後日談秋7 テツクズ号、冬支度
秋祭の熱気がようやく落ち着きを見せた頃。
聖クロイツ学園の工房棟は、朝からやけに騒がしかった。
金属を叩く音。
魔導炉の駆動音。
誰かの笑い声。
その中心で豪快に笑っているのは、もちろんガストン・ドワルフだった。
「ガハハ! 冬前に相棒の相棒を仕上げるぞ!」
工房中央に鎮座するのは、鉄と魔鋼で組み上げられた移動拠点――テツクズ号。
夏の山岳演習で大活躍した鉄車は、今まさに冬仕様への大改修中だった。
車輪には雪原用の幅広ブレード。
車体下部には凍結防止の魔導加熱板。
そして後部には、新設された巨大な暖房炉。
「……でかくなったな」
シュウが見上げる。
「当たり前だろ! 雪見温泉に行くなら快適性は命だ!」
ガストンは胸を張った。
「ついでに冬食材の大量輸送、卒業試験遠征、聖夜祭の買い出しまで全部乗せだ!」
完全に冬イベント全部乗せ仕様だった。
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その言葉に、ヒロインたちの目が一斉に輝く。
「雪原で鍋……!」
ミーニャが銀の耳をぴんと立てる。
「……やりたい。雪の中で熱いシチュー」
「王都から聖夜用のケーキを持ち込むなら、この積載量は助かるわね」
フィオナが満足そうに頷く。
「なら車内の天井に星灯りの魔法を仕込むわ」
エレインが翡翠色の髪を揺らす。
「雪の日でも夜空みたいに見えるように」
「……ふふ。未来でも、この車にみんな乗っていましたわ」
リィネが狐尻尾を揺らして微笑む。
秋6で見た未来。
その景色が、今まさに現実になろうとしていた。
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ガストンは荷台の後部を開けた。
中には新設された長机と折りたたみ椅子。
さらに中央には、鍋を固定できる丸い保温台まで付いている。
「見ろ相棒! 移動食堂仕様だ!」
「……店だな」
「店ですわね」
リィネがくすりと笑う。
フィオナも思わず頬を緩めた。
「卒業後も、こうして移動しながら店を開けるかもしれないのね」
その一言に、空気が少しだけ柔らかくなる。
学園の外。
王都の外。
北方禁域の白地図の先。
どこへ行っても、この五人なら食卓を作れる。
そんな未来が、少しだけ現実味を帯びていた。
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昼過ぎ。
試運転を兼ねて、全員でテツクズ号へ乗り込むことになった。
暖房炉が静かに唸り、車内へ心地よい熱が広がる。
「……あったかい」
ミーニャがシュウの隣で満足そうに尻尾を揺らす。
「これなら雪見温泉でも快適ね」
フィオナが窓の外の秋空を見上げた。
エレインが天井に魔法を流し込む。
すると車内いっぱいに、小さな星灯りが広がった。
「わぁ……」
フィオナが思わず声を漏らす。
昼なのに、まるで聖夜祭の予行演習のようだった。
「冬はこれに雪の結晶も混ぜるわ」
エレインが少し照れながら言う。
「……いい」
シュウの短い一言に、彼女の耳が赤くなる。
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学園外周の坂道を一周して戻ってくる頃には、全員すっかり冬の予定で盛り上がっていた。
「雪見温泉の後は聖夜祭、その後は卒業試験ですわね」
リィネが指を折る。
「卒業試験の前に初雪の森へ食材採りもいいわ」
フィオナが乗ってくる。
「雪うさぎ型の魔法灯、作れるかも」
エレインが考え込み、
「……鍋」
ミーニャだけは最初から最後まで一貫していた。
ガストンが豪快に笑う。
「ガハハ! 冬も忙しくなるな!」
それが嬉しくて仕方ないようだった。
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だが、工房へ戻ったその時だった。
テツクズ号の暖房炉が、ぶるりと一度だけ低く脈打つ。
赤い炉心の奥で、一瞬だけ黒い紋様が浮かび上がった。
フィオナの表情がわずかに変わる。
「……今の紋様」
「知ってるのか?」
シュウが問う。
彼女は静かに頷いた。
「王城図書塔で見た北方禁域の封印紋様と、同じだったわ」
一瞬、空気が静まる。
ミーニャの耳がぴくりと立つ。
「……北の匂い。少し、近づいた」
エレインも窓の外、北の空を見上げる。
欠けた星の闇は、今日もそこにあった。
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けれど次の瞬間、ガストンが豪快に炉心を叩いた。
「ガハハ! 冬前の機嫌取りだろ! 問題ねぇ!」
空気が一気に和らぐ。
フィオナも苦笑した。
「……そうね。今は冬の準備を楽しみましょう」
「……鍋」
ミーニャが真顔で念押しする。
「わかってるわよ」
全員が笑った。
秋は終わり、次はいよいよ冬。
雪見温泉。
聖夜祭。
卒業試験。
そして旅立ち。
そのすべてを乗せて、テツクズ号は静かに冬を待っていた。




