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新生活・レイラ


身体が重かった。


……背中が硬い……


「生きてる……地面?」


セレナはゆっくり目を開ける。


視界いっぱいに広がっていたのは、青空だった。


木々が揺れている。


鳥の声。


草の匂い。


どうやら森の中らしい。


「ここが……転生先か」


身体を起こそうとして、妙な違和感に気付く。


軽い。


異様なほど軽い。


試しに手を握ると空気が弾けるような音がした。


――パンッ!!


「…………」


自分の手を見つめる。


何もしていない。ただ握っただけ。


なのに衝撃波みたいなものが出た。


「……なるほど」


全く分からん。


セレナは真顔で結論を出した。


その時だった。


ぐぅぅぅぅぅ……。


腹が鳴る。


「…………」


そういえば処刑されてから何も食べていない。


いや、死んでいたのだから当然なのだが。


「まずは食料か」


セレナは勢い良く立ち上がった。


瞬間。


――ドゴォンッ!!


地面が爆発した。


「…………」


セレナの立っていた場所を中心に、半径数メートルの土が吹き飛んでいる。


本人はただ立ち上がっただけだった。


「…………」


少し考える。


「……これが身体強化か」


加減を間違えたらしい。


女神の最後の言葉を思い出す。


『力加減だけは本当に気を付けてくださいね』


「加減を間違えたのはどっちなんだか……」



セレナは崩れた地面から這い上がる。


とりあえず歩いてみようと一歩踏み出した。


――バキッ!!


地面が割れた。


「……」


そっと次の一歩。


――ミシィッ!!


木の根が砕けた。


「…………」


恐る恐る歩く。


森が揺れる。


完全に不審者だった。


数分後。


「グルルル……」


低い唸り声が響いた。


セレナが顔を上げる。


茂みの奥から現れたのは、巨大な狼だった。


赤黒い毛並み。


鋭い牙。


普通の狼ではない。


魔物だ。


セレナは目を細める。


「魔狼か」


騎士時代に何度も見た。


群れで村を襲う厄介な魔物。


だが一体だけなら脅威ではない。


……以前のセレナなら。


魔狼は獲物を値踏みするように近付いてくる。


唾液を垂らしながら。


そして。


飛びかかった。


速い。


常人なら反応すらできない速度。


だがセレナは冷静だった。


「ふっ」


軽く拳を突き出す。


本当に、軽く。


その瞬間。


――ゴバァッッッ!!


空気が爆発した。


突風が森を薙ぎ払う。


木々が吹き飛び。


地面が抉れ。


数秒後。


セレナの前方だけ、綺麗に森が消えていた。


「…………」


静寂。


風だけが吹いている。


魔狼は。


跡形もなく消滅していた。


「…………」


セレナは拳を見る。


そして。


「……少し強かったか」


少しではない。


完全に災害だった。


しかも問題はそこでは終わらない。


森が消えたことで、遠くに村が見えてしまった。


さらに。


「な、なんだぁぁぁぁぁ!?」


「森が吹き飛んだぞ!!」


村人達の悲鳴まで聞こえてくる。


セレナは固まった。


「……まずい」


本能的に理解する。


これは絶対に目立つ。


静かに暮らすどころではない。


その時。


「うわぁぁぁぁ!!」


小さな悲鳴。


セレナが振り向く。


倒木の向こう。


十歳くらいの少年が尻餅をついていた。


茶色い髪。


ボロボロの服。


腰が抜けているらしい。


「……子ども?」


セレナは近付こうとする。


ズシン。


地面が揺れた。


少年が涙目になる。


「ひっ」


「……すまない」


セレナは慌てて足を止めた。


すると少年は、震えながらセレナを見上げる。


そして。


「お、お姉ちゃん……」


「?」


「すっげぇ強ぇ……!!」


目を輝かせた。


「…………は?」


予想外の反応だった。


普通は怖がるだろう。


森を吹き飛ばした女だぞ。


だが少年は興奮していた。


「今の見た!? ドガーン!って!!」


「いや、あれは事故で」


「かっけぇぇぇぇ!!」


少年は立ち上がる。


目が完全に尊敬のそれだった。


「お姉ちゃん冒険者!?」


「違う」


「騎士!?」


セレナの表情が僅かに曇る。


だが少年は気付かない。


「名前は!?」


「……」


その時、初めて気付く。


しまった。新しい名前が分からない。


"ステータスオープンと唱えて見れますよ"


どこからかあの女神の声がした。


ステータスオープン


___________

名前:レイラ

年齢:16

種族:亜神

職業:無職

体力:∞

魔力:∞

属性:全属性

スキル:不老不死、状態異常耐性、呪耐性、毒耐性、身体能力強化、鑑定、空間魔法、言語能力強化、器用

加護:創造神ミレイアの加護


メッセージ:身体能力強化間違えたから直しといたよ!


___________


創造神…間違え……間違え…ほう。


「姉ちゃん?どうした?」


「いや、なんでもない。レイラだ。」


「俺ノア! よろしくな、レイラ姉ちゃん!」


妙に人懐っこい。


セレナ……もとい、レイラは困惑する。


子どもは苦手だ。


どう接すればいいか分からない。


だがノアは気にせず話し続ける。


「なぁなぁ! 今のもう一回やって!」


「断る」


「えー!」


「森が消える」


「もう消えてるじゃん!」


「…………」


確かに。


レイラは押し黙った。


その時だった。


「おいノア!! 無事か!!」


村人達が駆け込んできた。


男達は皆、青ざめていた。


当然だ。森が消し飛んだのだ。


だが。


「……え?」


彼らは立ち尽くす。


そこにいたのは、黒髪の女が一人。


そして。


後方には一直線に消滅した森。


どう考えても異常だった。


村人達の視線がレイラへ集まる。


沈黙。


重い空気。


レイラは考える。


どう誤魔化すべきか。


するとノアが満面の笑みで叫んだ。


「聞いてくれよ! この姉ちゃんが森ぶっ飛ばしたんだ!!」


「ノア」


「すっげー強いんだぜ!!」


「ノア」


「魔物もドカーン!!って!!」


「ノア」


全く止まらない。


村人達の顔色が引き攣っていく。


レイラは静かに空を見上げた。


――隠れたい。


まだ転生一時間も経っていなかった。

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