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後日談秋4 王女の視察と、世界地図の向こう

 学園祭が終わって三日後。


 秋晴れの王都へ向かう馬車の中で、フィオナは書類束を抱えながら小さくため息をついた。


「どうして学園祭の収支報告に、あなたまでついて来てるのよ」


 向かいの席で腕を組んだシュウは、窓の外を流れる街道を眺めたまま答える。


「護衛だろ」


「そ、それはそうだけど……」


 フィオナの頬が少しだけ赤い。


 実際には、生徒会長であり王女でもある彼女の王都帰還に護衛が必要なのは事実だ。


 だがそれ以上に。


 学園祭の成功を一番近くで見ていたシュウに、王都の反応を見せたかった。


 そんな小さな私情も混ざっていた。


「……視察よ。王都の市場や厨房設備も見ておきたいの」


「飯の話なら行く意味はある」


「そこは素直なのね……」


 思わず笑みが漏れる。


⸻


 王都は秋の収穫祭を前に賑わっていた。


 石畳の大通りには香草、果実、きのこ、燻製肉。


 市場の匂いに、シュウの鼻が自然と反応する。


「……腹が減った」


「着いて早々それ!?」


「この香草、学園より質がいい」

「もう完全に料理人目線じゃない……」


 結局、報告前に二人は市場を一周することになった。


 フィオナは少し呆れながらも、どこか楽しそうだ。


 王女として見る王都。

 そしてシュウと並んで歩く王都。


 同じ景色なのに、今日は少しだけ違って見えた。


⸻


 午後。


 王城の一室で、学園祭の収支報告会が始まる。


 野外活動部によるレストラン企画の売上と評判は予想以上で、城の財務官たちも驚きを隠せない。


「学園内だけでこれほどの経済効果とは……」

「地方巡回事業にも応用可能かもしれません」


 その言葉に、フィオナの目が少しだけ輝く。


「……でしょう?」


 誇らしげな横顔。


 それを見てシュウは静かに頷く。


「お前、向いてるな」


「な、何がよ」


「人を動かすの」


 一瞬、フィオナの呼吸が止まる。


 それは王族として、彼女が一番欲しかった言葉だった。


「……感謝しなさいよね」


 小さな声でしか返せなかった。


⸻


 報告を終えた後。


 フィオナはシュウを連れて王城図書塔の上層へ向かった。


「視察の本命はこっちよ」


 重い扉の向こうには、王家しか閲覧できない古地図資料室。


 壁一面に、世界各地の地図と迷宮層図が並んでいる。


「……広いな」

「王族の義務よ。世界を知るのは」


 フィオナは一枚の古びた羊皮紙を慎重に広げた。


 王国北方禁域の古地図。


 山脈の先。

 湖を越えたさらに北。

 誰も踏み入らない白地の空白地帯。


 その端に、古い文字が刻まれていた。


古代搬送路・北方終点

王家封印指定区域


 シュウの目が細くなる。


 夏の山で見つけた古い鉄路。

 ミーニャが感じた北の匂い。


 全部が一本に繋がった気がした。


「……ここか」


「まだただの古文書よ」

 フィオナはあくまで軽い調子で言う。

「でも卒業後、もし遠くを見るなら……王家の許可が必要になる」


 そこで少しだけ視線を逸らした。


「その時は、わたくしが通してあげる」


 王女としての言葉。

 そして、仲間としての約束。


⸻


 帰りの馬車。


 夕暮れの王都が窓の外を流れていく。


 フィオナは書類鞄の中へ古地図の写しをそっとしまい込んだ。


「ねえ、シュウ」


「なんだ」


「卒業したら……王都の外も、もっと見てみたいと思わない?」


 少しだけ不安を隠した声。


 シュウは迷いなく答える。


「……腹が減る場所なら、どこでも行く」


 一瞬の沈黙。


 それからフィオナは吹き出した。


「もう、本当にあなたらしいわね」


 けれどその答えが、何より嬉しかった。


 世界はまだ広い。


 学園の外も。

 王都の先も。

 北方禁域の白地図の向こうも。


 卒業まで、あと少し。


 その先に続く旅路を思いながら、二人を乗せた馬車は夕焼けの街道を静かに走り続けた。

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