第18話:【騎士団演習場】フィオナの特訓と、黄金の重圧
学園の騎士団演習場。石畳が敷き詰められた広大な空間に、黄金の魔力が重低音を響かせて渦巻いていた。
「……はぁっ! ――『絶対君主の審判』!!」
フィオナが細い剣を振り抜くと、演習場の中心に凄まじい重力圧が発生し、設置されていた模擬標的が一瞬にして塵へと変わる。彼女の黄金の髪は逆立ち、王女としての気高さが周囲の空気を震わせていた。
「……どう、シュウ! 私の力が、ただの『風紀委員の代行』ではないこと、思い知ったかしら!」
肩で息をしながら、勝ち誇ったように振り返るフィオナ。しかし、観客席で無造作に包丁を研いでいたシュウは、鼻先で微かに「獣」の匂いを感じ取っていた。
「……ああ。……だが、フィオナ。……お前のその魔力、遠くの『腹ペコ』を呼び寄せたぞ」
「……え?」
直後、演習場の防壁を突き破り、巨大な影が飛び込んできた。
それは、学園地下の古い遺構に潜んでいた、魔力を喰らう巨大な『岩石グモ』だった。黄金の重圧に引き寄せられ、獲物を求めてその八つの目を怪しく光らせる。
「な、なによこれ! 演習場にこんな魔物が……っ!」
不意を突かれたフィオナが体勢を崩した瞬間、クモから粘着性の糸が放たれる。
だが、その糸が彼女に届くことはなかった。
「……重すぎるんだ。……お前の魔力は、味が濃すぎる」
シュウが、フィオナの横を一瞬で通り抜ける。
一閃。
重力の渦を逆手に取った包丁の軌道が、巨大なクモの関節部分を紙細工のように断ち切った。
崩れ落ちる岩石の巨躯。シュウは、その脚の付け根から漏れ出す「澄んだ魔力の液」を小瓶で受け止める。
「……よし。……これ、煮詰めれば最高のジュレになるな」
「……ちょっと、私を助けた後に、開口一番『食材』の話なの!?」
フィオナは頬を膨らませて怒鳴るが、シュウが「……怪我はないか。……お前の黄金の魔力、……隠し味には最高だったぞ」と、ぶっきらぼうに手を差し出すと、彼女の怒りは一瞬で霧散した。
「……も、もう! ……それなら、そのジュレを使った料理、真っ先に私に食べさせなさいよね!」
差し出された手を握り返し、フィオナは夕日に照らされた顔を隠すように俯く。
演習場に響くのは、壊れた防壁を修理しに来たガストンの「ガハハ!」という笑い声と、王女の微かな、しかし幸せそうな心臓の鼓動だけだった。
次回予告
第19話:【裏庭】リィネの占いと、最後の一滴
運命の分岐点を感じ取ったリィネが、シュウを裏庭へ呼び出す。彼女が見せた「最後の占い」の結果。そして、学園生活最後の夜にふさわしい、静かな一皿とは……?




