表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/61

後日談冬1 雪見温泉と白銀鍋


 初雪が聖クロイツ学園を白く染めた朝。


 工房棟の前には、冬仕様へ改修されたテツクズ号が堂々と停まっていた。


 雪原用の幅広ブレード車輪。

 車体下部の魔導加熱板。

 後部荷台には移動食堂仕様の長机と鍋保温台。


 そして中央には、赤々と燃える暖房炉。


 吐く息が白くなる寒さの中でも、車内はぬくもりに満ちていた。


「ガハハ! 初陣は雪見温泉遠征だ!」


 御者席で胸を張るガストン・ドワルフに、全員の視線が集まる。


「完璧ね」

 フィオナが白い冬用マントを整えながら頷く。


「……ん。鍋」

 ミーニャはすでに車内の鍋台を見つめて耳をぴんと立てていた。


「雪の結晶魔法、外で試したいわ」

 エレインが窓越しの雪空を見上げる。


「……ふふ。未来通りの冬ですわ」

 リィネが狐耳を揺らして微笑んだ。


 秋6で見た雪原の景色。


 それが今、本当に始まろうとしていた。



 シュウが最後に荷台へ乗り込む。


 荷物は大量の食材。


 深層きのこ。

 燻製肉。

 雪原で採れる根菜。

 王都からフィオナが取り寄せた香辛料。


 完全に鍋遠征だった。


「……腹が減った」


「出発前からそれ!?」

 フィオナが思わず笑う。


 けれどその声は、冬の冷たい空気の中で妙に心地よかった。



 テツクズ号は雪道を軽快に走り出す。


 幅広ブレード車輪が雪を噛み、白銀の街道を安定して進んでいく。


「すごい……全然揺れない」

 フィオナが感心する。


「ガハハ! 相棒と作ったからな!」


 車内では暖房炉の熱でぽかぽかだ。


 ミーニャは当然のようにシュウの隣へ座り、銀の尻尾を膝に巻きつけていた。


「……あったかい」


 エレインは天井へ魔法を流し込む。


 すると車内いっぱいに小さな雪の結晶と星灯りが舞い始めた。


「聖夜祭の予行演習よ」

 少し照れたように言う。


 フィオナの目が輝く。


「これ、王都の聖夜祭より綺麗かもしれないわ」


「……いい」

 シュウが短く言うと、エレインの耳がまた赤くなった。



 昼前、雪見温泉の山小屋へ到着する。


 山間の露天温泉からは白い湯気が立ち昇り、周囲の木々はすべて雪化粧。


 まるで絵本のような白銀世界だった。


「わぁ……」

 フィオナが思わず声を漏らす。


「……きれい」

 ミーニャも耳を揺らす。


 リィネは雪原を見渡しながら、どこか安心したように息を吐いた。


「ここまでは、まだ優しい未来ですわね」


 その言葉に、誰も深くは触れない。


 今はただ、この冬の始まりを楽しむ時間だった。



 温泉で冷えた身体を温めた後。


 いよいよミーニャ念願の雪見鍋が始まる。


 山小屋前の雪原に簡易テーブルを広げ、

 テツクズ号の鍋保温台から熱々の大鍋を降ろす。


 深層きのこ。

 燻製肉。

 雪根菜。

 香草。


 湯気と一緒に食欲を誘う香りが広がる。


「……これ」

 ミーニャの耳が幸せそうに揺れる。


「念願の雪原鍋ね」

 フィオナが笑う。


「寒い中で食べると、香りが立つわ」

 エレインが湯気越しに目を細める。


 シュウが一口すすり、小さく呟く。


「……うまい」


 その一言で、全員の表情が一気に綻んだ。



 鍋を囲みながら、自然と次の冬イベントの話になる。


「聖夜祭、今年は店でプレゼント交換しましょう」

 フィオナが提案する。


「雪と星の魔法灯、もっと増やせるわ」

 エレインが乗ってくる。


「……ケーキも」

 ミーニャは食にぶれない。


「卒業試験前の最後の大きな行事になりますわね」

 リィネが静かに言った。


 その一言で、空気がほんの少しだけ柔らかく沈む。


 卒業。


 それはまだ少し先。


 けれど、確実に近づいている。



 食後、雪原を少し歩く。


 白い世界の静けさの中で、北風が頬を撫でた。


 ミーニャの耳がぴくりと立つ。


「……北」


 その先、さらに白い山脈の向こう。


 まだ見えない北方禁域。


 秋から続いてきた“匂い”は、この冬になって少しだけ濃くなっていた。


「近づいてるのか」

 シュウが呟く。


 ミーニャは小さく頷く。


「……でも今は」

 シュウの袖を掴む。


「鍋と温泉のほうが大事」


 一瞬の沈黙。


 それから全員が吹き出した。


「そうね。今は冬を楽しみましょう」

 フィオナが笑う。



 夕暮れ、雪山が紅く染まっていく。


 温かな湯気。

 鍋の香り。

 仲間たちの笑い声。


 楽しいはずなのに、どこか胸の奥が少しだけ締め付けられる。


 この冬が終われば、卒業が近づく。


 けれど同時に、その先には新しい旅も待っている。


 白銀の空の向こう、北の果てへ続く見えない道。


 それを思いながら、五人を乗せたテツクズ号は夕暮れの雪道を静かに走り出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ