1-7. 変わる学園生活③
少し短めです。
数日後。
ウルスラとフィフィは、友人たちといつもの裏庭にいた。
ソロソロと動くフィフィに、ソフィアが鋭く指摘する。
「フィフィ!手の角度はもう少し小さく!爪の先まで集中して!!」
「マジで!?ケッコー頑張ってんだけど!?」
「言葉遣い!!」
「はいっ!!」
背筋を伸ばすフィフィ。
ソフィアの熱血指導を横目に、ウルスラはそっとイレーネたちに謝った。
「ごめんね、急に連れて来ちゃって」
「いーや、よく連れて来てくれたわ」
イレーネが苦々しい顔で言った。
「ウルスラだから良かったものの、他所の侯爵令嬢相手にあんな喋り方したら、大問題よ。即刻不敬で無礼打ちで、人生退場」
「だよね……」
「そういう不幸な事故を減らすための寮分けでもあるんだけどね!」
機能していないのだから、仕方がない。
イレーネが指で首を斬る仕草をする横で、ヘレンがため息混じりに慰める。
「ウルが気にすることないわ。どのみち、学園内でフィアに会えば結果は同じだったでしょうから」
ソフィアは名門子爵家出身だけあって、礼儀作法には厳しい。
とにかく、見苦しいのが許せないらしい。同じクラスに礼儀作法のなっていない令嬢がいるだけでも、我慢ならないのだとか。
ぱん、と扇子で手のひらを叩く。
「まあ、今日はこのくらいにしておきましょう」
「へい……」
「『はい』」
「そ、ソフィア……」
昼食を食べ終えると、フィフィはチャッ、とコームを構えた。
「ふふふふ……さあ、お楽しみの時間!!」
ぐるりと周囲を見回し、標的を見定める。
今日最初のターゲットは、ソフィアだった。清流のような髪に、念入りに櫛を通していく。
「はああああ……さらさらホワイトブロンドに上品なゴールド、キラキラシルバー……!!」
胸の前で手を組み、弾んだ声を上げる。
「どれも可愛い〜っ!!いかにもお貴族様って感じ〜!!」
「ふふふ、ありがとう」
ソフィアが扇子で口元を隠しながら微笑むと、オパールがにこーっと笑った。
「そうでしょう! もっと褒めてくれていいんだよ!」
「アンタは少しは謙遜しなさいよ!?」
「確かに貴族らしい色合いよね」
ヘレンが本のページをめくりながら同意した。
「私みたいな歴史の浅い貴族や平民は、茶髪に茶目が一般的だから」
「ヘレンは絶対お化粧映えするよ!!」
褒めちぎりながらヘアアレンジをした後は、木陰で読書するヘレンににじり寄る。
「今日こそアタシにお化粧させて!?」
「そばかすが隠れるから嫌」
「隠さないメイク練習してきたから!ウルスラで!!」
最初こそ貴族令嬢に囲まれて縮こまっていたフィフィだったが、三日もすれば完全に地が出た。
心の底から見目を褒め称え、必ず今より綺麗にするから、自分に手入れさせろと要求する。銀髪を美しいハーフアップにされたイレーネが、珍獣を見る目で呟く。
「オパール並みに図太いわね、あの子」
「そうだね……」
ちなみに今は、「アイディアが降りてきた」とスケッチブックにデザイン画を描きつけている。あまりの馴染みっぷりに、安心を通り越して、ちょっとひやひやしてきた。
「はああぁぁぁ……最ッ高。もっと早くウルスラに話しかけてればよかった……」
一通り描いて満足したのか、恍惚とした顔でスケッチブックを抱きしめる。
「美の神ミュゼに感謝を……。誘ってくれたウルスラありがとう、学園に入れてくれたおっ父……じゃなかった、父さん、母さんありがとう……」
ソフィアの扇子の音を聞いて、素早く言い直す。
「これならいずれ、自作アクセの試着も頼めそうです……」
「ダダ漏れてるわよ」
「ホント図太いな」
ちなみにウルスラは、既にアクセやメイク、髪型などの実験台になっている。
『ウルスラってば、美人だしスタイルいいし髪キレイだから、何試すのも楽しいんだよね〜!』
とは、最近メイクのためにウルスラを早朝から叩き起こしている、フィフィの言だ。
(私も早起きな方なんだけどな……!?)
友人たちや、同学年のおしゃれな女子生徒たちが日々費やしている労力を想像して、震え上がったウルスラである。
しかしそのおかげか、最近は教室で話しかけてもらえることが増えた。
もちろん一番は彼女たちがいるここだが、なんだか居場所が増えたようで嬉しい。
すると、ツインテールが気に入ったらしいソフィアが、ふわりと振り返った。
お読みいただき、ありがとうございました。




