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嫡出の兄、妾腹の妹  作者: 紅月となり
第一部 妾腹の妹
14/14

1-14. デュボワ家の周辺


 ともあれ、大きな不満がない以上、失政はしていないらしい。二皿目のパスタに手を伸ばすと、「次は私ね」とイレーネが手を上げた。


「領主繋がりで何かないか聞いてみたけど、ここ二十年くらいは、デュボワと付き合いがある貴族が稀みたい」

 

 そう言いながら、サンドイッチを手に取る。

「なんでも、先代侯爵夫人が王都でトラブルを起こしたとかで……。それ以来、社交からは遠ざかっている状態よ」

 齧り付き、咀嚼して飲み込む。

「多分、デュボワ一族内くらいしか付き合いがないんじゃないかしら」

「あー、それ多分私分かる」

 ランチボックスを抱えたフィフィが、ひょいと挙手した。

「なんか、どっかの商会の店頭で、嫁いびりしたんだって」

「しょうもなっ」

「それでなんで社交控えることになるの?」

 オパールが首を傾げると、ヘレンがぽつりと呟いた。

「フィフィから聞いて調べてみたら、その商会、ウォレス公爵家が後ろ盾だったわ」

 ウォレス公爵家。我が国で四家しかない公爵家の一つ。空気が凍る。



「おまけに来店してたウォレス公爵の前で、『嫁が夫のすることに口を出すな』『女がでしゃばるな』みたいな発言をしたらしくって……」



「女系一族のトップかつ女公爵の前で!?」


「そりゃ怒りの一つも買うわよ!!」



 国家防衛に重要な家ということで、明確な制裁は下されなかったが、以来ウォレス一族の出席する場は避けているのだという。イレーネが呆れ顔でぼやいた。

「この国で、ウォレス一族が一人も出ない社交場なんかほぼないわ。なるほど、そういうことね」

 道理でみんな言い淀んでたはずだわ、と呟く。祖父母は迂闊な人たちらしい……会ったことはないが。


 そもそもの話、祖母は若い頃から問題の多い人だったらしい。昔のデュボワ家を知っている者たちも、祖父……先代侯爵の結婚から距離を取ってる人がほとんどだったそうだ。ソフィアがぱちん、と扇子を鳴らす。



「商会関連では、金銭の動きがやや不自然、という印象ね」



「ここ十年ほど、デュボワ家並びにデュボワ侯爵領から流れてくる魔物素材に対して、侯爵家の支出がやや多いのではないか、と」


 デュボワ家とデュボワ侯爵領の主な収入源は、三つ。デュボワ家が王家から任されている国境防衛任務、領軍の派兵・領民の傭兵業。そして、魔物討伐で得た素材の売却だ。


 魔物素材は貴重なので、流通を追いやすい。「オパール情報でもそんな感じ〜」とまったり補足が入った。

 つ、と唇に指を当てる。

「『軍とか傭兵の依頼状況はずーっと変わってないのに、なーんか領主父子豪遊してな〜い?』って」

「まあ、北部辺境の市場は例のガーデロン家が強いから、あまり突っ込めなかったのだけれど。参考程度に」

「十分だよ、ありがとう!」

「しかし、こうなってくると、デュボワ家の内情調査は避けて通れないわね」

 ウルスラから聞き出した領地の情報や、物価などの詳細なデータを前に、ペンをぶらぶらさせるイレーネ。小さく頷く。



 ウルスラの婚約が必要な理由は結局分かっていないし、本当に豪遊してるなら、その資金はどこから出てるのか。



「十年でしょ?ウルスラが引き取られる前からだわ」

「出どころによっては、ウルスラも巻き込まれちゃう」

 フィフィがウルスラの腕を抱え込んで言うと、ヘレンが本越しにこちらを見た。

「となると……専門家を巻き込みたいところね」


 専門家。


 それはつまり、暗部の人間ということ。イレーネがオパールの方を振り返った。

「オパール、前にストーン家の影を預かってるって言ってたわよね? ……動かせる?」

「動かせなくもないけど〜……」

 そう言うと、オパールはちょっと口を尖らせた。



「北部辺境は、サイプレス家の影響が強すぎるよ」



「突っ込んで調べるには、うちの子たちじゃ厳しい〜」

「サイプレス家?」

 首を傾げる。すると、ソフィアとヘレンが作り物のような笑顔を浮かべて、こちらを振り返った。

「「……ウルスラ?」」

「覚えてなきゃいけない家だったんだね!?ごめん!!」

 慌てて謝ると、ソフィアは頰に手を当てため息を吐いた。

「サイプレス侯爵家は、デュボワ家・テルセン家と並ぶ、北部辺境の名家よ。……三砦が一隅、といえば思い出す?」

「あ」



 北部辺境には、「三砦」と呼ばれる、国防に重要な家がある。



 ウルスラの実家・デュボワ侯爵家と、テルセン辺境伯家。そして、サイプレス侯爵家だ。


 かの家は、北の国境の先、軍国に対する防諜や情報収集・工作活動などの任を国から任されている。「鉱国の夜と影」と謳われるシュゼイン公爵家に次ぐ暗部の名門であり、その優秀さは折り紙つきだ。



 確か、同学年に嫡男が通っていたはず。口を開けたウルスラとは対照的に、フィフィは未だピンと来ていない様子だ。ヘレンが声をかける。

「フィフィは見たことない? たまに北のサロンに繋がる廊下を、取り巻きぞろぞろ引き連れて歩いてるけど」

「……あ、あー!『夜雪の隊列』!」

 声を上げるフィフィ。耳慣れない単語に、首を傾げる。

「何それ?」

「お気軽に近づいたらヤバイ系の貴族は、実名伏せて平民生徒の間で情報共有されてんの。サイプレス侯爵令息とその取り巻きは、アタシでも知ってるくらい有名」




 血族が中心の集団らしく、皆一様に灰色がかった白銀の髪、灰色がかった淡い水色の瞳。




 集団で学園内を練り歩く様は、確かに夜の雪原に似ている。


「デュボワについて聞いている時に、何度か名前が上がったよ。関わったら絶対ダメって」

 さもありなん、と頷く。サイプレス侯爵令息のことは、武官科でも何度か噂を聞いたことがある。


 取り巻きから金品を巻き上げているだとか、ケンカを売った生徒が王都から消えただとか。


 イレーネとソフィアが揃って眉間に皺を寄せた。

「やっっば」

「本当に関わってはいけない系じゃないの」

「……あれと揉めたら大変そう……」

「でしょ?」

 オパールがうんざりした様子で、手をひらひらと振った。

「バレずに調査するなら、おじさま……うちの本家様か、諜報に特化した分家の力を借りないと〜」

「そうね……」

 扇子の裏で考え込むソフィア。



「デュボワと付き合いのある貴族って、本当にいないの?」

「残ってるのはデュボワ一族くらいだけど、下手に接触するとデュボワ家に勘付かれるかも」

「辞めた使用人の買収は?」

「探す過程でサイプレスに嗅ぎつけられるって」



「「「「「うーーーーん………」」」」」


「…………」



 頭を悩ませていると、木陰にいたヘレンが、おもむとに本を閉じた。


 立ち上がり、オパールの横に腰を落とす。そして内緒話をするように、オパールの顔に自分の顔を寄せた。


「確かサイプレス家とデュボワ家って、仲悪いわよね?」

「……悪いねえ」


 オパールが、こつん、と額をヘレンの額に合わせた。二人の会話に気がついて、ソフィアとイレーネが顔を見合わせる。フィフィが不安そうにウルスラの方を見た。






「デュボワの醜聞を調べる分には、協力してくれたり、しない?」






「「「「……………………………………………」」」」





「え?え?」





敵の敵は味方、なるか。


お読みいただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
なるほど、共犯者関係の始まり…?
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