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嫡出の兄、妾腹の妹  作者: 紅月となり
第一部 妾腹の妹
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1-5. 変わる学園生活①


 学園は、将来に向けて人脈を築く場でもある。



 要は社交場だ。そのため、より多くの生徒と知り合えるようにと一般科───一年生から三年生の間は、毎年クラス替えがある。

 一年では、ヘレンとソフィアが同じクラス、イレーネ、オパール、ウルスラは、それぞれ別のクラスだった。


(せっかく友達ができたんだし、二年生では同じクラスがいい!)


 今年度こそ。今年度こそ、みんなと同じクラスに。

 せめて友人たちの誰か一人とは、同じ教室で机を並べたい。





 そう、願っていたのに───。






「まさか、全員と違うクラスなんてぇぇぇ」

「ウル、うるさい」

 新年度、いつもの裏庭で泣き崩れると、ヘレンが本のページをめくりながら、こともなげに吐き捨てた。



 今年のクラス分けは、ソフィアとイレーネが同じクラス。あとは全員バラバラだ。



 神はいないとばかりに泣くウルスラに、ソフィアは眉尻を下げて声をかけた。

「爵位やら派閥やら立場やら面倒だから、学園ではここ以外、会ってもお互い知らんぷりしましょって言ったじゃない」

「同じクラスでも違うクラスでも一緒でしょーが」

 イレーネもそう言い募り、ヘレンは本から目を離さないまま言った。

「別に教室に友達が一人もいなくたって、学園生活は送れるわよ」

「そりゃヘレンはね!?」



 ヘレンは大の本好きで、「在学中に学園の蔵書を読破してみせる」と豪語していた。



 その宣言通り、休み時間のほぼ全てを読書に費やしていて、社交をしている様子が微塵もない。教室で孤立しようがどこ吹く風なのだろうが、ウルスラはそこまで強心臓にはなれない。

「ウルスラは寂しいんだよねえ」

「うん……」

 よしよしと背中をさすってくれるオパール。ちらと上目遣いをする。

「ソフィアとイレーネ、良いなあ……一緒のクラスで」

「まあね」

「どうせ私たちは、四年以降も淑女科で一緒になるのだけれど」

「それでもいいなあ……」

 肩を落としながら、のろのろと食事の支度を始める。ランチボックスの山を積み木のように解体しながら、最初の一つを選び取った。

「せめて、新しく同室になった子とは、仲良くしたいんだけど」

 のんびりとミートパイを頬張るオパール。

「まだ話せてないの?」

「話せてない……」




 去年度の終わり、つまり春休みに、ウルスラが入っていた寮が倒壊した。





 冗談のような話だが、事実である。学園は寄付によって成り立っており、生徒は家からの寄付金額によって、入れる寮の「格」が違う。

 家から放置されているウルスラがいるのは、最低ランクの寮。ウルスラが平民時代に住んでいた娼館よりちょっとマシ、くらいのおんぼろだった。



 そのせいか、長年放置されていた雨漏りと老朽化、季節外れの大雪のトリプルパンチで、あっさり逝ってしまったのだ。



 幸い長期休暇で寮は閉鎖中だったので、怪我人はいなかったのだが、寮舎は雪の下でぺしゃんこになっていた。「雪って重いんだな……」と再認識した瞬間である。

 今は、新設された寮で、部屋割りも新しく過ごしていた。しょんぼりと肩を落とす。



「噂のせいもあるのかな……ちょっと遠巻きにされてる気がするんだよね……」

「「「「ああ……」」」」



 なんと、一部の寮生の間では、ウルスラが暴れて旧寮舎を壊したことになっているのだ。気の毒そうな目をする友人たち。


「ウルスラ、旧寮で五回は床板踏み抜いたもんねえ……」

「ドアノブも取りまくって、最終的にノブなしになってたし……」

「訓練中へし折った剣は数知れず」

「信憑性も増すってもんよ……」


「事故だったんだってぇ……!」


 ウルスラは学園に入った頃から一気に身長が伸び、比例して腕力も強くなっていった。最近はだいぶ慣れたものの、当時は力加減が行き届いていなかったのである。




 ともかく今は、同室の生徒との関係構築だ。話題を強引に戻す。

「気軽に挨拶できるくらいの仲にはなりたいんだよね。どうすればいいと思う?」

「簡単だよ!」

 すると、友人たちの中では一番小柄で、愛らしい見目をしたオパールがぐっと拳を握った。



「拳か剣を交えればいいんだよ!一対一で正面から殴り合えば、自ずと相手のことが分かるし、自分のことも伝わるから!!」

「オパールって、見かけによらず脳筋よね……」



 いつも通り曇りない笑顔に、ソフィアはしみじみ呟いた。うん、と深く頷くヘレン。

「それでアンタは上手くいったの?」

「割と?」

「嘘でしょ……?」

 呆れ顔で問いかけるも、想定外の返事に目を丸くするイレーネ。大変に魅力的な提案だが、そんな理由で喧嘩を売ったら、確実に危ない人認定されてしまう。イレーネが眉を顰める。


「普通に、『笑顔で話す』じゃダメなの?」


 その言葉に、ヘレンも首を縦に振った。

「ウル、可愛いし、自信持って笑ってるだけで結構上手くいくと思うんだけど」

「そ、そうかな?」

 その言葉に、思わず頬が緩む。ソフィアも、扇子越しに小首を傾げた。

「髪型変えたら? 話しやすそうな雰囲気作り、大事よ」

「ウルスラの髪、オパールたちが頼まれて切ったの、そのままだもんね〜」

「髪かあ……」

 確かに、そうかもしれない。好き勝手うねる真っ赤な癖毛をつまみ上げる。


 一年の時指摘されてから、ウルスラは少し身だしなみに気を使うようになった。毛玉と化していた髪に櫛を通したり、ソフィアからもらった髪油をつけたり。友人たちに髪を切ってもらったりもして、今はどうにか「ギリギリ許容範囲」というくらいを保っている。



 しかし、あくまでその程度だ。確かに声はかけづらいだろう。



(ヘアアレンジくらいはどうにかなるかな?)

 一年生の時は勉強に追いつくので精一杯だったが、今なら多少、気持ちにも時間にも余裕がある。ウルスラは金を持っていないので、プロに切ってもらうのは無理だが、周囲を参考にして紐でまとめたり分け目を変えるくらいならできるはずだ。


 頷いて、ぐっと拳を作る。




「やってみるよ!笑顔!髪型!拳!」




「「「拳は忘れろ!!」」」




「なんでー!?」


「当たり前でしょうが!!」





 オパールの抗議の声は、イレーネの怒声と共に無視されたのだった。



お読みいただき、ありがとうございました。

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