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第25話 この世界の医療



自分の魔法について考え始めたのは、たぶんミラの薬草房に通うようになってからだったと思う。最初に路地裏の男の人を治したときは、正直に言えば「すごい、私、もしかしてチート能力もらってる?」くらいの浅い感想が頭をよぎったし、その直後に黒死の病の少年へ同じように手をかざしてもほとんど何も変わらなかったせいで、その浅い期待は見事に砕け散ったのだけれど、あの失敗があったからこそ、私は自分の手から出る光を“奇跡”という便利な言葉で片づけない方がいいのだと、かなり早い段階で思い知らされたのだと思う。だから最近の私は、船でできた小さな擦り傷や、ロープで赤くなった指先や、薬草房で紙包みの端に引っかけてできた浅い切り傷を見つけるたびに、誰にも見られないところでそっと手をかざして、どのくらい意識すれば光が出るのか、どのくらいで熱っぽさを感じるのか、痛みが先に消えるのか赤みが先に引くのか、傷口が塞がったように見えてもあとから腫れたりしないのかを、かなり地味に記録するようになっていた。


もちろん、自分でわざと傷を作るようなことはしない。そこまでやったらさすがに自分でも怖いし、医学生だった頃に「観察のために患者を傷つけるな」とか以前に、人として当たり前にアウトだと思う。ただ、港仕事や薬草房の手伝いをしていると、細かい怪我はどうしても起きる。濡れた縄は思ったより肌を擦るし、魚の鱗は小さな刃物みたいに指へ引っかかるし、乾燥棚の木片は地味にささくれているし、ミラの薬草房にある瓶の蓋は時々やたら固い。そういう日常の小さな痛みを、私は前よりずっと真面目に見つめるようになった。


その日も、私は《錨の歌亭》の二階の小部屋で、膝にノートを置き、左手の人差し指にできた小さな擦り傷を眺めていた。原因はたぶん、昼間に《シーグリット号》で魚を仕分けていたときに、木箱の縁でこすったことだと思う。傷口は浅く、少し赤いだけで、血もほとんど出ていない。日本にいた頃なら水で洗って放置、せいぜい絆創膏、というレベルのものだ。私はそれをまず水で洗い、布で押さえてから、ノートに「擦過傷、浅い、発赤軽度、疼痛あり、出血なし」と書き、そのあとで右手をそっとかざした。


胸の奥に意識を向ける。あの光は気合いを入れれば出るというより、助けたいとか治したいとか、そういう気持ちに体が反応して勝手に湧く感じに近い。最初の頃はそれがよく分からなくて、手のひらに力を込めたり、回復魔法と声に出してみたり、かなり恥ずかしい試行錯誤をしたけれど、最近は少しだけ分かってきた。魔法は、たぶん筋肉みたいに力むものじゃない。どちらかというと、呼吸や脈拍に耳を澄ませて、体の奥に流れている温かいものを手のひらの方へそっと道案内する感じだ。


指先に柔らかい光がにじむと、擦り傷のひりつきがすっと薄くなった。見た目の赤みはすぐには消えない。十呼吸くらい待つと痛みはほぼなくなり、皮膚の表面が少しだけ滑らかになったように見える。ただ、完全に元通りというほどでもない。私はノートに「疼痛軽減が先、発赤は残る、軽い温感、魔力消費感はほぼなし」と書いたあと、しばらく指を曲げ伸ばしして、違和感がないことを確認した。


「……うん、やっぱり小さい傷にはかなり効く」



 【治癒魔法についての仮説。】

 一、傷の痛みや浅い損傷には効きやすい。

 二、重い病や原因が残る病には効きにくい可能性。

 三、魔法は“体を戻す”力であって、“原因を消す”力ではないかもしれない。

 四、使う側の理解が浅いまま使うと危険。



書いてから、私はふとペンを止めた。ここまで考えたところで、どうしても次の疑問にぶつかってしまう。


「……そもそも、この世界に病院ってあるのかな」


いや、正確には治療院らしき場所は見たことがある。港の近くで「診療」「治療」「薬」と書かれた建物を見かけたし、修道院らしき建物も見た。けれど私が日本で知っている病院――受付があって、診察室があって、検査室があって、病棟があって、医師、看護師、薬剤師、検査技師、事務の人たちがいて、カルテがあり、診療科が分かれていて、救急外来があって、保険証を出して、番号札を持って待つような、あの“医療機関”にあたるものがこの世界に本当に存在するのかは、まだ分かっていなかった。


修道院は、たぶんある。聖印で癒やす人たちがいて、貧しい人にも治療をする場所。薬草房もある。薬草師や調合師が、生活に近いところで病や怪我に対応している。王立なんとかみたいな組織も、噂では聞いたことがある。けれど、庶民が普通に「具合悪いから病院行こう」と思って行ける場所があるのか、そこがどうしても気になった。


翌日、私はその疑問をノートごとミラの薬草房へ持っていった。


《ヴァーン薬草房》は、朝からすでに濃い匂いに満ちていた。乾燥葉、樹皮、蜂蜜、酢、薬酒、煙、湿った苔、それらが複雑に混ざった空気は、最初こそ鼻の奥がびっくりしたけれど、最近では少し落ち着く匂いになりつつある。店の奥では、ミラが大きな銅鍋の前に立ち、淡い緑色の液体をゆっくりかき混ぜていた。鍋から上がる湯気は、普通の湯気よりも少し重たく、天井の吊るし薬草へまとわりつくように漂っている。


「ミラさん、質問してもいいですか」


「質問する前に、その棚の右から三番目の瓶を取って。赤い紐の隣、黒い印のついたやつじゃない方」


「はい」


私は言われた通りに瓶を取り、作業台に置いた。ラベルには《鎮炎草・秋摘み・北斜面》と書かれている。ミラは中身をひとつまみ鍋に落とし、液体の色が少し落ち着くのを見てから、やっとこちらを見た。


「で、質問は」


「この世界には、病院ってあるんですか」


ミラは一瞬だけきょとんとした顔をしたあと、少しだけ笑った。


「病院、ね。あんたの言う病院が何を指すかによる」


「えっと……病気や怪我の人が行って、診察を受けたり、治療を受けたり、薬を出してもらったり、場合によっては泊まり込んで看病してもらったりする場所です」


「ああ、それならある。あるにはある。ただ、あんたが想像しているほど一つにまとまってはいないだろうね」


「一つにまとまっていない?」


「この帝国の医療は、大きく三つの柱で成り立ってる。修道院、王立医療機関、帝国薬学機構。この三つを知らないまま治療に関わると、善意で動いたつもりが面倒事を呼び込むよ」


ミラは鍋の火を弱め、作業台の上に木片を三つ並べた。左に白い木片、中央に黒く磨かれた木片、右に金属の小さな重り。彼女はそれを指で順に叩く。


「まず、修道院。正式には《サンクトゥアリウム・メディクム》、こっちの言葉では聖療修道院と呼ぶ人もいる。古くから“神の名のもとに病を癒やす”場所としてやってきた慈善医療の中心だよ。聖なる癒やし手と呼ばれる修道士や修道女がいて、聖印を使った魔法治療を行う。貧しい者や巡礼者には無料で治療することもあるし、薬草園を持っているところも多い」


「無料で診てくれるなら、庶民にとってはかなり大事な場所ですよね」


「大事だよ。実際、修道院がなければ死んでいた人は多い。ただ、無料と言っても、運営には金がいる。貴族や商人からの寄付、教会領の収入、帝国からの補助、そういうものに支えられてる。つまり、寄付する側の顔色を見ないわけにはいかない」


「あ……」


日本でも、医療はお金と無関係ではなかった。病院経営、保険制度、研究費、寄付、製薬会社、政治。こっちの世界はもっと露骨なのかもしれない。


「修道院の治療は、主に治癒魔法と祈祷だ。傷を塞ぐ、熱を鎮める、痛みを和らげる、悪しきものを祓う。薬草療法は補助として扱われることが多い。信仰の厚い人はありがたがるし、実際に救われる人もいる。けれど、聖印で治せない病もあるし、修道院ごとに腕の差も大きい」


「薬は自由に使えるんですか」


「そこが問題さ」


ミラは右端の金属の重りを指で弾いた。


「帝国薬学機構、略してI.P.O。帝国の薬草、薬品、魔法薬の研究、製造、流通を管理する組織だ。俗には薬剤師組合とも言われる。名目は薬の安全性と品質保証。実態は、貴族派の後ろ盾を持つ利権団体」


「利権団体……言い方がかなりはっきりしてますね」


「遠回しに言うほど暇じゃない。I.P.Oは、修道院や王立医療機関へ認可薬を供給し、市場に出回る薬を管理し、未認可の薬を違法にする権限を持っている。もちろん、危ない偽薬を減らす役割もある。そこは否定しない。質の悪い薬で死ぬ人がいるのは事実だからね。ただ、その仕組みを使って薬価を吊り上げ、希少薬草を独占し、組合に属さない薬草師や薬商を締め出しているのも事実だ」


私はノートに急いで書いた。修道院=慈善医療、聖印、魔法治療、寄付依存、I.P.O認可薬。I.P.O=薬品管理、認可、流通、品質保証と独占、貴族派の資金源。


「じゃあ、ミラさんみたいな薬草師は……」


「私は一応、登録はしてるよ。してなきゃ店を続けられない。ただし、I.P.Oの犬になる気はない。認可薬を扱うこともあるし、昔からの民間薬を作ることもある。危ないものは売らない。効かないものも売らない。認可されているかどうかより、患者にとって必要かどうかを見る。だから、向こうからは少し嫌われている」


「少し、ですか?」


「かなりかもね」


ミラは平然と言った。私は、ミラが自分で「帝国薬学機構にとって少しばかり目障りな商売人」と言っていた意味をようやく実感し始めていた。


「二つ目が、王立医療機関。《インペリアル・メディカル・アカデミー》と呼ばれる。王族、貴族、上級市民、富裕商人向けの医療機関だよ。高度な治癒魔法、最新の薬学、魔導器具、専門の医師団。あんたが言う“病院”に一番近い形かもしれない」


「じゃあ、そこではかなり高度な治療が受けられるんですね」


「金と身分があればね」


ミラの声は淡々としていた。


「王立医療機関では、血統や家柄のある医師、王立の教育を受けた治癒師、I.P.O認可の薬剤師が働いている。薬も高品質。魔導検査器具もある。貴族が戦場で受けた傷を治し、王族の病を管理し、富裕層の寿命を延ばすためには全力を尽くす。庶民が風邪を引いて行く場所じゃないし、行ったところで門前払いだ」


「一般市民は、利用できないんですか」


「基本的にはね。特別な紹介状、莫大な金、貴族の後援、研究対象としての価値。そういうものがあれば別だけど、普通の港湾労働者や市場の女房が行ける場所ではない」


私は、東京の大学病院を思い出した。もちろん日本の病院にもお金や制度の壁はあったけれど、少なくとも救急車で運ばれた人が身分を理由に門前払いされるのは、私の知っている医療ではなかった。この世界では医療の入口そのものが階級で分かれている。


「じゃあ、庶民は修道院か、薬草師か、街の治療師に頼るしかない……?」


「だいたいそうだね。軽い傷や体調不良なら薬草師、骨折や出血なら治癒師、金がなければ修道院、信仰が合わなければ民間療法、どうにもならなければ諦める。ロストンはまだ大都市だから選択肢がある方だよ。田舎へ行けば、薬草を知っている婆さんと、祈れる神官が一人いるかどうかって村も珍しくない」


私はペンを握ったまま、言葉が出なかった。医療格差。そう書こうとして、手が止まる。そんな一言で済ませていいものではない気がしたからだ。


「I.P.Oは、どうしてそんなに強いんですか」


「薬を握っているからさ。医療において、薬の流通は血管みたいなものだよ。薬草の採取地、乾燥場、製薬工房、修道院、王立医療機関、商人ギルド、港、税関。その血管の要所を押さえれば、治療そのものを押さえられる。貴族派はそれをよく分かっている」


「薬の安全性を守るため、という建前はあるんですよね」


「建前だけではないよ。そこは間違えちゃいけない。偽薬、毒薬、粗悪品、効能を偽った魔法薬で苦しむ人は本当にいる。だから管理は必要だ。問題は、管理する者が利益を独占し始めると、患者のための制度が患者を遠ざける制度になることさ」


「独立した医者は、どういう扱いになるんですか」


聞きながら、自分の声が少し小さくなった。ミラは私が何を心配しているか分かっている顔をした。


「危ういね。修道院に属さず、王立医療機関にも属さず、I.P.Oの認可薬だけを使うわけでもない治療者は、異端、無資格、危険な術者、闇医者、好きな名前で呼ばれる可能性がある。特に、治癒魔法が強い者や、独自の理論で患者を集める者は目をつけられやすい」


「……ですよね」


「怖くなったかい」


「正直、かなり」


私は苦笑した。ここで「怖くありません」と言えたら格好いいのかもしれないけれど、残念ながら私はそんなに強くない。


「怖いと思うなら、まだましだよ。怖さを知らない治療者は、患者だけじゃなく自分も燃やす。あんたがもし本気で医療に関わるつもりなら、この三つの柱――修道院、王立医療機関、I.P.O――のどこに近づき、どこから距離を取り、誰の信用を得て、どの患者を診るのかを考えないといけない」


「……私、ただ人を助けたいって思ってただけなのに、考えること多すぎません?」


「医療はいつだって面倒だよ。病だけ見れば済むなら、どれほど楽かね。患者には金があり、家族があり、仕事があり、信仰があり、噂があり、権力があり、恐怖がある。治療者にも同じものがある。病だけ切り離して治そうとすると、たいてい失敗する」


その言葉を聞いて、私は日本での臨床実習を思い出した。患者さんの病名だけでなく、家族構成、生活環境、仕事、薬を飲めるか、通院できるか、本人が何を望んでいるかを考えなければならないと言われたことがある。当時の私は、それを分かっているようで分かっていなかった。こっちの世界では、それがもっとむき出しになっている。薬を買えるか。修道院に行けるか。貴族派に目をつけられないか。種族や信仰で差別されないか。そもそも病気だと知られたら仕事を失わないか。


「ミラさん、修道院って、今も黒死の病の患者を診るんですか」


「診るところもある。門を閉ざすところもある。黒死の病は恐れられているからね。慈善の理念だけでは、働く修道士や修道女を守れない。I.P.Oの認可薬も高い。寄付が多い修道院なら隔離棟を持っているけど、貧しい地区の小さな修道院では、祈りと薄い薬草茶くらいしか出せないこともある」


「王立医療機関は?」


「貴族が罹れば全力で隠して全力で治す。庶民の黒死は、統計と研究資料になることはあっても、優先患者にはならない」


「……きついですね」


「きついよ。だからロストンの裏通りでは、偽薬がよく売れる。黒死に効く、穢れを祓う、聖樹の雫、奇跡の粉。名前だけ立派な薬が、銅貨をかき集めた人たちに売られるんだ。効かない薬ならまだましで、毒が混ざっているものもある」


私は、胃のあたりが重くなるのを感じた。助かりたい人ほど、怪しい薬にすがる。現代でも完全になくなった話ではない。病気への恐怖と情報不足は、人を簡単に追い詰めるんだ。


「I.P.Oは偽薬を取り締まらないんですか」


「取り締まるよ。ただし、自分たちの市場を荒らすものを優先的にね。本当に貧民街の隅で売られる粗悪薬まで丁寧に潰すには、人手も金も足りないし、そもそも貧しい者が騙されることに本気で怒る貴族は少ない」


私はノートの上でペンを止め、しばらく何も書けなかった。医療の三つの柱。修道院、王立医療機関、I.P.O。仕組みとしてはよくできている部分もある。慈善、先端医療、薬品管理。それぞれ必要なものだ。でも、それが人を救うためだけではなく、権力やお金や身分のために使われている。私はその中で、どこに立つのだろう。


「ナナ」


ミラが私の名前を呼んだ。


「はい」


「まずはちゃんと知ることだね。誰が治療をしているのか。薬がどこから来るのか。患者がなぜそこへ行けないのか。自分の魔法が何をして、何をできないのか。それを知らないまま善意で突っ走ると、あんたの助けたい人たちまで危険に巻き込むことになるよ?」


「……はい」


「それと、自分の魔法を独学で調べるのはいい。ただし、大きな怪我や重い病で試しちゃだめ。小さな傷、痛み、疲労、そういう範囲で観察しな。魔法は、分かった気になったときが一番危ないからね」


「分かりました。記録も続けます」


「記録だけじゃなく、比較もしな。薬草で治した場合、自然に治る場合、魔法を使った場合。何が違うかを見る。医療ってのは、効いた気がする、では済まないからね」


比較…か。私はその言葉を丸で囲んだ。現代医学でいう対照、経過観察、再現性。そこまで厳密な研究は今すぐは無理でも、考え方だけはちゃんと持てる。


薬草房を出る頃には、夕方の光が井戸の広場に斜めに差していた。私はノートを胸に抱え、ゆっくり港へ向かって歩いた。道の途中、修道院の鐘が鳴った。白い石壁の建物の前には、粗末な服を着た人たちが何人か並んでいて、扉の奥では白い衣の修道女が誰かの手を取っているのが見えた。あそこにも私が知ろうとしている医療がある。丘の上の方には、貴族街へ続く道があり、その先にはきっと王立医療機関へ繋がる人脈や施設があるのだろう。そして街のどこかでは、I.P.Oの認可印が押された高価な薬が取引され、別の路地では偽薬が売られている。


「……病院があるかどうか、って質問じゃ足りなかったな」


私は小さく呟いた。この世界には病院のようなものは確かにある。治療者もいるし、薬もあれば制度もある。けれど医療があることと、必要な人に届くことはまったく別の問題だった。


夜、《錨の歌亭》の二階の部屋に戻った私は、ノートの新しいページに今日のまとめを書いた。


この世界の医療は三つの柱で成り立っているらしい。修道院は慈善と信仰による治療。王立医療機関は貴族と富裕層の高度医療。I.P.Oは薬の管理と流通。どれも必要で、どれも問題を抱えている。独立して治療をする者は、きっとその隙間に立つことになるんだろう。


そこまで書いてから、私は自分の手を見た。小さな擦り傷は、ほとんど分からないくらいになっていた。私の魔法は確かに何かを治せるみたいだった。でも、何でも治せるわけじゃない。私は医者になりたいけれど、この世界で医者になるということが何を意味するのかはまだ分かっていない。


それでも、今日分かったことがある。


病を治すには、体を見るだけでは足りないってこと。薬を見るだけでも、魔法を見るだけでも、祈りを見るだけでも足りないこと。人がどこで暮らして、何を信じているのか。何を買えずにいて、どこへ行けずにいるのか。そういうところまでちゃんと見ないと、たぶん本当の意味では治療にならない。


「……うわ、色々難しすぎる」


思わず口に出すと、なんだか少し笑えてきた。難しいし怖いし、なんなら面倒くさい。制度も権力も絡んでいれば、独学の魔法だってかなり危ない。


けれど不思議と、逃げたいとは思わなかった。


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