赤牙、再始動
――そうして。
ウェアが指定した休止期間は、あっという間に過ぎ去った。
エルリアから帰還したのは昨日のこと。久々に全員で食卓を囲んで、ウェアの料理を楽しむ夕食は、とても賑やかな時間となった。
蓮はみんなに頭を下げて回ったが、手荒い軽口で出迎えたアトラをはじめ、みんなが彼を嬉しそうに歓迎した。そうして、彼自身も吹っ切れたように笑い、元の調子を取り戻した。少し遠慮が無くなった様子なのも、良いことだと思う。
お祖父さんを紹介しようとしたが、昨日はギルドを出ていたらしく、まだみんなは会っていない。あの人が行動しているのならば……動くのだろうな、多くのことが。
そうして迎えた、皆が残るか否かを決断する日。
「……改めて、最後に問おう。これが、お前たちの結論……それで、いいんだな?」
ギルドの酒場には……全員が、集まっていた。そして、ウェアの問いには、皆が力強く頷いた。
これからの戦いに残る者のみがここに集う……その前提で、俺たちは誰ひとり欠けることはなかった。
ウェアはひととおり皆の顔を見渡してから、半ば呆れたように、深い息を吐き出した。
「まったく。揃いも揃って……これからどれだけ危険か理解した上で、いい顔をしやがって」
「あなたも察していたでしょう? きっとこうなるだろう、とね」
「そうだとしても、複雑なところはあるのさ。年長者としては、いつだって若い世代を戦わせるのは悩ましいんだ」
「おいおい。そういう言い方はジジイになった証拠だぜ、マスター?」
「ジ……。いや、そういう話ではなくてだな……」
「僕から見たら子供どころじゃない歳のくせしてねえ?」
「だいたい、オレもいることを忘れるなよ。お前は放っておけば抱え込みまくるからな。オレ達がしっかり見張らねばなるまい?」
「こほん! 本当に、お前たちは……こんな時でもそれか、全く……」
「ウェアがそういうギルドにしたんだ。……今さら、一人ずつ決意表明しろ、とは言わないだろう? ここに全員が集った。それが全てだからな」
本当に色々あった。こうは言っているが、俺もウェアと同じ気持ちはある。各々、全く迷わなかったわけでもない。それでも、皆が出した答えが、この赤牙だ。
「……はあ。分かってるよ、俺の負けだ! こうなった以上、俺のやるべきことはマスターとしてひとつだ」
まるでやけっぱちのように声を上げながら……ウェアは確かに、嬉しそうでもあった。
「俺たち全員で、リグバルドを止める。俺が必ず、お前たちを守り抜こう。だから……お前たちの力、貸してもらうぞ!」
仲間として。家族として。
彼がどれだけ強くても、俺たちを頼りにしてくれる、それを示した言葉。
全員で、顔を見合わせて笑う。そうして、力強く頷いた。
『了解!』
ああ。テルムの件は、とても大きな影を俺たちに落とした。俺だって、思い悩まなかったと言えば嘘になる。
それでも、みんなと一緒なら信じられる。負けるものか、決して。俺たちは必ず平和を取り戻し、その日常に帰ってみせる。そのために……勝ち抜こう、必ず。
「さて。ギルドとして団結したところで……何人かから、ここで全員に話をしたいと相談を受けている」
「話?」
「みんなある程度は分かっているだろうが、このギルドに集まった者は、様々なものを抱えている。この機会に共有したい、と言われたのさ」
似たようなことを考えた者が何人かいる、ということか。
そのうちの一人は、俺だ。そろそろ、頃合いだと思うからな。それに、俺の予想が正しければ、きっと……。
「まずは、そうだな……ガルフレアからだ。俺の話でもあるが」
「分かった。……実のところ、勘付いている者もいるかもしれないが――」
俺の話は、俺とウェア……父さんとの関係。
半数ほどには既に知られているからな。最初に話すには丁度いい話題だろう。いずれにせよ、父さんがこれから戦うにあたり、隠し通せる話でもない。
そもそもが、隠したかったわけでもないしな。ただ、個人的なけじめで、今はギルドの仲間として振る舞うと決めただけだ。みんなには知ってもらっていい。お祖父さんとの関係を隠し続けたくもない。
それに……これから明かされるだろう話にも、ある意味で関わってくる。
話し終えると、知らなかったみんなは……少しは驚いているようだが、同時にその程度だった。
「おれもたまに、まさか、と思ってはいたけど……本当にそうだったんだな」
「ビックリはしたけど、納得はできるわよね。色んなとこ似てるし、腑に落ちたって感じ?」
「オレは気付いてたぜ? ガルもウェアさんも、そういうの分かりやすいしな!」
「分かってたアピールとか虚しい野郎だなぁ……」
「あぁん!? いつもいつでも知ってるアピール知識マウントトカゲには言われたくねぇんだよぉ〜〜!!」
「どうどう。コウ、どうどう」
「浩輝は馬じゃねえぜ、瑠奈……」
「……ふ。もちろん、それで何かが変わるわけではない。どちらにせよ俺たちは家族、だからな?」
「はは……そうだな」
赤牙という家に集った家族。それがたまたま、血が繋がっていたというだけ。もちろん、俺たちにとっては大事な話だがな。
話が一段落ついたところで、次にウェアは見たのは……コニィだ。
「次は私、ですね」
「ああ……。最後に聞くが、本当にいいんだな、コニィ?」
「はい。エルザのこともありますし……何より私も、いつまでも皆さんに嘘をつきたくありませんから」
「………………」
蓮が複雑な表情をした。どうやら彼は知っているようだ。
そうして、コニィはゆっくり語ってくれた。彼女の過去……何かあるのではと思ってはいたが、想像よりも遥かに凄惨な記憶を。
さすがに今回は、みんな静まり返った。俺でも、何と言うべきか迷ってしまうほどに。
知っていたのはウェアとジン、それから蓮だけのようだ。それ以外の者は、驚きと悲しみ、怒りがないまぜになったような様子だ。
「私は、自分の行いを忘れるつもりはありません。マスターの命を奪おうとした事も……いくつも命を奪った事も。それでも、今は……みんなと一緒に、戦わせてくれますか?」
「当たり前、だよ! ……今は、なんかじゃない。コニィちゃんは、わたし達の家族なんだから……!」
「……俺も、君に何かを言える過去ではない。そんな俺を、君は受け入れてくれただろう?」
「軽々しく、罪じゃないなんて言えないけれど……あたし達は、コニィちゃんをずっと見てきたから。変わらないよ、何も」
「……ありがとう」
反対する者など、誰もいない。イリアの言う通り、俺たちは彼女を見てきた。命を大切にして、多くを救う彼女を。そして、何度も助けられてきた。その後悔も、信念も、本物であると知っている。
……そうか。俺が過去を語った時に感じた、彼女の険しい表情は……重ねていたのか、自分と。今さら理解できた。
「話した理由は、もう一つあります。私は、これから先……かつて自分が身に着けた技も、隠さず使うつもりです」
「……それは」
「それが、誰かの命を救うために必要なら、そうしたいんです。どんな力でも、どのように使うか……そうですよね、アトラさん?」
「……はっ。ま、受け売りだがそうだな。コニィがそうしてえなら、俺様がとやかく言うことじゃねえ。けど……無理はすんなよ! お前、真面目で無茶しやすいんだからさ!」
「……ふふ。無理をしやすいのは、このギルドの全員だと思いますが……そうですね、覚えておきます。無理しないと言うよりは……みんなの無理を支える分、みんなは私の無理を支えてください」
「あはは! このマスターの下に集まっているんだから、その方が良さそうだね? にしても無茶って感染するものなんだなぁ」
「そうだな……。おれも今回だいぶやらかしたし、助けてもらった。その分の恩返しは、ちゃんとしないとな」
「フィオは本当に俺を何だと……まったく! コニィ、俺たちにはお前の支えが必要だ。これからも、よろしく頼むぞ!」
「……はいっ!」
そうだな。その一点については、俺たちは程度の差こそあれ似た者同士だ。
暗い空気では終わらず、みんながそれを誓い合う。改めて、このギルドが俺の仲間で良かったと、心から思う。
「さて……それでは最後だが……」
次にウェアは、暁斗に視線を向けた。やはり、そこに来るんだな。そうなると――丁度、入り口の扉が開いた。




