第14話:【学園祭当日】境界線の「出店」パニック
学園祭当日。校庭の隅に陣取った『テツクズ号』の煙突から、暴力的なまでに芳醇な香りが解き放たれた。それは、シュウが未明から煮込んだ「沼地に潜む巨ワニ」のテールスープと、スパイスを効かせた串焼きの匂いだ。
「な、何なのこの匂い……!? 身体の底から魔力が湧き上がってくるみたい!」
「ゴミスキル保持者の出し物だって聞いてたけど……おい、並ぼうぜ!」
当初は遠巻きに見ていた生徒たちが、一人、また一人と吸い寄せられ、気づけばテツクズ号の前には校門まで続く長蛇の列が形成されていた。
「ちょっと! 押し合わないで! 列を乱す者は、王室への不敬罪……じゃなくて、風紀を乱すものとして最後尾に回ってもらうわよ!」
黄金の髪をなびかせ、慣れないエプロンドレス姿で指示を飛ばすのはフィオナだ。彼女の天性の威厳――「王家の接客」は、殺気立つ空腹の生徒たちを一瞬で従わせる圧倒的な統率力を見せていた。
「……注文。……スープ三つ。……串焼き五本。……影、運んで」
ミーニャは、調理場のシュウから次々と繰り出される皿を、無数の「影の触手」を操って同時に配膳していく。その銀色の猫尻尾は、忙しく動き回りながらも、時折シュウの背中をポンと叩いて「次、催促」と無言の合図を送っていた。
「……ふふ。皆様、会計はこちらですわ。……お代は魔貨だけでなく、皆様が持つ『美味しい情報』でもよろしくてよ?」
リィネは受付で扇を広げ、計算高い微笑みで客たちの財布と情報を同時に管理していく。彼女の豊かな狐尻尾が、満足げにゆらゆらと揺れるたび、売上金が山のように積み上がっていった。
「ガハハ! シュウ、俺の打った超高速回転ロースターの調子はどうだ!」
「……最高だ。……火が均一に通る。……出すぞ、ガストン」
シュウが黄金色に焼き上がった肉に包丁を入れ、皿に盛る。その一挙手一投足に、客席からは感嘆の声が漏れる。
「ゴミ」と蔑まれていた少年の技が、今、学園中の常識を塗り替えようとしていた。
「……もう、信じられないわね。精霊たちが『お腹空いた』って大合唱してるじゃない……っ」
休憩時間、列に並んでいたエレインが、翡翠色の耳を真っ赤にしてシュウの元へやってきた。
「ほら、これ。……味見してあげるから、早く出しなさいよ!」
差し出された串焼きを頬張るエルフの乙女の耳が、幸福感でプロペラのように回転を始める。
それは、後に世界を席巻する伝説の料理店『境界線の晩餐』が、初めて大衆の前にその産声を上げた瞬間だった。
次回予告
第15話:【体育祭・後夜祭】キャンプファイヤーの誓い
祭りの終わり。暗闇に燃える炎を囲みながら、五人と一人が語り合う。シュウが差し出した「一皿」を分け合いながら、彼らはまだ見ぬ「境界線の先」への想いを重ね……。




