第11話:【調理実習】四華による「シュウ争奪戦」
聖クロイツ学園の広大な調理実習室。今日は自由課題の実習とあって、生徒たちは思い思いの班に分かれていたが、一箇所だけ、異常な魔力圧を放つ一角があった。
「……よし。……まずは、この『森を駆ける巨鳥』のモモ肉から解体する」
シュウが包丁を握る中心に、学園の最高戦力「四華」が当然のように集結していた。
「シュウ! 私が王女として、最高級のスパイスを調合してあげたわ! 感謝して使いなさいよね!」
フィオナが黄金の小瓶を掲げ、シュウの右隣を死守する。
「……ん。……野菜、切った。……シュウ。……あーん、していい?」
ミーニャが音もなく左側に潜り込み、銀色の猫尻尾をシュウの腰に巻き付けて、剥いたばかりの果実を差し出す。
「ちょっと! そこでイチャイチャしないのよ! 火加減は私の精霊魔法が一番なんだから、シュウ、私を見てなさいよ!」
エレインが魔導コンロの前で、翡翠色の耳をプロペラのようにパタパタと激しく震わせながら、精密な温度管理を披露する。
「……ふふ。皆様、お熱いですわね。……シュウ様、味の構成案はこちらで完璧に計算済みですわ。……私の隣で、心置きなく腕を振るってくださいな」
リィネが優雅に扇を閉じ、豊かな狐尻尾でシュウの背中をそっと撫でる。
周囲の生徒たちは、その「学園崩壊レベル」の布陣に恐れおののき、遠巻きに眺めることしかできない。
「……喧しい。……フィオナ、そのスパイスは後だ。……ミーニャ、今は手が離せない。……エレイン、火をあと三度下げろ。……リィネ、その構成は少し甘すぎる」
シュウの冷静な指示が飛ぶたび、乙女たちは「はいっ!」と、あるいは「もう!」と頬を染めながらも、一糸乱れぬ動きで連携を始める。
シュウの包丁が閃くたび、魔物の肉は芸術的な切り口を見せ、エレインの炎がそれを黄金色に染め上げていく。
実習室に満ちる、かつて誰も嗅いだことのない芳醇な香り。
それは、後に世界を救うことになる彼らが、初めて「一つの皿」を作り上げた、記念すべき騒乱の記録だった。
次回予告
第12話:【図書室】禁書の解読と、狐の甘い罠
失われた古代のレシピを探し、深夜の図書室へ忍び込むシュウ。しかし、そこにはリィネが「因果の導き」で先回りしていた。暗い書庫の隅、狐の乙女が仕掛けた「甘い罠」とは……?




