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懐古テツクズ号第1話:氷獄の夜、小さな温もり

第11層。そこは「氷獄」の名に相応しい、生者の拒絶地帯だった。

 外気はマイナス30度を下回り、吹き荒れる吹雪は魔力を帯びた刃となって、並の防具など容易く切り裂く。そんな地獄を、ガストン特製の『魔導装甲キャンプ車・テツクズ号』は重厚なキャタピラ音を響かせて突き進んでいた。

「ガハハ! 外はえげつねえ嵐だが、このテツクズ号の装甲なら蚊に刺されたようなもんだぜ!」

 操縦席で上機嫌なガストンの声が響く。だが、その直後、車内の照明がふっと暗くなった。

「……おい、ガストン。急に寒くなったぞ」

 シュウが解体用の包丁を置き、眉をひそめる。

「わりぃ相棒! 11層の磁気嵐が予想以上にキツくてな。魔力燃料を節約するために、暖房出力を30%まで絞らせてもらうぜ。凍えそうになったら、隣の奴と抱き合って温まってな!」

 ガストンの無責任な言葉と共に、車内の気温が目に見えて下がっていく。鋼鉄の壁からはキンキンと冷気が伝わり、吐く息が白く染まった。

「……寒い。……これ、死活問題」

 ボソリと呟いたのは、猫耳スカウトのミーニャだった。

 彼女は亜人種の中でも特に寒さに弱い。普段は鋭い感覚で獲物を追い詰める彼女も、今は厚手の毛布を三枚重ねにして、芋虫のように丸まっている。だが、それでも足りないのか、彼女は這い出すようにしてシュウの座るソファへと近づいてきた。

「……シュウ。……ここ、一番温かい」

「おい、ミーニャ。俺の膝の上は椅子じゃないぞ」

「……非常事態。……体温の共有、生存戦略として、不可避」

 ミーニャはシュウの抗議を無視し、彼の太腿の間に器用に潜り込んだ。

 彼女はテツクズ号の「居住性Sランク」という快適さにあてられたのか、制服を脱ぎ、動きやすい部屋着姿だ。シュウの体に触れる彼女の肩は、驚くほど細く、そして冷え切っていた。

「……ん。……シュウ、熱い。……魔物喰いの、生命力……直に、感じる」

 ミーニャの猫尻尾が、寒さから逃れるようにシュウの腰にぎゅっと巻き付く。彼女の小さな頭がシュウの胸元に埋められ、そこから伝わる心音を確かめるように、彼女は深く息を吐いた。

 厚手の生地越しに、彼女の小さな鼓動がシュウの身体にダイレクトに伝わってくる。

「ちょっと! ミーニャ、あんた何やってるのよ!」

 毛布にくるまって震えていたフィオナが、顔を真っ赤にして立ち上がった。

「そんなにシュウにべったりくっつくなんて……学園の特待生として、はしたないわ! どきなさい、今すぐ!」

「……断る。……フィオナも、来ればいい。……シュウの右側、空いてる」

「な、ななな……!? 私が、そんな……っ。王族の私が、異性と密着して暖を取るなんて……」

 言いながらも、フィオナの身体は寒さでガタガタと震えている。

 彼女の視線は、シュウの隣にある「温かそうなスペース」と、ミーニャに独占されているシュウの胸元を交互に彷徨っていた。

「……ふ、ふん。私は魔法使いだもの。魔力操作で体温くらい……ひゃんっ!?」

 強がっていたエレインが、車体の大きな揺れでバランスを崩し、シュウの右側に倒れ込んだ。

「……あ、あいたた。……ちょっと、シュウ! 変なところに手が当たってるわよ!」

「俺じゃない、車が揺れたんだ」

 シュウが支えようと伸ばした手は、図らずもエレインの細い腰をしっかりと抱きしめる形になっていた。彼女の尖ったエルフ耳が、羞恥か、あるいは別の感情か、扇風機のような勢いでバタバタと動き出す。

「……あらあら。皆さん、言葉とは裏腹に、身体は正直ですわね」

 リィネが優雅に、けれど着物の裾を少し乱しながら、シュウの背後からその首筋に顔を寄せた。

「……私の千里眼によれば、今夜のテツクズ号は……もっと『熱く』なるようですわよ?」

 外はマイナス30度の氷地獄。

 だが、鋼鉄の箱の中では、四人の乙女たちの柔らかな体温と、それぞれの淡い恋心がシュウを包み込んでいた。

 ミーニャの尻尾がさらに強くシュウの足に絡みつく。彼女の冷えていた肌は、いつの間にか熱を帯び、シュウの「魔物喰い」としての荒々しい魔力と同調するように、深く、静かに疼き始めていた。

「……シュウ。……今夜は、離さない。……決定」

 ミーニャの囁きが耳朶を打ち、極寒の夜は、別の意味での火照りを帯びて更けていくのだった。

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