!防戦一方でよっ……くっ!」
そう叫ぶ彼の名前は、根路山 カゲミチ。ブリキの人形の様な小さなロボットのバディー『ボルト』と一緒に、魔獣と戦っている。
ボルトは、全長50センチぐらいだろうか。非常に小さい。その小さな腕を前に出し、そこから電撃を放射して、魔獣が近づけない様に威嚇している。当たると痛そうだが、殺傷能力は、低い。
カゲミチが、ハルバードの切先を魔獣に向けて突き刺す。しかし、大きな魔獣の前脚が、軽々と刃を弾く。
「おうおう!任せろ!トールパンチ!」
トールは、ドデカいライオンの様な魔獣の顔面を、横から撃ち抜き巨体を浮かす。
――ゴンッ。と、鈍い音を上げると、魔獣の脳が揺れ、白目を剥く。
トールは、そのまま魔獣の首根っこを掴み、ライオンのタテガミを逆さまにして、地面に叩きつけた。地面に「ズーン。」と、衝撃が走り抜ける。
「がっはっは!所詮、猫!次ぃぃ!」
トールは、景気良く笑うと、次の魔獣に顔を向けた。
その光景を見て、戦っていた三人は、唖然とした。今までの苦労は、何だったのか。夢でも見ているのではないかと、目を疑った。
そこへ、シンたちが到着した。
「大丈夫ですか?」
シンが声を掛けると、大きな四角い盾を構えた男性が返事をした。短い黒髪で、鼻や顎が少し角張っている。
「何なのだ、あの人は?」
その角張った顎が、外れそうな程に、口を大きく開いた彼は、相仲 マモル。そして、彼のバディーは、『ケシル』。カエルの様な顔をした二足歩行の生物だ。細い腕で杖を持ち、樽の様な大きな体には、僧侶を連想させる様な布を纏っていた。
「トールキック!」
今もトールは、トールマンとして、魔獣に攻撃を仕掛けている最中だ。
「プロレスラーのラントールですよ!知ってますか?」
シンが嬉しそうに教えると、ナッチが思い出したかの様に言った。
「ああ!何代目なのかは、忘れたけど!竹林竹薮パンダーと、良く戦っている人だ!」
それを聞いたマモルは、「ああ。」っと、知っている素振りを行った。
魔獣を軽く蹴り飛ばしているトールを見ながら、カゲミチが聞く。
「みんなあんなに強いのか?流石に自信無くすぞ?手こずっていた俺たちが、馬鹿みてえじゃねーか……。」
「あー、えっと。あの人がおかしいだけだよ……多分。」
「お前、いい奴だな……でもよ、女も一撃で、叩き斬ってるんだわ。」
カゲミチは、トールが倒した魔獣にハルバードを突き刺してトドメを刺した。
「え!?ホノカ!?」
シンが振り返ると、先程の木の葉の様に、二つに切断された大きな虎の魔獣の死骸があった。
そこには、刀を抜いたホノカが、周囲を見渡して立っていた。一体だけでも倒せたことに満足した様子で、穏やかな表情をしている。
――次の瞬間。
シンの視界の上を、何かが横切った。
どーん。と、鈍い音がする。すぐにシンは、その正体を確認した。
なんと、そこには、吹き飛ばされたトールが、大木に背を打ち付けられていた。
「えええ!?トールさん!?」
シンは、心配しながらも、トールが飛んで来た方向を見る。
先程とは、別のライオンの様な魔獣が、地面に腰掛けている。一際大きく、鋭い爪の付いた前足で、優雅に顔を洗っていた。――あいつに吹き飛ばされたのか。
マモルが盾を構えて、シンの前に進み出た。
「奴が、群れのボスだ。手下に相手をさせて、ずっと、後ろで見学していたんだ。最初から奴が動いていたら、俺たちは、君たちが駆けつける前にやられていただろうな。」
シンは、マモルの大きな背中から、魔獣を良く眺めた。
顔を洗い終わった魔獣が、大きな腰を上げて立ち上がり、ただならぬ気配を醸し出す。鋭い牙を見せて吼える――。
『ガオオオオオ――。』




