後日談冬5 約束の再確認、五人の未来
卒業式を二日後に控えた夜。
聖クロイツ学園は、いつになく静かな雪に包まれていた。
最後の営業を終えた《境界線の晩餐》学園支店。
今夜はもう灯りを落としている。
けれど厨房だけは、まだ小さな暖炉の火が残っていた。
そこにいたのは、いつもの五人とガストンだった。
「……なんだか変な感じね」
フィオナが椅子に腰掛け、静かな店内を見回す。
「つい昨日まで、ここで毎日騒いでいたのに」
「……ん。ちょっとさみしい」
ミーニャがシュウの隣で小さく耳を伏せた。
エレインは窓の外の雪空を見上げる。
「でも、終わりじゃないわ」
その声は、思ったよりも優しかった。
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テーブルの上には、シュウが作った夜食のシチューが並んでいた。
卒業前の、最後の学園夜食。
深層きのこ。
雪原根菜。
白霜草。
春から冬まで積み重ねてきた全ての季節の味。
「……うまい」
シュウが静かに言う。
「それ、自分で作ったんでしょうが」
フィオナが思わず笑った。
けれどそのやり取りが、妙に愛おしい。
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しばらく穏やかな沈黙が続いた後。
リィネが扇子を閉じ、静かに口を開いた。
「本編最下層での約束……覚えていらっしゃいますわよね」
空気が少しだけ変わる。
崩壊する二十一層。
悪魔を喰らった後の朝焼け。
そして、地上に出たら皆で来いという言葉。
あの日の約束は、今も全員の中にある。
「……ん。シュウの隣」
ミーニャが迷いなく言う。
あの時と同じ言葉。
けれど今はもっと強い意思がある。
「卒業しても、店でも旅でも、ずっと一緒」
銀の尻尾が静かに揺れた。
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次にフィオナが胸を張る。
「わたくしは王女として、王都と北方禁域の許可を取るわ」
視線は真っ直ぐシュウへ向いていた。
「でもそれだけじゃない。あなたと一緒に、王都の外も世界の果ても見たいの」
芽生えた想いの完成形。
もう迷いはない。
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エレインは少しだけ耳を赤くしながら、窓の外の欠けた星を見つめた。
「わたしは“空白の層”を見届けたい」
秋の観測実習。
欠けた北の星。
世界の縁。
全部がまだ続いている。
「未知の魔力があるなら、その先まで行く。……もちろん、あなたたちと一緒に」
その言葉は、彼女らしい未来宣言だった。
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リィネは柔らかく微笑む。
「未来視では、北方の先にまだ見ぬ白い大地が広がっていました」
雪原。
黒い塔。
白い地平。
「でも、その未来に映っていたのは景色ではなく――」
一拍置く。
「同じ食卓を囲む皆さまの姿でしたわ」
それが何より強い答えだった。
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シュウは静かに全員を見渡した。
交わした約束。
春夏秋冬を過ごしても、誰も離れなかった。
むしろもっと強くなった。
「……知ってる」
短い一言。
だがそれだけで十分だった。
全員の想いを、もう言葉以上に理解している。
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その時、ガストンが豪快に笑う。
「ガハハ! なら次は卒業後の遠征準備だな!」
工房棟の方角を親指で示した。
「テツクズ号はもう長距離遠征仕様に入ってる。北方禁域だろうが世界の果てだろうが走れるぜ!」
その言葉に、全員の空気が少しだけ明るくなる。
卒業は別れじゃない。
次の旅の始まりだ。
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店を出ると、雪が静かに降っていた。
白い校舎。
白い道。
白い未来。
ミーニャが自然にシュウの袖を掴む。
フィオナが反対側へ並ぶ。
エレインとリィネも、そのすぐ隣へ。
同じ並び。
でも今は、もっと自然だった。
「卒業したら」
フィオナが言う。
「ええ」
エレインが続く。
「……北へ」
ミーニャが頷く。
「未来は固定されましたわ」
リィネが微笑む。
シュウは白い空を見上げ、小さく息を吐く。
「……腹が減る旅になりそうだ」
その言葉に、全員が笑った。
卒業まで、あと二日。
約束は、もう揺るがない。




