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嫡出の兄、妾腹の妹  作者: 紅月となり
第二部 嫡出の兄
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2-21. 捕獲


 仕込んだ防具で、応戦する。



 先程と同じように甲高い音が響く。チャイブは長剣で彼の腕の防具を封じたまま、短剣を突き出した。



「!」



 首を傾けてかわし、長剣を押し返す。そのまま長剣で斬りかかるのを、腕の防具で捌く。



 連撃が止まったタイミングで距離を取り、動き回りながら小石や内装の欠片を拾い集め、指弾で攻撃する。それを次々短剣で打ち払うチャイブ。




 同時に長剣が、壁を、柱を、床を切り裂きながら、彼を追う。




「あんまり騒いだら、他の連中が気づくんじゃないかァ!?」


「買収済みです、お気になさらず!!」



 そう叫び返したチャイブは、サイプレスのジャケットの内側に仕込んであったナイフを器用に掴み、投擲した。ぎりぎりで躱す。




 ───やや変形ではあるが、チャイブが扱っているのは、北部流双剣術で間違いない。




 短剣の防御、長剣の攻撃を基本の型とする、攻防共に優れた剣術。但し、二種の武器が左右で別の動きをするという複雑性から、習得は極めて困難。


 実用まで昇華できる使い手は少ない……のだが。


(……手練れだな)

 その腕前も殺意も、躊躇のなさも、人を殺し慣れている人間のそれだ。


「ッ」

 と、一瞬前までサイプレスの頭があったところを、長剣が薙いでいった。背後の壁ががりり、と不快な音を立てる。


 仕込み防具は本来、不意打ちを防ぐためのものだ。あまり過信もできない。




(……仕掛けるか)




 ただ避けているように見せかけながら、窓際に誘導する。

 一息にカーテンを剥ぎ取り、割り込ませるようにして、視線を遮った。



 すぐさまチャイブの長剣が一閃し、カーテンを横に切り裂く。



 カーテンの間からチャイブと目が合った瞬間、サイプレスは、その隙に手元へ蹴り上げた『それ』を振り上げた。




 がっ、と鈍い音が起こる。




「あ」

 チャイブがあんぐりと口を開けた。




 短剣の横から、材木が生えていた。




 否、生えているのではない。刃に、食い込んでいるのだ。がっちりと。




 北部流双剣術で用いる短剣は、防御を主目的としているため、折れにくい頑丈な作りをしている。

 ただ、その分切れ味を犠牲にしていることが多い。材木など、頑丈で厚みのある物を無理に切ろうとすれば、当然「こう」なる。



 チャイブが間抜けな声を上げたその隙に、手刀を叩き込む。



「……ッ!」



 長剣がチャイブの手から落ち、硬質な音を立てる。一瞬痛みに顔を顰めたチャイブは、すぐさま剣を己の後ろに蹴り飛ばした。



 そして距離を取り、材木を抜き捨てて、短剣を構え直す。



(長剣は捨てて、俺に武器を持たせないことを優先したか)

 英断だ。実際、サイプレスは少し困っている。


(さすがにこれ以上武器なしは不味いな……)


 チャイブは何がなんでも長剣を拾わせないだろう。はっきり言って、装備の状況が同じなら、サイプレスの方が強いのだ。だからこそ、真っ先にジャケットを奪ったのだろうし。



 短剣で横に薙ぐように斬りかかるのを、のけぞってかわす。





(まだか?)



 早く、早く出てこい。





 と、その時。


 サイプレスの視界に、影が差した。




 ギィン!!





「……!?」

「……お逃げください、若様」


 チャイブがぎょっと目を瞠る。サイプレスを背にチャイブの剣を防いだその人影は、低く、静かな声で告げる。


「庭に仲間がいます。……ここは、我々が」

 



 それを見つめるサイプレスの顔は───








 ───嗤っていた。



「ッ!?」


 直後、己を庇った背中に飛びつき、隠し持っていたナイフを鞘ごと、口に突っ込む。困惑の色に染まった目が、肩越しにぎょろりとサイプレスを見た。



 そのまま片腕を捻り上げて引き倒し、背中を膝で押さえつける。背後から、大急ぎで戻って来たらしいオレガノの声がした。


「我が君!!」

「構うな!!」

 怒鳴って返す。



「そっちにも一人いるぞ!!」



 はっと息を呑む気配。直後、剣戟の音が響く。


 オレガノは腕の立つ剣士だ、ジギタリスもいる。不意打ちさえ防げれば、あとは問題ないだろう。

 鋭く注意を促す。


「三人だ」

「心得ております」


 殺意を綺麗に消し去ったチャイブが、いつものようにそつなく応じながら、周囲を警戒する。と。



 カタン。



 反射的に見上げると、吹き抜けの二階に人影。口の端を吊り上げるチャイブ。

「この程度の雑魚を寄越すとは」

「馬鹿にされたモンだなァ?」

 直後、声を張り上げる。



「アーティチョーク!!」



 その瞬間、二階の部屋に潜んでいたアーティチョーク姉弟が飛び出してきて、人影を前後から挟み込んだ。


「あーそ」

「びーま」



「「しょー!!」」



 単独ではやや戦闘力に欠ける二人だが、ひとたび連携すると、他の追随を許さない。あっという間に人影を制圧していく。すると、背後で木が潰れるような音がした。



 振り返ると、真ん中あたりが半分崩れ落ちた大階段と、その上で青い顔をしているオレガノ。



「あああああの、我が君……」

「おう、派手にやったな」

 恐らくは、木製のステップの一部が腐っていたのだろう。戦闘の負荷に耐えきれなかったか。だらんと脱力した曲者の腕を掴んで、オロオロと手を動かす。


「もっ、申し訳ありません!我が君の私財を……!」

「捨て売りの物件だ、そういうこともある」

 やはりダメだったか……と思い返しつつ、ひらりと手を振る。怪我もしていないようだし、相手もきっちり倒している。特に問題はない。


 拘束するよう命じると、恐る恐るという様子で、ジギタリスが階上から顔を覗かせた。

「……終わりましたか?」

「いいや」

 首を横に振る。


「外にまだ一人いる」

「ローズマリーの担当分がまだですね」

 サイプレスとチャイブが同時に答えた瞬間、玄関ホールにフッと影が差した。




 見上げると、商人風の若い男が、天井近くのガラスを突き破ったところだった。




 落下地点に当たりをつけて、二歩、後ろに下がる。男はそのまま、大量のガラス片と共に、派手な音を立てて玄関ホールの隅に積んであった廃材の山に突っ込んだ。アーティチョーク姉弟が手すりから身を乗り出し、のんびり首を傾げる。


「生きてますかね、あれ?」

「結構な高さでしたよ?」

「死んではいないだろ。多分」

 雑に返事をし、やはり捕縛を命じる。



 一拍置いて、黒いドレスの人影が、ふわりと着地した。



 靴の泥を払いながら、すっと立ち上がる。



「ヤダ、裾汚れたじゃない」

「御苦労、ローズマリー」

「あら、我が君」


 綺麗にセットされた髪をかきあげながら、ローズマリーは艶然と問いかけた。


「まさか、チャイブ如き小物に遅れは取っておりませんわね?」

「当然だ」


 すると、曲者を拘束していたチャイブが、笑顔で振り返る。

「ローズマリー、今の発言について、後で話があります」

「あらそう、頑張ってね」

 適当な返事をしながら、毛先をいじるローズマリー。戸惑い顔で二階から降りてきたアーティチョーク姉弟が、拘束した人物を引き摺りながらサイプレスに駆け寄る。



「何が!何やらっ、サッパリですが!」

「私たち、ちゃんと我が君のご期待に応えられましたか?」

「ああ。よくやってくれた」

「「良かったー!」」

 手を取り合い、きゃあきゃあと喜ぶ二人。




 すると、チャイブが興味深そうに問いかけた。



「それで、この後いかがなさいますか?」



お読みいただき、ありがとうございました。

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