後日談秋2 学園祭ミスコン-選ばれない答え-
学園祭の夕刻。
中央広場に特設された大舞台は、昼間のレストラン以上の熱気に包まれていた。
聖クロイツ学園名物――秋華祭ミスコンテスト。
観客席はすでに満員。
立ち見の生徒までぎっしりと並び、魔導照明が夕暮れの空を華やかに染めている。
「なんで野外活動部から四人も出ることになってるのよ!」
舞台袖で、フィオナが頬を赤くして声を上げた。
今日の彼女は王女礼装を模した純白と金のドレス。
肩口には小さな王冠の飾り、胸元には龍牙のブローチ。
気品と可憐さを兼ね備えた姿に、すでに周囲の視線が集まっている。
「生徒会推薦と学園祭人気投票の結果ですもの。逃げられませんわ」
リィネが涼しい顔で扇子を揺らした。
彼女は深紅を基調にした和装ドレス。
狐耳と大きな尻尾が映えるよう、帯には金糸の月模様が織り込まれている。
「……ん。シュウが見るなら、出る」
ミーニャは黒と銀の猫耳ドレス姿で、耳をぴんと立てた。
短めのスカートから覗く脚線美と、尻尾に巻いた小さなリボンが凶悪な可愛さを放っている。
「ちょ、ちょっと待って。なんでわたしまで……」
最後にエレインが長い翡翠髪を揺らしながら、星屑のような薄紫ドレスを整える。
精霊光を織り込んだその衣装は、動くたびに淡い光を散らしていた。
「だってあなた、昼の魔法演出で人気爆発だったじゃない」
フィオナが即答する。
「……うっ」
否定できなかった。
⸻
その頃、観客席最前列。
シュウはガストンに無理やり審査補助席へ座らされていた。
「ガハハ! 相棒、こういうのも立派な学園行事だ!」
「……腹は減る」
「何でそこなんだよ!」
だが、シュウの視線は自然と舞台袖へ向いていた。
仲間たちが普段と違う装いで並んでいる。
それだけで、少しだけ胸の奥が温かくなる。
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司会の魔導拡声が響く。
『それでは秋華祭ミスコン、最初の出場者――ミーニャさん!』
歓声。
舞台中央へ歩き出したミーニャは、観客席を一度見渡し、すぐにシュウを見つけた。
猫耳がぴん、と立つ。
「……ん。今日は、シュウに見せる日」
その一言で会場が爆発した。
「かわいすぎる!!」
「優勝!!」
「猫耳は反則だろ!!」
本人は無表情なのに、尻尾だけが誇らしげに揺れている。
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『続いて、フィオナさん!』
王女のように優雅な一礼。
「学園の皆、今日は楽しみなさい。……特別に、わたくしが付き合ってあげるわ」
堂々たる微笑。
昼のメイド姿とはまた違う、王としての風格が観客を圧倒する。
男子生徒たちが一斉に立ち上がりそうになる。
「生徒会長ーー!!」
「王女様ーー!!」
だが舞台袖へ戻った瞬間、フィオナは小声で呟いた。
「……ちゃんと見てたかしら」
視線の先は、当然シュウだった。
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『エレインさん!』
舞台の照明が落ちる。
次の瞬間、エレインの指先から無数の光精霊が舞い上がった。
淡い紅葉色の魔法光が夜空へ広がり、まるで秋そのものが舞台に降りたようだった。
「一回だけなんだからね。特別な演出よ」
幻想的な美しさに、会場が静まり返る。
そして数秒後、割れんばかりの拍手。
エレインは耳を赤くしながらも、どこか誇らしげだった。
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『最後はリィネさん!』
扇子を開き、ゆっくりと歩く。
一歩ごとに尻尾が優雅に揺れ、そのたびに視線を奪う。
「……ふふ。未来は、今日の選択でいくらでも変わりますの」
意味深な台詞に会場がどよめく。
「卒業後、わたくしたちがどこへ向かうか――それも、きっと今日の延長線上ですわ」
誰も深くは気にしない。
だがシュウだけは、その言葉が妙に胸に残った。
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最終審査。
司会が最後の質問を投げる。
『皆さん、卒業後に進みたい未来を一言で!』
ミーニャが真っ先に答える。
「……シュウの隣」
会場が悲鳴のような歓声に包まれる。
フィオナは胸を張った。
「王として、もっと広い世界を見てみたいわ」
エレインは星空を見上げる。
「未知の魔力がある場所なら、どこへでも」
リィネは扇子を閉じ、柔らかく微笑んだ。
「……ふふ。世界の果てまで、お供いたしますわ」
それはただの進路宣言に聞こえた。
だがシュウには、まるで未来の旅路を先取りしているように聞こえる。
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結果発表。
『今年の優勝者は――』
そこで四人は顔を見合わせ、同時に一歩前へ出た。
「辞退します」
「……ん」
「えっ、ちょっと三人とも!?」
「わたくしたち、答えは一つですもの」
リィネが笑う。
「誰が一番、ではありませんわ」
フィオナが頷く。
「この四人で並ぶことに意味があるのよ」
ミーニャは当然のようにシュウを見る。
「……シュウのパーティー」
エレインも少し照れながら頷いた。
「そ、そういうこと。全員で一番ってことよ」
その瞬間、観客席からこの日最大の拍手が湧き上がった。
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夜空には秋の星。
舞台の上で並ぶ四人のヒロインを見上げながら、シュウは小さく呟く。
「……悪くない」
その言葉だけで、四人の耳と尻尾が一斉に揺れた。
学園祭の夜は、まだまだ終わらない。
だがその光景はきっと、
卒業後に世界の果てを目指す未来へも繋がっていくのだった。




