ギルド
「うおぉ……」
ノアが目を輝かせた。
レイラは街の入口で足を止める。
石造りの外壁。
行き交う人々。
荷馬車の列。
辺境とはいえ、それなりに活気のある街だった。
「ここがラウルの街だ!」
ノアは元気よく両手を広げる。
結局、彼は付いてきた。
「案内する!」と言って聞かなかったのである。
「……村の手伝いはいいのか」
「今日は休み!」
元気だった。
レイラは小さくため息を吐く。
その隣では、村長バルトが疲れ切った顔をしている。
「絶対問題起こさないでくださいね……?」
「多分大丈夫だ。」
「昨日も聞いたんですよその台詞!」
信用がなかった。
当然である。
森を消した女なのだから。
「とりあえず冒険者ギルドへ行きましょう。登録すれば身分証も発行されますから」
「分かった」
頷き、街の中へ入る。
すると。
ざわっ。
周囲の空気が微妙に揺れた。
「……?」
人々が距離を空けている。
理由は明白だった。
セレナの威圧感である。
黒髪、長身、鋭い目。
しかも無表情。
普通に怖い。そのうえ本人に自覚はない。
「なんだあの姉ちゃん……」
「冒険者か?」
「いや、にしてはあれは……」
ひそひそ声が聞こえる。
セレナは気にしなかった。
慣れている。
騎士時代も大体こんな感じだった。
やがて。
「ここです」
巨大な建物の前へ辿り着いた。
木製の看板。
交差した剣と盾の紋章。
冒険者ギルドだ。
中へ入った瞬間。
酒と汗の匂いが鼻を突く。
荒くれ者達の笑い声。
依頼書が並ぶ掲示板。
武器を背負った冒険者達。
典型的なギルドの風景だった。
そして。
ギィ、と扉が開いた瞬間。
静かになった。
「…………」
冒険者達の視線が一斉にレイラへ集まる。
少し居心地が悪くなる。
「……見られているな」
「そりゃ見るでしょ……」
バルトが小声で言った。
すると奥から受付嬢がやって来る。
栗色の髪をまとめた女性だった。
年齢は二十代前半くらい。
「ようこそ冒険者ギルドへ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
営業スマイルだった。
だがレイラを見た瞬間、少しだけ引きつる。
「登録をしたい」
「かしこまりました」
受付嬢は笑顔を維持したまま書類を取り出す。
プロだった。
「お名前を」
「セ……レイラ」
危なかった。
元の名を言いかけた。
「セレイラさん?」
「…レイラだ」
沈黙。
受付嬢が困惑する。
するとノアが元気よく言った。
「森壊しのレイラ姉ちゃん!」
「ノア」
「えっ」
受付嬢が固まる。
周囲の冒険者達もざわついた。
「森壊し?」
「なんだそれ」
「二つ名か?」
違う。
レイラは頭を押さえたくなった。
バルトが慌てて口を挟む。
「ち、違いますからね!? 本当に壊しただけですから!!」
「もっと駄目では?」
受付嬢が真顔になった。
空気が微妙に不穏になる。
レイラは静かに言った。
「事故だ」
「事故で森が壊れるんです?」
「私も驚いている」
「はぁ……」
受付嬢は理解を諦めた顔をした。
「と、とりあえず登録試験を行いますね」
「試験?」
「はい。簡単な能力測定です」
嫌な予感がした。
案の定、受付嬢は奥から黒い水晶を持ってくる。
「こちらへ魔力を流してください」
「壊れないか?」
「え?」
「いや、何でもない」
セレナは慎重に水晶へ触れる。
ほんの少しだけ魔力を流した。
本当に少し。
瞬間。
――パキィンッ!!
水晶が爆散した。
「…………」
沈黙。
ギルド中が静まり返る。
受付嬢の笑顔も止まった。
ノアだけが大興奮している。
「うわぁぁぁ!! また壊した!!」
「また?」
受付嬢がゆっくり振り向く。
バルトが顔を覆った。
レイラは水晶の残骸を見つめる。
そして真剣に言った。
「……老朽化ではないか?」
「そんなわけありますかぁぁぁぁ!!」
受付嬢の絶叫が響いた。
冒険者達がざわめき始める。
「なんだあいつ……」
「測定水晶を一瞬で?」
「化け物か?」
「S級か……?」
レイラは少し傷付いた。
化け物扱いは二度目である。
受付嬢は引き攣った顔のまま別の水晶を持ってくる。
「こ、今度はもっと弱くお願いします……!」
「善処する」
不安しかない返事だった。
レイラは今度こそ慎重に魔力を流す。
羽に触るくらいの力加減。
すると水晶が眩く輝き始めた。
白。
青。
赤。
緑。
次々色が変わる。
そして。
――ボンッ!!
煙を上げて燃えた。
「…………」
受付嬢が崩れ落ちた。
「またぁ……」
泣いた。
レイラは困惑する。
「なぜ泣く」
「測定器二台目ですぅ……!」
「弁償しよう」
「できるんですか!?高いんですよ!?」
「多分」
「多分!?」
ギルド内が騒然としていた。
その時。
奥の席から、くつくつと笑い声が聞こえた。
「はは……これはまた、とんでもないのが来たな」
レイラが視線を向ける。
そこには、一人の男が座っていた。
茶色い髪。
眠そうな目。
軽薄そうな笑み。
ローブ姿の魔術師。
男は頬杖をつきながら、面白そうにレイラを見ていた。
そして。
「なああんた」
にやり、と笑う。
「本当に人間?」




