第16話:【教室】雨の日のトランプ、あるいは「全賭け」
窓の外は、叩きつけるような激しい雨。屋外訓練が中止となった放課後の教室には、不気味なほど研ぎ澄まされた沈黙が流れていた。
机を囲むのは、シュウ、フィオナ、リィネ、ミーニャ、そして耳をピリつかせたエレインの五人だ。
「……ふふ。因果の流れは、すべてこの手の中にありますわ」
リィネが優雅に扇を閉じ、手元の札を扇状に広げる。彼女の豊かな狐尻尾は、勝利を確信したかのようにゆったりと、大きな弧を描いて揺れていた。
「……ずるい。……リィネ、絶対何かしてる。……野生の勘が、そう言ってる」
ミーニャが銀色の猫尻尾を逆立て、ジロリとリィネを睨む。彼女の目の前には、すでに数枚の「負け札」が積まれていた。
「な、何よその余裕は! 私だって、王家の運気を舐めないでほしいわ!」
フィオナが顔を真っ赤にして札を叩きつける。しかし、その手元はリィネの計算通りに誘導されていた。
「……おい。……早くしろ。……次の皿の仕込みがある」
シュウが淡々と札を出す。彼は全く勝負に興味がないように見えたが、その無欲さが逆にリィネの計算を狂わせ、場は混迷を極めていた。
「いい? 最後に勝った一人が、シュウに『何でも一つ、願い事を聞いてもらえる』……。……これ、精霊に誓った絶対のルールなんだからね!」
エレインが翡翠色の耳をプロペラのように激しく回転させ、鼻息荒く宣言する。彼女の狙いは、もちろん「二人きりの特製ディナー」だ。
「……チェック。……これで、因果は固定されましたわ」
リィネが勝ち誇ったように最後の一枚を場に出そうとした、その瞬間。
「……待て。……ジョーカーだ」
シュウが無造作に放った一枚が、リィネの完璧な計算を真っ向から粉砕した。
「え……? な、なぜ……? 私の計算では、その札は山札の底に……っ!」
「……ただの勘だ。……肉の焼き加減を当てるのと、大差ない」
静寂。
そして、勝者がシュウになったことで、全員の「願い事」の矛先が迷子になる。
「……じゃあ、俺の願いだ。……今日の夕飯、全員で『巨大トカゲの激辛煮込み』の試食を手伝え。……一人でも残したら、明日の朝飯は抜きだ」
「「「ええぇぇぇぇっ!?」」」
悲鳴のような声が教室に響く。
リィネは計算外の展開に呆然とし、フィオナは激辛への恐怖に震え、ミーニャは尻尾を丸める。
雨の日の教室。それは、甘い恋の駆け引きが、シュウの一振りの「包丁(札)」によって、阿鼻叫喚の食事会へと解体された瞬間だった。
次回予告
第17話:【温室】薬草園の守護者と、エルフの秘密
シュウに「最高の香草」を贈るため、秘密の温室を育てるエレイン。しかし、そこには魔力が暴走した「食人植物」が紛れ込んでいた! 駆けつけたシュウが見た、耳を真っ赤にした彼女の秘密とは……?




