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さすがに1000年は飽きたから。~引きこもりを謳歌した最強魔女は、外に出てみることにした~  作者: ボヌ無音
第三章 魔女、禁忌と呪い。

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研究施設。

 それから私は、音をたどって男を追った。

 辿り着いたのは開けた場所。実験所、研究施設にも似た広い空間だった。

 中には檻や、小瓶の並んだ棚、ところどころに飛び散った血液らしきものが見える。


 その中で、例のフード男を発見した。

 男はこれ以上逃げるつもりはないのか、それとも観念したのか。動く気配はない。

 男の前には、何かが置かれていた。

 人型のなにか――いや、仲間だろうか。


「大人しくしろ。これから騎士団も続いてやって来る」

「……」


 ――無視である。

 脅しをかけてみたが、効いている様子も、聞いている様子もない。

 こちらを一瞥することさえない。頷く様子も、気にかける動作も全くない。

 もしや、私の知らないうちに、新たなコミュニケーションの方法が確立されていたのだろうか。

 1000年というのは伊達ではないからな。


 そんな阿呆らしい説を真面目に考えていると、男は動いた。

 なにやら、目の前にいる仲間らしきものに触れ――部屋に充満する魔力が一気に、増幅した。


 まるで爆発だ。触れた瞬間、この広い空間に高濃度の魔力が放出された。

 勘のいいものならば気付けるだろうし、敏感な魔法使いであれば倒れてもおかしくない。

 明らかに人が浴びていいものではなかった。


「……っ! おい、それから離れろ!」


 私が強く言うと同時に、その仲間――否、兵器は動き出した。

 ガコン、と物々しい音を立てて、ゆっくりと。

 遠くてよく見えなかったが、人型というだけで単なる人形だった。

 人形兵器といったところか。あれだけの魔力を放出するほどの力を持つならば、兵器と称して問題ないだろう。


「撃て!」

「チッ」


 兵器というのは、やはり正しい表現だったようだ。

 フード男が命令すると、人形は戦闘態勢へと移行した。

 魔法が発動すると、細かく弾丸のように鋭く素早い攻撃が繰り出される。

 制御が上手くいっていないのか、私だけではなく背後や横にある物にも当たっている。

 しかしながらその強さは確かなものだった。

 威力からして、普通の人間ならば1,2発程度で死んでしまうだろう。


 私は弾丸を避けながら、盾魔法を展開する。

 この程度で問題ないだろう、と踏んだ英雄級ほどの魔法だったが、2発ほど当たると砕け散ってしまった。


「はははっ! 素晴らしい、素晴らしい力だ!」

「……狂ったか」


 ……想定していたよりも、弾丸の威力が尋常ではない。

 英雄級は、人類がかろうじて使用できる範囲の魔法だ。それが、たった数発で砕け散った。

 普通の人間の攻撃ならば、持久戦に持ち込んで相手の魔力が切れるのを待てるほど。


 あの兵器は、本当に人類が手にして――目にして良いものなのか。

 どう考えても、人間が触れて良い知識ではない。


 私は観察を続けながら、攻撃を適切に対処する。

 わざと当たることも考えていたが、これほどの威力のものならば考えものだ。

 よろめいて一瞬の無駄が生まれる。

 立ち止まってしまうと、思考も止まり、観察も停止してしまう。

 その上、相手のさらなる攻撃を許してしまう。


「ちょこまかと……! 俺を追ってくるだけあって、本当にうざったいな!」


 私がどうしても捕まらないのが、気に食わないようだ。

 この男は、持っている武器に対して精神力が弱い。

 あれほどの武器があるのなら、もっと大きく構えるべきだ。


 だが男がどれだけ焦ったところで、戦闘に大きな変化はない。

 人であれば感情の起伏により、戦況への変化が生まれるだろう。冷静さを欠くというのは、そういうことだ。

 しかし、彼の武器が自律型兵器。命令さえすれば、勝手に動いてくれる。

 感情的な彼にとっての幸運であり、私にとっての不運だった。


「――先生!」


 施設内に、聞き覚えのある声が響く。

 既に弾丸でボロボロになった入口から顔を覗かせていたのは、テナだった。

 私にも聞き取れたその声は、勿論だがフード男にも聞こえていた。

 男はニンマリと笑うと、兵器に命令を出す。


「あいつを殺せ!」

「……っ! やめろ!」


 ――ま、止める方法は幾つも有るのだが。

 とりあえず焦ってみたが、どうしてやろうか。

 当然だがこれは私の渾身の演技である。

 少し弱いふりをしておけば、調子に乗ってくれるだろうかと思ったのだ。


 しかし、悠長にしていられないな。

 今回は――これでいこう。


 私は〈精霊の(テンプテーション・)誘惑(オブ・スピリット)〉を発動させた。

 すると発射されていた攻撃は、ほんの僅かに軌道を変えた。

 まるで些細な風の抵抗を受けたかのように、ギリギリのラインでテナを外し、すぐそばの壁に着弾した。


「はぁ!? 役立たずめっ!」


 感情的なフード男は、兵器人形を蹴り上げた。その反動か、人形は少しだけぐらついていた。

 蹴る上げた音も思ったより軽く、中身が入っていないようだった。

 魔法を発動している以上、中に何かしらの装置があるはずなのだが。

 この現代の技術では、それが軽量化に成功しているのだろうか。


「リサ様! こちらは私がなんとか防御を取ります!」

「あ、あたらしらも!」

「わたしも頑張ります!」


 ニュッと顔を出したのは、ブラムウェルとウィッシュだ。

 何故こいつらが? スラムにはテナしか連れて来ていないし、ここへ行くという話もしていない。

 となると、学者か。あいつが面識のある人間は、ブラムウェル程度だったはずだが……。

 いや、その考えは真実の指導者に対して無粋というものか。


 とはいえ、ウィッシュだけではなく、ブラムウェルでさえも、この魔法を防ぐのは難しいだろう。

 明らかに威力が伝説や英雄のランクだった。


「なっ……ブラムウェル・レイナーだと!? チッ、分が悪い!」


 なんだ、ブラムウェルは居るだけで有効なアイテム――人物なのだな。

 慢心し続けているこの男にさえ効くなんて。


 男は魔法書のようなものを取り出すと、何かを唱え始めた。

 上手く聞き取れない。だが、発音からして、地形を操作するようなものの気がする。


 そんな予測は当たっていた。

 ガコン、という大きな音を起点にするかのように、地鳴りが響き渡る。

 研究施設は一瞬にして檻に囲まれ、施設の中と外に分かれた。

 それだけではなく、施設の床が少しずつ降下していっている。

 ああ、あれだ。大昔の記憶を引っ張り出すならば、これはエレベーターだろう。

 この施設ごと移動する、巨大なエレベーター。


「せ、先生! 床が沈んでます……!」

「心配するな。お前達は、徒歩でたどり着ける道を探せ。いいな」

「はっ、はい」


 テナの姿がどんどん遠くなる。

 不安そうな顔を最後に見るのは、少し心苦しいな。


 しかし、こんな魔法は、人間のできる芸当ではない。

 それに、スラム街の地下に作れる仕掛けでもないだろう。

 この男は随分、楽しそうな情報を持っていそうじゃないか。

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