シナジー(1)
そこで、町の入り口の方から、声が掛かった。
「おーい。」
図体の大きなおじさんが、ひらひらとした布の様なバディーと、こちらに向かって来る。
シンたちが、集まって何をしていたのか、気になったみたいだ。
「お前たちは、こんな所で何をやってんだ?」
ボサボサの短髪に無精髭のおじさんは、熊の様に大きな体をしている上に、上裸だ。鍛え上げられた胸板は、分厚く、ギャランドゥーが、ヘソの上の方まで真っ直ぐに走っている。
一応、上着は持っているみたいで、支給された背嚢と一緒に、肩に担いでいた。
「あ、どーも。」
ダンが、軽く挨拶をした。
すると、おじさんが、シンを見て首を傾げる。
「ん?兄ちゃん、どうかしたか?」
シンは、おじさんの姿を見て、目を見開いて慄いていた。震える指先を大男に向けて、必死に声を張る。
「……らっら!」
「ラ?」と、ダンも首を傾げた。
「――ラントール!」と、シンが、そう叫んだ。
「はゐ?」
ダンは、意味が分からず、もう折れてしまいそうなぐらいに、首を傾げた。
そんなダンに向けて、シンは、必死の形相で訴える。
「ラントールだよ!ラントール!プロレスラーの!」
「がっはっは!兄ちゃん、俺のことを知っているのか。マスクもしていないのに、良く分かったな!っはっは!」
ラントールこと、雷道 トオルは、豪快に笑い飛ばした。
「いつも場外で暴れるヒールっぷり!最高です!」
俳優に会った時も、バスケットボール選手とすれ違った時も、控えめだったシンにしては、珍しい反応だった。
「僕は、シンちゃんが、プロレスを観てたことにビックリだよ。」と、ダンは、嬉しそうなシンを見て呆れた。
「だが、今は、トールと呼んでくれ。ここで悪役を演じるつもりは、ないからな。あと、こいつは、キールだ。」
トールは、小さな布の背中を、大きな手で優しく押した。
キールは、顔や手足などの無い、ただの白い布だ。子供がシーツを被ったみたいに頭を動かし、布の端っこを、二本の脚に見立てて地面に直立している。が、実際は、お化けの様に浮いているだけだ。
すると、そこで、シンの視界に文字が浮かび上がった。胸の前方に色の透けた文字が、横並びになって浮いている。
キール「キールです。よろしくお願いします。」と、視界の邪魔にならない様にして書いてある。
シンは、驚いた顔でその文字を見たが、ダンは、このチャット機能を知っていたみたいだ。
この自分宛の文字は、自分にしか見えていないらしく、ダンは、これを使って、カブトと会話をしていたようだ。
「よろしくお願いします。トールさん、キール。おれは、シン。こっちは、ダンで、バディーのホノカとカブトです。」
シンは、自己紹介を終えると、ここでどんな会話をしていたのかを、手短にトールに説明した――。
「なるほどな。バディとの絆力か。」
シンたちの話を聞いて、トールは、髭のある顎に手を添え、考える素振りを取った。
シンは、すかさず聞いてみる。
「トールさんは、何か思い付きます?出来そうなこととか。」
「むぅ。キールは、伸縮自在で、色んな形になれるからな。思いつくのが、ひとつあるぞ。キール!」
トールは、善は急げとも言わんばかりに、行動を起こす。トールがキールを呼ぶと、キールが変形しながら、トールに纏わり付いた。
そして、トールが決めポーズを取る。
「――どうだ!?」
無精髭はそのままに、顔の上半分を隠すマスク。上裸を覆うスーツ。
そして、肩から下がる、ひらひらのマント。
そのすべてが、キールの変形した姿だ。
トールが自信満々に聞いてくるも、反応に困る。
「えっと〜、プロレスっすか……?」
「がっはっは!惜しいな。誰が好き好んで悪役をやると思う?やるなら、正義の味方だろう!なっはっは。」
覆面スーツのトールが、腰に手を当てて高笑いした。
ダンは、開いた口が塞がらないみたいだ。
「トールさん!それ、最高っす!」
シンは、ノリノリだった。
「普段は、悪役ばかりだろ?本当は、ヒーローがやりたかったんだよな!っはっは。」
マントの裾が矢印の形になり、上を指し示す。
「なんだ?キール。飛べってか?よし。とう!」
トールが空に飛び上がる。
もちろん、ポーズは、左手を前に突き出して、右手は腰に当て、背筋から足の先までを、真っ直ぐに。
空を飛ぶその姿は、正に、スーパーヒーローそのものだ。ただひとつ、スピードを除けば、だが……。
「おお!どうだ!飛べたぞ!」
無邪気に叫ぶトールの空を進むスピードは、歩く速さよりも遅い。カブトが興味津々に、トールの周りを倍以上の速さで飛んでいる。
その姿を、シンは、全力で応援する。まるで、ファンボだ。
「トールさん、飛んでるよ!」
シンの隣では、ダンとホノカが、楽しそうに飛ぶトールを見上げて、冷静な判断を下していた。
「何か遅くない?」
「遅い…ですね……。」
「がっはっは!遅いか?しかし、この高さでも、意外と飛ぶのは、怖いものだな!っはっは。」
確かに、あの高さから落ちると痛そうだ。
しかし、落ちる速さの方が、数倍は速いだろう。
空を飛ぶトールを、羨ましそうに和気藹々と眺めていると、「誰かぁ!助けてぇー!」と、北の道から、助けを求める声が聞こえてきた。――ヒーローの出番か!?




