後日談冬3 卒業試験・白銀採集行
聖夜祭から一週間後。
聖クロイツ学園は、年明けと同時に張り詰めた空気へ変わっていた。
廊下では卒業生たちが試験範囲の確認をし、訓練場では実技演習の音が朝から響いている。
楽しかった冬の祭りの余韻はまだ残っている。
けれど季節は、確実に終わりへ向かっていた。
「……卒業試験か」
工房棟前で、冬空を見上げながらシュウが呟く。
その隣では、テツクズ号が静かに白い湯気を吐いていた。
雪見温泉遠征、聖夜祭の買い出しを経て、今や五人の拠点としてすっかり馴染んでいる。
「ガハハ! 最後の実技ならこれ以上ないだろ!」
ガストン・ドワルフが車輪を叩いて笑う。
「卒業試験の課題は、北雪山脈での採集・調理・帰還。ついでにテツクズ号の長距離運用試験だ!」
「つまり、いつもの私たちね」
フィオナが微笑む。
その一言に、全員の緊張が少しだけ和らいだ。
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今回の課題は単純だ。
北雪山脈中腹にしか自生しない《白霜草》を採取し、山頂小屋で指定料理を完成させ、日没までに帰還すること。
だが実際には、卒業生たちの総合力を見る最終実技。
探索。
戦闘。
採集。
調理。
輸送。
仲間との連携。
この一年で積み上げてきた全てが試される。
「……ん。いつも通り」
ミーニャが耳を立てる。
「空気の流れと雪雲はわたしが読むわ」
エレインが星図板を抱える。
「進路と帰還時刻はわたくしが未来視で補佐します」
リィネが扇子を閉じた。
「食材管理と補給はわたくし」
フィオナが帳簿を抱える。
そしてガストンが豪快に胸を張る。
「車は任せろ!」
自然すぎる役割分担だった。
もう誰も迷わない。
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テツクズ号は雪原街道を北へ走る。
冬1よりも深い雪。
強い北風。
それでも車体は安定していた。
「改良した駆動軸が効いてるな!」
ガストンが満足げに笑う。
ミーニャは窓を少し開け、風の匂いを嗅ぐ。
「……北の匂い、濃い」
その言葉に車内が少し静かになる。
秋から続いてきた違和感。
古代搬送路。
王家禁域。
欠けた星。
未来視の白い雪原。
すべてがこの北に集まりつつあった。
だが今は卒業試験だ。
誰も口にはしない。
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中腹到着後、白霜草の採集は驚くほどスムーズだった。
ミーニャが雪の下の魔力流を見抜き、
エレインが凍結結界を解除し、
リィネが吹雪の切れ目を予測し、
フィオナが保存処理を指示する。
まるで一つの生き物のような連携。
シュウは採れた白霜草を見下ろし、小さく頷く。
「……うまそうだ」
「試験中でもそこなのね」
フィオナが苦笑する。
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山頂小屋。
最後の課題は調理だ。
白霜草と雪原鳥のクリーム煮。
テツクズ号の移動厨房をそのまま展開し、五人は自然に持ち場へ入る。
包丁の音。
鍋の湯気。
香草の香り。
この一年、何度も繰り返してきた景色だった。
「……腹が減った」
「完成前に食べないでよ」
エレインが即座に突っ込む。
そのやり取りに、誰もが少し笑う。
緊張よりも、もう愛着のほうが強い。
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完成した料理を試験官へ提出。
一口食べた老教授が静かに目を見開く。
「……見事だ」
それ以上の言葉はいらなかった。
五人は顔を見合わせ、自然に笑う。
これが今の自分たち。
卒業後も、そのまま旅へ出られる完成形だった。
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帰路、夕暮れの雪山。
赤く染まる山脈のさらに北。
白い地平線の向こうに、ほんの一瞬だけ黒い影が揺れた。
巨大な塔のような。
空に穴が空いたような。
次の瞬間には消えていた。
「……見えた?」
フィオナが小さく呟く。
リィネが静かに頷く。
「ええ。未来が少し、近づきましたわ」
ミーニャの耳が北へ向く。
「……呼んでる」
シュウは黒銀のマフラーを少しだけ締め直した。
「……卒業したら行く」
迷いのない声。
それを聞いた全員の表情が、不思議と穏やかになる。
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学園へ帰還した頃には夜空に星が戻っていた。
試験は成功。
卒業も、もう目の前。
嬉しいはずなのに、少しだけ寂しい。
けれどその先には、新しい旅が待っている。
白銀の雪道に残るテツクズ号の轍は、
そのまま北の果てへ続く未来の道筋のようだった。




