後日談冬2 聖夜祭と贈り物
雪見温泉遠征から戻った数日後。
工房棟の前には、冬仕様のテツクズ号が静かに停まっていた。
雪原を走破した幅広ブレード車輪にはまだ白い雪がわずかに残り、車体下部の魔導加熱板からは細い湯気が立ちのぼっている。
「ガハハ! 初陣大成功だな!」
ガストン・ドワルフが満足そうに車輪を叩く。
「これなら聖夜祭の買い出しも遠征も余裕だ。冬はこいつの本番だぜ!」
雪見温泉遠征で積んできた雪原根菜、山小屋の香草、雪苺、保存肉。
それらはすでに《境界線の晩餐》学園支店へ運び込まれていた。
今夜は、その食材で聖夜祭の晩餐を作る。
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冬の夜。
聖クロイツ学園は、年に一度の聖夜祭で幻想的な光に包まれていた。
中央広場の大樹には無数の魔法灯が吊るされ、雪の結晶を模した淡い光が静かに降り注いでいる。
空には星。
地には雪。
そして学園中に漂う甘い焼き菓子の香り。
「……綺麗」
ミーニャが銀の耳を揺らしながら見上げる。
その横で、エレインが少しだけ得意げに胸を張った。
「当然よ。雪と星の魔法灯、今日は特別仕様なんだから」
彼女の翡翠色の魔力が空へ溶けるたび、光の結晶がふわりと舞う。
まるで空そのものが祝福しているようだった。
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《境界線の晩餐》学園支店も、今夜だけは聖夜祭仕様。
窓辺には魔法キャンドル。
テーブルには白いクロス。
厨房ではシュウとガストンが、雪見温泉遠征で持ち帰った冬食材を使いながら聖夜限定の晩餐を仕上げていた。
香草ローストチキン。
雪苺のクリームケーキ。
深層きのこの白いシチュー。
雪原根菜のホットポット。
王都仕込みのスパイスホット果汁。
「ガハハ! 遠征の戦利品が全部ご馳走になるってのは最高だな!」
「……甘い匂いが強い」
「ケーキあるからな!」
シュウの鼻先がわずかに動く。
食欲と同時に、今日は少しだけ違う高揚感もあった。
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開店後、店はすぐに仲間たちだけの貸切空間になる。
今夜はあえて大勢を入れない。
五人で過ごす、卒業前最後の聖夜祭。
その時間そのものが特別だった。
フィオナは白銀の聖夜ドレス姿で席につき、王都から持ち込んだ大きな箱をテーブルへ置いた。
「約束してたプレゼント交換、やりましょう」
「……ん」
ミーニャの耳が期待でぴんと立つ。
リィネも狐尻尾をふわりと揺らした。
「……ふふ。この時間、未来でも大切でしたわ」
その一言に、少しだけ胸が温かくなる。
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最初にくじを引いたのはミーニャ。
小さな包みを開くと、中には銀糸で編まれたふわふわの手袋。
「それ、雪原用よ」
フィオナが少し照れながら言う。
「北へ行く時も使えるように」
ミーニャは目を丸くした後、すぐにシュウを見た。
「……これで、ずっと一緒に歩ける」
短い一言に、フィオナの頬が少し赤くなる。
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次はエレイン。
彼女の箱には、小さな魔導結晶のペンダントが入っていた。
差し出したのはリィネだ。
「未来視避けの護符ですわ。未知の空間でも魔力の乱れを抑えられますの」
「……これ、かなり高価じゃない」
エレインが目を丸くする。
「卒業祝いの前払いですわ」
少し照れたように笑い合う。
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リィネが受け取ったのは、ミーニャからの小さな革袋だった。
中には乾燥香草と保存肉。
「……旅で、お腹すかないように」
一瞬、リィネが目を細める。
「……ふふ。これは何より心強いですわ」
食卓を守る贈り物。
それが今の五人らしかった。
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フィオナの番。
箱を開けると、中には翡翠色の小さな星灯り結晶。
エレインが少しだけ視線を逸らす。
「王都の部屋でも、学園の夜空を思い出せるように」
フィオナはしばらく何も言えなかった。
「……ありがとう。すごく、嬉しいわ」
卒業後、それぞれの場所にいても繋がる光。
冬編にぴったりの贈り物だった。
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最後に、シュウ。
全員の視線が自然と集まる。
渡されたのは、四人連名の少し大きな包みだった。
開けると、中には黒銀のマフラー。
龍牙の紋章がさりげなく織り込まれている。
「北の風は強いもの」
フィオナが言う。
「……ん。寒いと、お腹すく」
ミーニャが真顔で頷く。
「魔力保温付きよ」
エレインが耳を赤くする。
「未来でも、あなたは前を歩いていましたから」
リィネが微笑む。
シュウはしばらく黙ってそれを見つめ、ゆっくりと首へ巻いた。
「……悪くない」
その一言だけで、四人の顔が一斉に綻ぶ。
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その後は晩餐。
ローストチキンを切り分け、
白いシチューをよそい、
雪苺ケーキを囲みながら笑い合う。
聖夜祭の魔法灯が窓の外で揺れ、雪が静かに降り積もっていく。
「卒業まで、あと少しですわね」
リィネがぽつりと呟く。
誰もすぐには答えない。
楽しい。
温かい。
ずっと続いてほしい。
だからこそ、その言葉が胸に残った。
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食後、店の外へ出る。
聖夜の雪空には、エレインの星灯りが静かに舞っていた。
シュウの首元の黒銀マフラーが、北風を優しく遮る。
ミーニャが自然と袖を掴む。
「……次の冬も、一緒」
「ああ」
短い返事。
けれどそれが、何より確かな約束だった。
聖夜の光の下、五人の影は雪の上に長く伸びていた。
この幸福な時間を胸に、季節は少しずつ卒業へ向かっていく。




