1-8. 変わる学園生活④
「そう言えば今週末、学園の近くに新しいお店ができるそうね」
イレーネとオパールも顔を上げる。
「若い女性向けの小物屋さんらしいわ」
「外観だけだけど、スッゴイおしゃれだったよ!」
「フィフィも一緒に行かない?」
「いいの!?」
「トーゼン!」
驚いた様子で顔を上げたフィフィに、オパールがぱっと背中から飛びついた。手を握り、可愛らしく笑いかける。
「もう友達!だもんね!」
「……!うん、行く!行きたい!」
オパールの手を握り返すフィフィ。そして、笑顔でこちらを振り返った。
「ウルスラも行くでしょ!?」
「……行きたい、けど……。……」
無邪気な問いかけに、返事に窮する。
ウルスラは、自由に使える金銭を持っていない。
一緒に行ったところで、友人たちが楽しく買い物をするのを指を咥えて見ていることになる。
(どうしよう)
断っても同行しても、気を使わせる。迷っていると、ヘレンがこう提案した。
「じゃあ今週末、私と一緒にギルドに行く?」
「ギルド?」
「冒険者ギルド。知らない?」
ヘレンが言うには、冒険者ギルドとは十歳以上なら誰でも登録できて、依頼を出したり、受けることができる施設だそうだ。
依頼内容は、草むしりから家庭教師、魔物・盗賊討伐まで多種多様。ウルスラにも受けられる仕事があるだろう、とのこと。
「王家と軍部が認可を出してるから、ある程度安全も保証されているわ。貴族も結構利用するのよ」
そこでお小遣いを稼いで、買い物代に当てれば良いのでは、と。さらりと付け足す。
「私、父から食費も含めてほとんど予算もらってないんだけど、ギルドで家庭教師の仕事受けたりして、自分で稼いでるの」
「そうなの!?」
驚愕の事実が暴露されてしまった。思わずギョッとする。貧乏というだけならともかく、そもそも予算をもらっていないとは。ウルスラが言うのもなんだが、それは色々とどうなんだ。
ソフィアとイレーネがそっと目を逸らす中、オパールが笑顔でぶった斬った。
「ヘレンの家、いつ聞いても狂ってるね!!」
「そうね」
こともなげに応じるヘレン。そして「そんなことはどうでも良いのよ」と軽く手を振った。
「何が言いたいかって言うと、お金を稼ぐ手段はあるよって話」
そして、ウルスラの目をじっと見る。
「ウルの状況的に、親や家を頼らずに生活できる当ては、早めに確保した方が良さそうだし」
「そう……だね」
そう言われて、考えてみる。
ウルスラの家・デュボワ家は、ウルスラを放置している。
予算も、ほぼ全く割いていない。寮に入っている生徒であれば、学園生活に必要なものは食費も含め、無償で賄われる。学園への寄付もしていないことも考えると、学園入学前の教育費と、長期休暇中の馬車代と食費くらいしか払っていないはずだ。
今後も、そうである可能性は高い。
それに、練習台になってもらっているからとフィフィは固辞しているが、せめて化粧品代くらいは払わねば。ソフィアから分けてもらっている髪油代も。
悪い話ではないと思ったところで、オパールがぱん、と手を叩いた。
「いいこと思いついた! じゃあ今度の休み、全員でギルドに冒険者登録しない?」
ひょいひょい、と軽いステップで前に出てきて、自説を語る。
「みんなで依頼をこなして、その後、報酬のお金でお買い物するの!」
万が一トラブルに遭遇しても、王都内でこのメンツなら、よほどのことがない限りどうにかなるはず。それでとりあえず何か一つ依頼をこなしてみて、無理そうなら、今後は別の方法を考えれば良い。
「社会勉強にもなるよ! どう!?この案!」
「みんなで……!」
大切で大好きなみんなと、同じ経験を。
なんだか、すごくすごく素敵な提案に思える。
「やる!やりたい!!」
目を輝かせるウルスラの横で、扇子越しに様子を伺っていたソフィアが、一つ、頷いた。
「そうね。うちの商会のお手伝いに誘うつもりだったけど……ウルスラの得意分野から考えると、その方が現実的かもしれない」
「荷運びしかできそうにないよ!?」
「言われてみればそうなのよね」
身の程は弁えているウルスラである。
一方、黙って話を聞いていたイレーネは、苦い顔で首を横に振った。
「危ないわよ。ヘレンとフィフィ以外は、王都の平民街なんて歩いたことないでしょ」
「アタシも、冒険者ギルドには近づいたことないなあ……」
フィフィが自信なさげに呟くと、ヘレンは相変わらず平然とした様子で応えた。
「王都中央ギルドなら、私が案内できるわよ。仕事の選び方も教えてあげられる」
ソフィアも援護射撃をする。
「不安なら、うちの商会で雇っている護衛に、こっそり後ろからついてきてもらいましょうか?」
「それなら、いいかな」
そっと頷くフィフィ。するとオパールが我儘な幼子のように、イレーネの両肩を掴んで揺すった。
「ねええぇぇ〜〜行こうよ〜〜〜。オパールみんなでお買い物したい〜〜〜!!」
「ちょ……うるさいわね、分かったわよ!!」
揺らすな!とオパールを引き剥がし、いつもの調子で怒鳴る。
「危ないことはしないからね!!」
「やったー!!」
「それじゃあ決まりね」
週末、ヘレンに案内されて六人でギルドに向かう。
冒険者登録を済ませ、掲示板に依頼を確認しに行くと、そのうちの一枚をイレーネがそっと指差した。
「これとかどう?」
「あー……依頼人の名前のところに小ーさい黒い丸がいくつか書いてあるでしょう?」
渋い顔で説明するヘレン。
「それは冒険者間の符牒でね。『この人は冒険者の扱いが良くない依頼人です』ってマークなの。その人は確か……難癖つけて報酬を減らそうとする常習犯ね」
「じゃあ、こっちの依頼は?」
「採集系は、対象の素材の知識がないと厳しいわよ。毒があったり、そもそも指定された採取場所が素材の生育・採取条件に合ってなかったり」
「……こっち……」
「この内容でこの報酬は多すぎ。ヤバい筋の可能性大よ、絶対ダメ」
「想像以上に闇だね!?」
「『ある程度安全』じゃなかったの!?」
やんややんやと言い合って、最終的に、家族経営の小さな商店の引越し手伝いに落ち着いた。
オパールとフィフィがヤンチャ盛りの子どもの相手、イレーネが赤ん坊の世話。商品など荷物の運搬はウルスラと店主である父親。作業行程の確認や細かい物の配置は、ソフィア・ヘレン・母親と役割分担をしてこなす。
「いやあ、助かったよ!」
「頼んでいた引越し業者が食あたりでキャンセルになった時には、どうなることかと……」
報酬を山分けし、無事、目的のお店でお揃いのペーパーウェイトを買うことができた。余った金で、パウンドケーキを一切れ買い、小さく分けて食べながら帰る。
「おいひいねえ」
「うん」
「また一緒にお出かけしよーね!」
「うん!」
世界一楽しい週末だった。
お読みいただき、ありがとうございました。




