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後日談冬1 雪見温泉と白銀鍋


 初雪が聖クロイツ学園を白く染めた朝。


 工房棟の前には、冬仕様へ改修されたテツクズ号が堂々と停まっていた。


 雪原用の幅広ブレード車輪。

 車体下部の魔導加熱板。

 後部荷台には移動食堂仕様の長机と鍋保温台。


 そして中央には、赤々と燃える暖房炉。


 吐く息が白くなる寒さの中でも、車内はぬくもりに満ちていた。


「ガハハ! 初陣は雪見温泉遠征だ!」


 御者席で胸を張るガストン・ドワルフに、全員の視線が集まる。


「完璧ね」

 フィオナが白い冬用マントを整えながら頷く。


「……ん。鍋」

 ミーニャはすでに車内の鍋台を見つめて耳をぴんと立てていた。


「雪の結晶魔法、外で試したいわ」

 エレインが窓越しの雪空を見上げる。


「……ふふ。未来通りの冬ですわ」

 リィネが狐耳を揺らして微笑んだ。


 秋6で見た雪原の景色。


 それが今、本当に始まろうとしていた。


⸻


 シュウが最後に荷台へ乗り込む。


 荷物は大量の食材。


 深層きのこ。

 燻製肉。

 雪原で採れる根菜。

 王都からフィオナが取り寄せた香辛料。


 完全に鍋遠征だった。


「……腹が減った」


「出発前からそれ!?」

 フィオナが思わず笑う。


 けれどその声は、冬の冷たい空気の中で妙に心地よかった。


⸻


 テツクズ号は雪道を軽快に走り出す。


 幅広ブレード車輪が雪を噛み、白銀の街道を安定して進んでいく。


「すごい……全然揺れない」

 フィオナが感心する。


「ガハハ! 相棒と作ったからな!」


 車内では暖房炉の熱でぽかぽかだ。


 ミーニャは当然のようにシュウの隣へ座り、銀の尻尾を膝に巻きつけていた。


「……あったかい」


 エレインは天井へ魔法を流し込む。


 すると車内いっぱいに小さな雪の結晶と星灯りが舞い始めた。


「聖夜祭の予行演習よ」

 少し照れたように言う。


 フィオナの目が輝く。


「これ、王都の聖夜祭より綺麗かもしれないわ」


「……いい」

 シュウが短く言うと、エレインの耳がまた赤くなった。


⸻


 昼前、雪見温泉の山小屋へ到着する。


 山間の露天温泉からは白い湯気が立ち昇り、周囲の木々はすべて雪化粧。


 まるで絵本のような白銀世界だった。


「わぁ……」

 フィオナが思わず声を漏らす。


「……きれい」

 ミーニャも耳を揺らす。


 リィネは雪原を見渡しながら、どこか安心したように息を吐いた。


「ここまでは、まだ優しい未来ですわね」


 その言葉に、誰も深くは触れない。


 今はただ、この冬の始まりを楽しむ時間だった。


⸻


 温泉で冷えた身体を温めた後。


 いよいよミーニャ念願の雪見鍋が始まる。


 山小屋前の雪原に簡易テーブルを広げ、

 テツクズ号の鍋保温台から熱々の大鍋を降ろす。


 深層きのこ。

 燻製肉。

 雪根菜。

 香草。


 湯気と一緒に食欲を誘う香りが広がる。


「……これ」

 ミーニャの耳が幸せそうに揺れる。


「念願の雪原鍋ね」

 フィオナが笑う。


「寒い中で食べると、香りが立つわ」

 エレインが湯気越しに目を細める。


 シュウが一口すすり、小さく呟く。


「……うまい」


 その一言で、全員の表情が一気に綻んだ。


⸻


 鍋を囲みながら、自然と次の冬イベントの話になる。


「聖夜祭、今年は店でプレゼント交換しましょう」

 フィオナが提案する。


「雪と星の魔法灯、もっと増やせるわ」

 エレインが乗ってくる。


「……ケーキも」

 ミーニャは食にぶれない。


「卒業試験前の最後の大きな行事になりますわね」

 リィネが静かに言った。


 その一言で、空気がほんの少しだけ柔らかく沈む。


 卒業。


 それはまだ少し先。


 けれど、確実に近づいている。


⸻


 食後、雪原を少し歩く。


 白い世界の静けさの中で、北風が頬を撫でた。


 ミーニャの耳がぴくりと立つ。


「……北」


 その先、さらに白い山脈の向こう。


 まだ見えない北方禁域。


 秋から続いてきた“匂い”は、この冬になって少しだけ濃くなっていた。


「近づいてるのか」

 シュウが呟く。


 ミーニャは小さく頷く。


「……でも今は」

 シュウの袖を掴む。


「鍋と温泉のほうが大事」


 一瞬の沈黙。


 それから全員が吹き出した。


「そうね。今は冬を楽しみましょう」

 フィオナが笑う。


⸻


 夕暮れ、雪山が紅く染まっていく。


 温かな湯気。

 鍋の香り。

 仲間たちの笑い声。


 楽しいはずなのに、どこか胸の奥が少しだけ締め付けられる。


 この冬が終われば、卒業が近づく。


 けれど同時に、その先には新しい旅も待っている。


 白銀の空の向こう、北の果てへ続く見えない道。


 それを思いながら、五人を乗せたテツクズ号は夕暮れの雪道を静かに走り出した。

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