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第17話:【温室】薬草園の守護者と、エルフの秘密

学園の最果て、古びた魔導温室。そこは精霊の加護が濃く、エルフであるエレインだけが入ることを許された聖域だった。

 最近、シュウが「肉の臭みを消しつつ、魔力を活性化させる香草が足りない」と零していたのを、彼女は聞き逃さなかった。

「……ふふ。これさえ完成すれば、シュウも私に感謝して、耳の付け根くらい触らせてくれるかしら……っ」

 エレインは翡翠色の耳を幸せそうにパタパタと震わせ、深紅の花を咲かせる『焔の月光草』に魔力を注ぎ込んでいた。

 しかし、その献身的な魔力が、温室に紛れ込んでいた外来種の魔導植物『暴食の蔓』を呼び覚ましてしまった。

「……きゃっ!? な、なによこれ! 離しなさい!」

 突如として床から躍り出た漆黒の蔓が、エレインの細い足首を絡め取り、宙へと吊り上げる。

 精霊の加護が裏目に出て、植物は彼女の魔力を吸い取り、みるみるうちに巨大化していく。温室のガラスが内側からミシミシと悲鳴を上げた、その時――。

「……騒がしいな。……温室が、泣いているぞ」

 静かな声と共に、温室の扉が蹴破られた。

 立っていたのは、腰に黒光りする包丁を帯びたシュウだ。

「シュ、シュウ!? 来ちゃダメ! この植物、私の魔力を食べて……ひゃんっ、耳を触らないでぇ!」

 暴走した蔓が、エレインの敏感な耳にまで伸びようとした瞬間。

 シュウの姿が掻き消えた。

 一閃。

 

 目にも止まらぬ速さで振るわれた包丁が、エレインを傷つけることなく、複雑に絡み合った蔓の「急所」だけを正確に断ち切った。

 重力から解放された彼女を、シュウは片腕でしっかりと受け止める。

「……大丈夫か。……これ、いい『出汁』になりそうだ」

「……ば、バカ! こんな時に何言ってるのよ……っ」

 エレインは真っ赤になった耳を隠すようにシュウの胸に顔を埋める。

 シュウは足元でぴくぴくと動く蔓の破片を拾い上げ、満足げに頷いた。

「……エレイン。……お前が育てたこの『焔の月光草』、最高の出来だ。……今夜は、これを使って特別な一皿を作ってやる」

「……ほ、本当? ……じゃあ、デザートも付けてよね。……二個よ、二個!」

 耳をプロペラのように高速回転させ、強がるエルフの乙女。

 温室を包む夕闇の中、二人の影は長く伸び、甘く香る草花の匂いに溶けていった。

次回予告

第18話:【騎士団演習場】フィオナの特訓と、黄金の重圧

「王女の剣」を見せつけるべく、シュウを演習場へ呼び出すフィオナ。しかし、彼女の放つ黄金の重力波が想定外の獲物を引き寄せてしまい……。

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