お披露目。
一体ここは、地下何階分だろう。
施設は随分と地下の地下まで落ち、テナの姿も見えず、声も届かなくなってしまった。
「こんなギミックがあったとはな」
返答はない。無視されている。
そもそも対話を求めてはいないし、できる相手だとも思っていないが、腹が立つ。
私は私で、乏しい知識を活用して考えてみようか。
土地を作り替える魔法があったはずだが、あれは伝説を上回る力が必要だ。
低い位の魔法でも発動はできるが、土を盛り上げたりなどの簡素なもの。
この目の前の男が、はたしてそんな力を持っているのか。
あれだけ用意周到に、禁忌魔法を売っていただけあって、下手すれば初めて出会う強者なのかもしれない。
私は死なないと確信していたが、もしかするとそれを上回る圧倒的な力を持っている可能性もある。
ああ、そう思うと心が躍る。
不安もあるが、未知への楽しさが強い。
「――……ふふふ、ふははははっ、アハハハハッ!」
急に男が、高らかに笑いだした。
「気でも触れたか」
「ふっ、お前には分かるまい! 低脳な人間が!」
「……」
「この力を見たからには、生かしておけない! お前はこれから、最初で最後の〝伝説魔法〟を見ることになる! 地獄への土産にな!」
訂正しよう。
この男は、私を殺せない。
少なくとも、私よりも上位の存在であるという可能性は消えた。
伝説魔法程度でこんなに自信満々になれる人間が、私よりも強いはずがない。
このガッカリ感。私が頭の中で想定していたよりも、期待していたらしい。
軽いショックで立ち尽くしていると、また高い笑い声が聞こえる。
「怖くて動くことすら出来ないか!」
楽しそうだな。私をガッカリさせておいて。
それに私が動こうとしないのは、死なないからだ。死ねないからだ。
さらに言えば、これから見られるのは知らない魔法かもしれない。
であれば一度、この目で見てこの体で受けるべきである。
魔法を見て覚えれば、使えるかもしれない。
「さあ、あの女をやれ!!」
そう言った瞬間、兵器が光った。
放たれた光線は破壊力を帯びており、私を含む、背後にあった壁を諸共破壊した。
一瞬しか見えなかったが、男には光の膜の保護がなされていた。奴は気づいていなかっただろうが。
術者もとい、主人を守る機能だろうか。
それに、炎や氷などの攻撃魔法と違い、光線はあっという間に〝着弾〟する。
光の速度の素早さは誰もが知っているが、やはり私にも対応しきれなかった。
私はすっかり瓦礫の下に埋もれ、身動きが取れない。
「は、はははっ、やった! やったぞ!」
降ってきていた壁や天井で視界は塞がれているが、楽しそうな笑い声はハッキリと届いた。
ふむ。手足、頭までもが痛い。
おそらく死亡を数えると、光線で1度、〝落石〟で2度、この激痛でまた数度死んでいることだろう。
ごほっと咳込めば、口から大量の血液が漏れ出た。内臓も幾つか死んでいるようだ。
どこも折れているし、どこも潰れている。
気分がいいとは言えないな。
「……死体の確認も、せず、追撃もない……。たった一撃で……ごほっ、勝利の余韻に浸れるとは。単純な頭だ……」
さすがの私も、これでは完治するのにも時間がかかる。
体の一部は瓦礫に押しつぶされ、回復と負傷を繰り返しているくらいだ。
内臓が戻ったら、無理矢理出るほかないだろう。
この間に、さっきの魔法を思い出すとでもするか。
魔法は英雄級だった。あいにくだが、知っている魔法。
しかし、火力は伝説魔法と張り合えるほどの強いものだった。
であれば変だ。兵器――つまり、命令通りにしか動かないものならば、そんなおかしな魔法を繰り出すはずがない。
伝説魔法をそのまま発動すればいいだけの話だ。
何かが欠けている、何かが間違っている――あの兵器は、一体何だ。
「俺が最も強い魔法使いだ!」
……まだ騒いでいるようだ。
私が必死に考えているのが馬鹿らしくなるほど、清々しい頭の悪さ。
こんな相手に、何を警戒していたのだろう。
さて、そんな間にやっと腹の中の感覚が戻ってきた。
吐血する回数も減り、手足の血肉も安定してきた。相変わらず、潰れたままだが。
そろそろ復帰してやるか。
「……っ、ふん!」
少し魔力を放出すれば、瓦礫は耐えきれずに高い音を立てて破裂した。
他の細やかな石となったものも、さらさらと砂状にまで砕け散る。
窮屈な瓦礫の下から出てこれた私の体は、待ってましたと言わんばかりに回復を進めた。
砂埃が少し残っているが、私の気に入っている肉体が元に戻る。
「は……?」
困惑している男に対して、丁寧に説明してやるほど私は優しくはない。
ブラムウェルだったらまだしも、ここまでの能無しでは話も通じまい。
私は男を無視し、兵器へと近付いた。
近付くほど不思議だ。どこの技術で作られたのか、全くわからない。
ただひと目見ただけでは、女性の形をとった鎧としか見えないだろう。しかも表面はキラキラと輝いている。
まるで宝石だ。
新しい技術なのだろうか。
「おま、おまえっ、なんで死な――な゛い゛ッ!」
黙っていればいいものを。
うるさかったので、右手を強く握りしめ、そのまま振りかぶった。
予想していなかったのか、ただただ運動神経がないのか。男は私の拳を、顔面のど真ん中で受け止めてくれた。
「うるさい」
「ひっ、う、はなぢ、いだ……っ、いだいっ! おま、殴っ……」
「……」
黙らせるために殴ったというのに。
今度誰かに、人を気絶させるための殴打方法でも学ぶべきか。
とはいえ殴られたことにより、萎縮している。態度が大人しくなっただけ、まだましだろう。
私は改めて、兵器に接近した。
すると兵器は、一歩後ろに下がった。まるで逃げているように。
「……意思があるのか?」




