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【完結】嫡出の兄、妾腹の妹【御礼SS更新中】  作者: 紅月となり
第四部 嫡出の兄と妾腹の妹の周囲の人々
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4-1. 妾腹の妹の義母①

邪悪で怠惰な、彼女の話。


なんだか想定より長くなってしまいました……。



 この結婚は、失敗だった。



 それに気がついたのは、婚約者である当時のデュボワ侯爵令息との結婚式を終え、邸に到着してすぐのこと。運び込まれた私の荷物を勝手に漁り、強奪していく義両親と使用人の姿を見た時だった。



 咄嗟に抗議すると、夫となった人は私を怒鳴りつけ、殴って寝室に引きずって行った。




 婚約中の優しい顔は、偽物だったのだ。まんまと騙された情けなさに、翌朝、ベッドで泣きに泣いた。



 その直後から始まった新婚生活は、悪夢そのものだった。


 夫には暴力を振られ、義両親には顔を合わせる度嫌味を言われる。

 所詮は余所者とこちらを見下し、言うことを聞かない使用人。なのに、彼らの失敗や悪事は私のせい。

 実家に助けを求めても、「彼も頑張っているのだからお前も頑張れ」と見当違いの返事ばかり。


 そのせいか三回流産し、やっと産んだ子は義両親に取られた。




(悔しい)

 このまま終わってなるものですか。




 そうするうちに私は三十になり、夫に申し出る。



「離れに移ります。侯爵夫人としての仕事はしますので、貴方も仕事以外で私に関わらないでくださいな」


「なんだと!?」



 決定事項を告げると、夫はガタリと椅子を蹴って立ち上がった。

「まだ一人しか産んでいないだろうが!!」

「次身籠っても、また流産になる可能性が高いですもの。私、もう三十ですのよ? 妊娠できるかも怪しいわ」

 別に医師の診断を受けたとかではないので、懐妊の可能性はある。流産も、しないかもしれない。



 だが、もうこの男の子どものために悪阻やら何やらで苦しむのは御免だし、義両親に取られるのも癪だ。



(でも、離縁はしてあげない)

 侯爵家から離縁された出戻り令嬢よりも、侯爵夫人のままでいた方がメリットが大きい。口の端を歪める。



 散々苦しめられたのだもの、慰謝料くらい、貰ってもいいわよね?



 ばん、と机を叩く。


「嫁の分際で何を生意気な! 役目を拒否すると言うのであれば、離縁してやってもいいのだぞ!」

「そうね。で、そのだぁい嫌いな嫁の実家からの支援がないと、贅沢一つできない無能どもの集まりが、貴方たちデュボワ侯爵家」


 現在、義両親と息子は王都に住んでいる。


 大した理由ではない。ろくな娯楽のない領地よりも、嫁の実家の金を使って王都で遊んで余生を過ごしたい、ただそれだけのこと。


(くだらない)


 しかし、今はそれが都合いい。一瞬黙った夫だったが、すぐにはっ、と鼻を鳴らした。

「生家から見放された年増に何ができると言うんだ」

 立ち上がり、ずかずかとこちらに近づいてくる。


「身の程を思い知らせてやる!!」

 そう言って手を伸ばした、その時。



 夫がスタン!!と床に叩きつけられた。



「な……」

「あら、脳き……個の武勇を誇るデュボワの当主が、情けないこと」

 己を投げ飛ばした相手を、目を丸くして見上げる夫。扇子の裏でコロコロと笑い……冷たく睥睨する。


「護衛を雇っておいて良かったわ」

「……お前に、そんな金は」

「結婚前からの貯金を使ったの。私の個人的なお金よ」


 嫁いだ初日の夫や義父母たちの様子を見て、絶対にバレてはならないと確信した。大した額ではないけど、私の生命線。

 優秀な商人だった祖母の教えを思い出しながら、実家から連れてきた信用できる使用人を使い、時間をかけて増やした。どうせ、何を買ったところで「分不相応だ」と夫か義母に奪われるのだ。社交もしないし、それなら人に金を使った方が良い。

 そしてとうとう、十分な数と質の人手を揃えることができた。


 これから、さらに増やす。


 しゃがみ込み、真っ赤な顔でこちらを睨む夫に、にっこり微笑んだ。

「ごめんなさいね。私、狭量な余所者だから、もう貴方たちの我儘に付き合えないわ」


 これからは、私が我儘を通す番。



 そんな経緯で私が離れに移ってから、夫は娼館に入り浸りになった。


 本邸に残しておいた私に忠実な使用人から、そう報告があった。避妊はきっちりしているようだから、スペア目当てというわけではなさそうだ。扇の裏で、眉を顰める。

「我が夫は、発情した猿だったのかしら?」

「ブリアナ様、それは猿に失礼かと」

 実家から連れてきた従者のニールが、さらりと毒づいた。そうね、猿に失礼だわ。

(まあ、プロの方に転がしてもらいましょ)





 そうして数年経った頃、疎遠だった実家から、手紙が来た。





 最近、息子が実家にやってきて、「母の実家のものは自分のものだ」と、金目のものを奪っていってしまうのだという。



 「止めてほしい」という嘆願に、思わずため息が出る。



(嫁入り初日に、「嫁のものは婚家のもの」と、他人(ひと)の荷物を漁って強奪していく人たちに育てられた子なのよ? 良識を持ち合わせていたら、逆にびっくりよ)


 止めるも何も、むしろ、夫たちも合意の上での行動なのではないだろうか。そう書いて送ると、実家の家族はひどく驚いた様子だった。かつての私の訴えは、誇張された愚痴か何かだと思われていたらしい。

 再びため息。

(だから「あの子を取り返すのを手伝ってほしい」と散々頼んだのにね。「大袈裟だ」「先代侯爵夫妻に任せれば大丈夫」なんて……馬鹿な人たち)



 義両親に取られ、王都で育ち、学園を卒業して邸に戻ってきた息子。



 けれど彼は、夫と義両親の悪いところを混ぜて煮詰めたような男になっていた。私の言うことなんか聞きやしないし、そもそも会話が成立しない。

 「跡取りの養育も任されない無能な女の話を聞く義理はない」と鼻で笑われて終わりだ。


(というか、私はそういう最低最悪の嘘を吐く人間だと思われていたということよね? そんな相手に、今更何を求めているのかしら)


 腹が立ったので放置していたが、それでも、どうにかしろとうるさい実家。最新の手紙では、とうとう執務室の金庫までこじ開けようとしたらしい。嫌悪で吐き気がこみ上げる。

(夫より酷いじゃない。どう育てたらそうなるのよ?)

 重い腰を上げて本邸へ赴き、貴族として叱ってはみたものの、暴力を振るわれかけた。ニールが庇ってくれたので私は無傷だが、息子が告げ口したのか、夫まで離れに突撃してくる始末。


 哀れな子だと思う。申し訳ないとも。しかし、もはや私にできることはない。


 仕方がないので、改めて結婚から今に至るまでの経緯を説明し、ついでに夫と息子の罵倒語録も添えて、実家に送った。



 実家からの手紙は、二度と来なかった。



 風の噂によると、どうやら領地換えを願い出て、この北の端から南の端に領地を移したらしい。あそこなら、息子はそうそう襲撃できない。

(結局逃げるのね。謝罪も心配の言葉も無し、か。まあ良いけど)

 謀りごとを好むサイプレスにありながら、その素質についぞ恵まれず。せめて代わりにと守護の務めを担うも、それすら満足にこなせず。ようやく開花した商才も、祖母を最後に完全に枯れ果てて。


 一連の騒動で、多額の資産と先祖代々の領地、そしてサイプレス一族の庇護を失った。

 


 近い将来、あの家は滅ぶのだろう。うっそりと嗤う。



「ふふっ、いい気味ね。私の話をちゃんと聞かなかったから、こうなるのよ」



 泥棒どもを正当化した人たち。私の子を返して、と貴族の矜持をかなぐり捨てて泣き叫ぶ私を、半笑いで連れ戻した人たち。


 情など、とっくに失われていた。


 むしろ、もっと苦しめばいいとさえ思う。



(せいぜい後悔するがいいわ)

 ああ、援助は続けるよう、念を押しておかないとね。侯爵家から契約不履行で訴えられると脅せば、潰れるギリギリまで頑張るでしょう。侯爵令息を締め出してでも家を守る気概は、無いようだし。



 窓際で、ふう、と息を吐く。




 ……邪悪な家に嫁いで、私まで邪悪になってしまった気がする。



(………いいえ)


 息子を捨て、親を捨て、兄弟を捨て。


 そのくせ今の生活にしがみつき、何も手放せずにいる。




 どう足掻いても邪悪だ。使用人を下がらせた部屋、ぎしりと背もたれに寄りかかる。



「………誰か、何もかもぶち壊してくれないかしら」



 そんな願いもまた、邪悪だ。




お読みいただき、ありがとうございました。

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ジャイヤニズムな脳筋って 鉱山では回りの奴らがウルスラ兄より強いこと祈ろう。
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