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イーグル男爵の逆襲

今話の荒事でまた大事な命が一つ散ります。

 ミリーは剣を地面に置いたがしゃがんだまま、近づこうとする男たちに言った。

「待て。お嬢様を離せ」

 そう言って置いた剣に手を添えた。

 その目はアドラーの目を見て、その背後にそっと近づいて来る陰の護衛の位置を確かめていた。

「離すから手をあげろ。そして後ろに十歩退がれ」

 アドラーを捕まえている男がミリーに言った。

 二人の男は十歩手前まで来てそこで止まっていた。

 二人とも抜剣して構えている。

 ミリーは下手をすると自分の命が狙われているのではないかとその可能性を感じた。

 けれども両手を上げて剣の方とアドラーの方を交互に見ながら立ち上がると一歩ずつ後ろに下がる。

 九歩まで下がってから十歩目を動いたとき、叫んだ。

「放せ!!」

 男が手を離した途端にアドラーが体を沈め背後から近づく護衛に向かって走る。

 同時に二人の男が剣の方に走って来た。

 当然ミリーが剣を取りに戻ると思ったからだ。

 だが、ミリーは20歩離れた距離を縮めて危険を冒す真似はしなかった。

 剣を見ながら後ずさりしたのはフェイクだったのだ。

 そのまま回れ右をして男たちから逃げたのだ。

 何故なら男たちには明らかに殺気があったからだ。

 拉致されるだけなら、そうしなかったかもしれない。

 だがアドラーの陰の護衛が少しずつ近づいて来ているのを知っていたから、彼女を任せて逃げる方を選んだ。

 ミリーは人込みの中に飛び込むと追って来た二人をやり過ごし剣の方に走って戻った。

 アドラーを拘束していた男は陰の護衛たちにすぐに押さえつけられ拘束された。

 ミリーを追って戻って来た二人は、応援に駆け付けた護衛とミリーとの二人と対戦し傷を負わされて確保された。

 

 少し時間が戻って、ポールタウンの外壁の外にあるダランとトミーが住んでいる家に忍び込む影があった。

 その数は五人。

 だが夜目には見えにくい細い糸に足を引っかけて鳴子が鳴る。

 元々は畑を荒らす獣対策だったが、ダランとトミーは二人とも起きて鍬や鋤を手に表に飛び出した。

 作物を食べに来た猪か鹿だと思い込んでいたのが最初の油断だった。

 特に先頭に飛び出したダランは真っ先に賊の一人に剣を腹に突き刺されそれが背中にまで貫通した。

 声も出せずに倒れたダランを別の賊が止めを刺す。

 寝ていたこともあり、よもや襲われることを予想していなかったトミーは一瞬の判断が遅れた。

 鍬を構えて立ち止まっている時間が何秒か長かった為に囲まれたのだ。

 その直後奇声をあげたトミーは左側にいた賊の方に鍬を振り回し、僅かな人垣の隙間に飛び込むようにして包囲から抜け出た。

 正面を狙わなかったのは一種の賭けである。

 側面ならいくらか警戒心が少ないと思って突撃したのだ。

 ほんの半秒ほど驚きや隙ができた分包囲から抜けることができたのだと思う。

 後はひたすら足を使って逃げ回った。

 もちろん父親が殺されたのも知っている。

 だがここは自分の命を守るのが最優先なのだ。

 そしてマーサおばさんに変身したときもそうだが、トミーは様々なスキルを身につけていたが傭兵たちの戦場で生き残る為の手立てを身につけていたのだ。

 生き残る手立て、すなわち逃げ足の速さである。

 戦いで生き残るのに必要なことは不利な点が少しでもあれば戦わないことなのだ。

 トミーの足はあの時のマーサおばさんよりも更に速かった。

 今度は立ち止まったりして相手を待ったりしない。

 相手は刺客だから足だって速い。

 その相手ですらなかなか追いつけない驚異的俊足をトミーは身につけていた。

 さらにたとえそれと同等の速さで追ったとしても、驚異的なのは足の速さだけではない。

 その持続的な耐久力も馬並みなのだ。

 直線的に逃げるので、後を追う者は回り込んで挟み撃ちにすることもできず、五人の刺客の間隔は次第に開き始めた。

 そしてトミーの方が圧倒的にリードしているときに、彼は突然Uターンして追っ手の先頭の男に襲い掛かったのだ。

 ゴーンと相手の頭に鍬を打ち付け、頭蓋を割られた男は倒れる。

 そしてまた逃げる。

 追っ手の息があがったのを見てまた反転して二番手の追っ手の頭部を鍬でフルスィングで打ち付ける。

 その相手の剣を奪い止めを刺すとその剣で三番手に立ち向かう振りをして姿勢を低くして前方に体をなげだすようにして向う脛を斬りつける。

 悲鳴を上げる三番手の後ろに廻り股間に剣先を入れて一気に突き上げ体内の内臓を貫く。

 四番手五番手が並んでやって来たのを見て、また逃げ回る。

 だが相手は警戒してお互いに離れないように呼吸を合わせて追いかけて来る。

 途中で二人はぎょっとした。

 何故なら追いかけていた相手の少年の体が急に大きくなったからだ。

 見るからに人相の悪い傭兵風の大男が大声で吠えながら襲い掛かって来る。

 突然のことで一人は逃げ腰になり、もう一人は剣を構えたまま体が凍り付く。

 猛獣か魔獣のように大男は右手の剣で構えていた男の剣を弾き飛ばし、左手で顔面に拳を叩き込んだ。

 後ずさりする最後の一人に大男は剣を顎から頭頂に突き上げて貫通させた。

 大男はトミーの姿に戻って、男たちが全員死んでいるのを確認しながら吸収を始めた。


 



 ブーン子爵の所に来たトミーは捕まっている三人の賊たちの顔を見て来てから子爵に言った。

「今回のことは全く謎です。犯人はイーグル男爵が差し向けた裏社会の刺客です。

 男爵が何故僕たちを襲ったかは、はっきりしないのですが、以前に僕の食堂に来た男爵が、店の看板メニューの秘伝の味を教えろと剣で脅してきたことがあって、それと関係してるのかなと」

「その話はポート男爵から聞いている。なんでも一人の勇敢な中年女性が堂々とその男爵と連れの料理人を言い負かしたそうだな。だがそれと今回のことはどう関係があるのだ?」

「僕も食堂の主人から聞いたのですが、何でもその女性はウォルナッツ村のマーサおばさんに似ているというのです。僕はそう言えば似てるかもしれないなと思いましたが、彼女は村全体が燃えた日に殺されているので、本人の筈がありません。けれど男爵は仕返しをしたくてもできない怒りを同じウォルナッツ村の生き残りの僕たち三人にぶつけて来たのです。全く僕らとしてはとばっちりですが。そればかりではなく、今度正式に建てる予定の村人の慰霊碑と墓所を攻撃の目標にしているとも耳にはさみました」

「それが本当だとすると全くとばっちりも良い所だな。そしてトミーよ、お前の推理は間違いないだろう。私が調べたこととも一致する。亡くなったご尊父には本当に哀悼の意を捧げる。

 ところでウォルナッツ村の仮埋葬された犠牲者の村民たちのことだが、正式な墓所を我が領地に用意したいと思うのだ。

 実はわが領とは飛び地になっているが、スバレット地区はウォルナッツ村にも近い。

 ポート男爵領のポートタウンの墓所よりも近いから、殆どの者はあそこがわが領だとは知らない筈だ。例の『暁の軍団』の件はわが領とも深く関りがあった一件だ。それと今回のこともある。イーグル男爵がわが領でしかもわが娘を人質に取るなどの狼藉に関係しているとすれば容赦はできないのでな。トミーよ、私の言っている意味が分かるか?」

「村の慰霊碑がポートタウンよりも村跡に近いスバレットにできるならそれは僕としても嬉しいです。そしてそこの場所を荒らす者が出たとしたら、それを罰するのは子爵様の権限内のことだということですね」

「ふふふふ全くその通りよ。ポートタウンの葬儀の騒動のことは聞き及んでいるが、今度の立役者はうちの騎士スーザンと見習のミリーにやって貰う予定だ」

「分かりました。子爵様にその件はお任せします」





 それから数か月後のことだった。スバレット地区に新しくウォルナッツ村村民の慰霊碑と新しく移設された墓所が完成された。


 そしてある日のこと。


 慰霊碑に向かってツルハシを打ち付ける者たちがいた。

 それはイーグル男爵とトルーマンの二人だった。

「墓所の方にもマーサと言う名前がありましたぜ、男爵様。何故死んだ筈の女があのとき現れたかは知りやせんが、これであの恨みを晴らせますね。墓石を壊して小便をかけてやりましょう」


 その時二人は現れた兵士たちに囲まれた。

「無礼者、この墓地と慰霊碑のあるスバレット地区はわがブーン子爵領地内であるぞ。死者を冒とくした者にはそれなりの罰し方がある」

 兵士たちの正面に現れたのはブーン子爵その人だった。

 驚いて立ち竦むイーグル男爵とトルーマンの前に現れたのは、剣の柄に手を添えて抜剣の構えをした騎士スーザンと箱を背中に担いだメイド服姿のミリーだった。

作者は褒められて伸びるタイプです。

ブクマをするだけで褒めたことになります。

ご協力のほどよろしくお願いいたします。m(--)m

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