第10話:【部室棟】夜の学園と、未来の設計図
月明かりが青白く廊下を照らす、深夜の部室棟。
学園の喧騒が嘘のように消え去った一角で、ガストンの工房を兼ねた部室だけが、鈍い魔導ランプの光を漏らしていた。
「……おう、シュウ。これを見てみろ。お前が言ってた『魔物の骨も一瞬で断つ調理台』の補強案だ」
ガストンが広げたのは、羊皮紙に書き殴られた無骨な設計図。そこには学園の備品とは思えないほど、頑強で、かつ実用性を極めたキッチンの構想が描かれていた。
「……いいな。……カウンターは、もう少し低くしてくれ。……客の顔が、よく見えるように」
「ガハハ! 客か! お前の料理を『ゴミ』扱いしない、命知らずな連中が集まる店か。そいつは愉快だぜ!」
シュウは図面の一角を指先でなぞる。
今はまだ、学園の片隅で「変なものを喰う奴」と囁かれる少年。けれど彼の瞳には、いつか境界線を越えた先に築く、誰にも邪魔されない聖域の姿が映っていた。
「……ふふ。そのカウンターの端には、私の指定席を用意してくださるのかしら?」
暗闇から、鈴の音のような声が響いた。
影の中から優雅に姿を現したのは、リィネだ。彼女の豊かな狐尻尾が、月光を浴びて銀色に輝き、ゆらりと揺れる。
「リィネか。……こんな時間に、何の用だ」
「あら、心外ですわ。……未来の『帳簿』を預かる身として、視察に来ただけですもの」
リィネはシュウの隣に滑り込むと、勝手に図面の余白へ「会計・管理」と書き加えた。
「私の計算によれば、シュウ様の店は、数年以内にこの国の経済を裏から動かすほどの影響力を持ちますわ。……その因果、私が今のうちに固定しておきませんと」
「おいおい、俺の打つ厨房が『利権の巣窟』になっちまうな!」
ガストンが笑い飛ばすが、シュウは否定しなかった。
「……勝手にしろ。……ただし、一番美味いところは、俺が喰う」
「ええ、もちろん。……そのおこぼれをいただくのは、私ですわよ」
リィネがシュウの肩にそっと寄り添い、黄金の瞳を細める。
まだ何者でもない少年と、彼を信じる偏屈な職人、そして未来を見通す狐の乙女。
深夜の部室で交わされた約束は、やがて世界を救った後の『境界線の晩餐』として、現実のものとなる。
次回予告
第11話:【調理実習】四華による「シュウ争奪戦」
全校生徒注目の調理実習。自由参加の班分けで、シュウの周りには「四華」の面々が当然のように集結する。伝説の「学園崩壊レベル」の調理班が、今、包丁を握り……。




