兵器の中身。
「何者だ」
『……』
「加減をしたのか。そもそも伝説を使えないのか、どちらだ」
『……』
「黙りか」
返答はない。兵器なのだから当然とも言える。
しかし……なんだ、この気配は。
「そ、そいつは俺の武器だ!」
「黙れ、お前には聞いていない」
「ぐっ……」
もう2、3発殴るべきだろうか。いや、死んでしまっては元も子もない。
魔法は使い慣れているが、肉体での戦闘はあまり得意ではないからな。
ほしびとと戦うように殴ってしまって、頭が割れたらたまったもんじゃない。
また兵器と向き合おう――と目線を戻した時だった。
視界の端に、少しだけ光を見た。光源は、あの男。
頭が「まずい」と理解するよりも先に、その光――雷撃は私の体を撃っていた。
焼けるようだが、雷撃による刺すような痛みも伴ったそれが、私の全身を覆い尽くす。
「使えないなら、俺自身で――」
もう一撃を放とうと、魔力を練っている。
しかし、男の攻撃よりも、私の魔法のほうが早く出た。
床から突如として生成された――ツタ。意思を持つかのようなそれは、器用に男を床に縫い付けた。
しっかりと頭部まで地面に抑え込み、動きを封じている。
首元にも1本、ツタを行き渡らせれば動かなくなった。
少しでもこちらを見ようと顔を上げれば、喉にツタが食い込むのだ。流石に生命の危機を感じれば、阿呆男とて動きを止める。
「あっ……グッ……」
「黙れ、と私は言ったのだぞ」
「うぐっ……」
「そもそも兵器の力はお前の力ではない。作ったのならばまだしも、そうでもないだろう。それに――」
――それに、私の体はもう回復が済んでいる。
受けた瞬間は痛みを感じたが、それだけだ。長い間苦しめられない。
魔法使いとしては、たしかに優秀だろう。あの雷撃であれば、多くの魔獣や、敵を屠れるはず。
だが私を殺すなら、甘い。弱い。
先程の瓦礫のほうが優秀だったと言ってもいいだろう。
「この程度の魔法しか使えん人間が、世で最も強いとはよく言えたものだ」
「おまぇ、だっで……」
「ほう。この期に及んでまだ勝つつもりでいるのか。その心意気やよし」
一生の短い人間としては、向上心、探究心の強さを褒めてやろう。
しかし、他の種族と比べて弱い人間種にしては、危機感や警戒心、猜疑心が薄すぎるな。
あとは慢心か。そこを改善するべきだな。
この点を伸ばしていけば、きっと男の言う『最強の魔法使い』とやらになれるはずだ。
……ふむ。そう考えると、伸びしろの有る魔法使いか。
おっといけない、弟子を一気に2人持ったせいで色々と考えてしまう。
今はこの兵器について知りたいのだ。
「……高純度の魔力だ。中から溢れている」
観察していれば、異様な気配が魔力だと感知できた。
しかし人間の魔力とは違う。澄んでいて、余計なものが混ざっていない。
それにこの兵器、人間の形を取っているが、構造的に人間が入れるサイズではない。
ところどころ人間らしからぬ細さをしている部分もあるし、デザイン的にも中に人間が入って動けるはずがない。
ではこうしてみよう。
――〈盗賊の神の秘技〉。
神域魔法たる鍵開けの魔法を用いれば、兵器の胸部が開いた。
中にいたのは――
「……妖精?」
中にいたのは、3匹の妖精だった。
透明な羽根に、整った顔立ち。エルフを小さくしたようなその姿。
文献で見た通りの容姿であり、前世のアニメや映画で見るようなあの妖精と似ている。
違うところがあるとすれば、弱々しく座り込んでいるところだろう。
『……みて、開いたわ!』
『外よ……!』
『わぁ……!』
普通の妖精なら、人間を見つけるなり周りを飛び回る。それだけで飽き足らず、くすくすと笑いながら飛ぶのだ。
だが兵器の中にいる彼女たちは、中にある柱や支えにもたれかかり、ぐったりとしている。
「お前達はなぜここにいる」
『わたしたちの言葉がわかるの? 今の人間って、妖精語も理解できるのね』
『300年よ! 暗くて狭くて、ずっとずーっといたの!』
『時折、体が痛くなるの。指示された魔法を使わないと、とても苦しいの』
なんて素直なんだろう。
本を読んだだけでも、相当ないたずらっ子だと分かる妖精たちだが、この兵器の中に閉じ込められていた3匹は違う。
長い間閉じ込められ、魔法を強要され、精神が崩壊した――といったところだろうか。
一体誰が、こんなむごいことを。
とにかく、このまま中に居てはならない。
「抱えても構わないか」
『ええ!』
『優しい人間!』
『外の空気だわ!』
私は3匹をそっとすくい上げて、兵器の中から取り出した。
妖精がここまで弱ることなど、文献でも滅多に見ない。今の今まで強制労働をさせられて疲れている。
壊れないように、苦しくならないようにと、優しく腕の中におさめる。
近くで見れば、この兵器の異常性がよりはっきり分かった。
本来いるべき場所にいる妖精は、たっぷりと魔力と神聖な力を浴びて、健康的だ。
この3匹は、いわば栄養失調。
がりがりにやせ細り、魔法を放ち続ける激務で肌もボロボロ。きらきらと光るはずの羽根すら、霞んで見える。
「お前達が嫌でなければ、我が家で療養してから精霊の森に連れていく」
『……家に、戻れるの?』
『嬉しい……』
『嬉しい、嬉しいわ!』
……素直すぎる。ここまで純粋に笑顔を向けてくる妖精がいるのか。
私が知らないだけならばいいのだが、これがこの兵器による影響ならば考えものだ。
これを作った人間、もとい出どころを調べねば。




