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ルーク...2


「……というわけで」


受付嬢――ミリアは、死んだ目で言った。


「レイラさんの冒険者登録なんですが」


ギルド長室。


重苦しい空気だった。


レイラは椅子へ座り、静かに待機している。


ノアはソファで菓子を食べていた。


ルークは窓際で笑いを堪えている。


そして机の向こうでは、筋骨隆々の大男が腕を組んでいた。


ラウル支部ギルド長、グラン。


歴戦の元A級冒険者である。


そんな彼が今、非常に難しい顔をしていた。


「……測定器を二つ壊したと」


「はい」


「模擬戦でルークを吹き飛ばしたと」


「はい」


「森を消したと」


「事故だ」


レイラは真顔で訂正した。


グランは頭を抱えた。


「事故で済ませる規模じゃねぇんだよなぁ……」


その通りだった。


ルークが楽しそうに口を挟む。


「いやー、マジで凄かったですよ。俺ちょっと死ぬかと思った」


「生きているな」


「そこが怖ぇの」


ルークは笑う。


グランは深くため息を吐いた。


「嬢ちゃん、本当に何者だ?」


「旅人だ」


「旅人強すぎねぇ?」


「よく言われる」


言われ始めたのは昨日からだが。


グランはレイラをじっと見る。


鋭い目だった。


長年修羅場を潜った男の目。


だがレイラは逸らさない。


やがて。


「……まあいい」


グランは諦めたように椅子へ寄りかかった。


「問題はランクだ」


冒険者ランク。


下からF、E、D、C、B、A。


そして一部の化け物だけが到達するS級。


通常、新人はFランクから始まる。


だが。


「Fは無理だな」


グランは即答した。


「その辺の新人じゃ一瞬で死ぬ」


「死なん」


「お前じゃなく周囲がだ」


酷い言われようだった。


レイラは少し傷付く。


ミリアが恐る恐る書類をめくる。


「で、でもいきなり高ランク認定は規則が……」


「だよなぁ」


グランは唸る。


するとルークがにやにや笑った。


「じゃあB級くらいでいいんじゃね?」


「軽く言うな馬鹿」


グランが即座に突っ込む。


B級は上位冒険者だ。


街一つ守れる実力者。


普通は何年もかかる。


しかし。


全員の脳裏に、さっきの模擬戦が蘇る。


ルークを素手で吹き飛ばした女。


しかも加減したと言っていた。


「……Bでも足りなくないか?」


誰かが呟いた。


空気が静まる。


レイラだけが分かっていなかった。


「そんなに難しい話か?」


「難しいんですよ!!」


ミリアが叫ぶ。


「前例がないんです!!」


「そうか」


「そうです!!」


レイラは少し考えた。


そして。


「では最低ランクでいい」


全員が固まった。


「……は?」


「私は目立ちたくない」


真顔だった。


ルークが吹き出す。


「ぷっ……くくっ……!」


グランも額を押さえた。


「無理だろ」


「何故だ」


「お前、自分がどれだけ目立ってるか分かってねぇのか?」


「……?」


本気で分かっていなかった。


ノアが元気よく手を挙げる。


「レイラ姉ちゃん超目立ってるぞ!」


「そうなのか」


「うん!」


「…………」


少しショックだった。


レイラは静かに視線を落とす。


目立たず静かに生きる予定だったのに。


まだ二日目でこれである。


するとグランが咳払いした。


「とりあえずだ」


彼は書類へ何かを書き込む。


「特例でDランクから始めろ」


ギルド内がざわついた。


「D!?」


「新人で!?」


「あり得ねぇ……!」


ミリアも目を見開く。


「ギ、ギルド長!?」


「Bは規則的に無理だ。だがFやEはもっと無理だ」


正論だった。


グランはレイラを見る。


「文句あるか?」


「ない」


レイラは素直に頷く。


ランクに拘りはない。


するとミリアが震える手でギルドカードを差し出した。


「こ、こちらが冒険者証です……」


銀色の金属板。


そこには。


『レイラ Dランク』


と刻まれていた。


レイラはそれを見つめる。


不思議だった。


騎士団を失った自分が。


またどこかへ所属している。


ほんの少しだけ胸がざわついた。


だが。


「よし!」


ルークが突然立ち上がった。


嫌な予感がした。


「初依頼行こうぜ」


「依頼?」


「冒険者になったんだから当然だろ?」


少し考える。


確かにその通りだった。


「ちなみに何の依頼だ」


ルークはにやりと笑った。


「最近この辺で暴れてる大型魔物討伐」


ミリアが青ざめる。


「ちょっ、待ってください!? あれB級推奨ですよ!?」


「大丈夫大丈夫」


ルークは軽い。


「レイラだし、俺いるし」


「基準がおかしいんですよぉ!!」


悲鳴が響く。


グランはもう止める気がなかった。


むしろ遠い目をしている。


「……まあ、被害が街じゃなければいい」


「諦めた!?」


ミリアだけが最後まで常識人だった。


レイラは静かに立ち上がる。


「魔物討伐か」


騎士時代を思い出す。


剣を握り、誰かを守るため戦っていた日々。


胸が少しだけ痛んだ。


だが同時に。


「……悪くない」


ぽつりと呟く。


ルークが聞き逃さなかった。


「お、今ちょっと楽しそうだったな?」


「気のせいだ」


「顔柔らかかったぞ?」


「気のせいだ」


「へぇー?」


面倒くさい男だった。


ノアがぴょんと飛び上がる。


「俺も行く!!」


「駄目だ」


即答した。


「危険だ」


「えー!?」


「えー、じゃない」


珍しく強い口調だった。


ノアは頬を膨らませる。


するとルークが笑った。


「母親みたい。それか、父親」


「誰がだ」


「レイラ」


「違う」


即答だった。


だが周囲は妙に納得した顔をしていた。

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