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後日談秋1 学園祭レストラン無双


―ようこそ、《境界線の晩餐》学園支店へ―


 夏の終わりとともに戻った学園は、すでに秋祭の熱気に包まれていた。


 聖クロイツ学園最大の催し――学園祭。


 広場には各部活の屋台が立ち並び、騎士道部の模擬試合場からは歓声が上がり、魔導研究会の空中演出が青空に光の花を咲かせている。


 その中心で、今年もっとも長い行列を作っていたのは。


「次のお客様、二名様ご案内です」


 鈴のような声で一礼したのは、黒白の給仕服に身を包んだフィオナだった。


 普段の王女礼装とは違う、膝丈のメイドドレス。


 胸元には《境界線の晩餐》を模した龍牙のブローチ。


 本人は澄ました顔をしているが、頬がほんのり赤い。


「……べ、別にあなたたちのために着てるわけじゃないわ。学園祭の視察よ」


 列の男子生徒たちがざわめく。


「生徒会長のメイド姿……尊い」

「王宮より格式高い店だろこれ……」


 その横では、猫耳フリルを追加された特製メイド服のミーニャが無言でトレイを運んでいた。


「……ん。おまたせ」


 猫耳と銀尻尾がぴこぴこ揺れるたび、店内の空気がざわつく。


「猫耳看板娘だ……!」

「毎日通いたい……!」


 奥の魔法演出席では、エレインが翡翠色の髪を揺らしながら、料理の上に小さな精霊光を咲かせていた。


「秋限定、月見香草ロースト。光の演出は一回だけなんだからね」


 皿の上で淡い月光色の魔法が揺れるたび、客席から感嘆の声が漏れる。


 さらに店の中央、和装アレンジの給仕服に扇子を合わせたリィネが、優雅に席を回していた。


「……ふふ。本日のおすすめは深層きのこの濃厚シチューですわ。秋の香りをどうぞ」


 狐尻尾がふわりと揺れるたび、客たちの視線が吸い寄せられる。


 もはやこの店だけで、学園祭の覇権を握っていた。



 厨房では、シュウが無言で包丁を振るっている。


 深層きのこ。

 山鳥の燻製。

 秋鮭。

 月見卵。

 木の実のソース。


 秋の山で採れた素材が、鉄板の上で次々と命を吹き返していく。


 じゅう、と香ばしい音。


 香りだけで人を呼ぶ《境界線の晩餐》の本領だった。


「相棒! 三番テーブル、シチュー追加だ!」

 厨房設備を組み上げたガストン・ドワルフが豪快に笑う。


「魔導保温台も完璧だ。料理が冷めねぇ!」


「……任せろ」


 シュウの手が止まらない。


 深層帰りの技術と、店を開いてから磨いた接客料理。


 そのすべてが今、学園祭という舞台で花開いていた。



 昼を過ぎる頃には、列は広場を半周していた。


「なんで野外活動部が毎年こうなるのよ……」

 フィオナが額に汗を浮かべる。


「王女様のメイド服が理由の半分ですわ」

 リィネが涼しい顔で返す。


「ち、違うわよ!」


 そのやり取りに客席が笑いに包まれる。


 ミーニャは相変わらずシュウの料理を運ぶたびに、誇らしそうに耳を立てていた。


「……シュウのごはん、最強」


 エレインも魔法演出を強める。


「夜になったら、店内の光を紅葉色に変えるわ。もっと映えるはずよ」


「いいじゃねぇか! 夜営業まで勝ちに行くぞ!」

 ガストンが鍋を担ぎ上げる。


 完全に文化祭のノリだった。



 夕方。


 ようやく客足が落ち着いた頃、一人の青年が店の暖簾をくぐった。


 整った金髪と、どこか誇り高い立ち姿。


 かつてシュウと幾度も火花を散らした男――アルトリウスだった。


 店内が一瞬ざわつく。


 だが彼は静かに席につき、淡々と言った。


「……おすすめをもらおう」


 フィオナが目を丸くする。


「あなたが来るなんて珍しいじゃない」


「学園祭の評判くらいは確認しておく必要がある」


 素直ではない物言いだった。


 シュウは厨房から顔だけを向ける。


「……腹は減ってるか?」


 アルトリウスは一瞬だけ口元を緩めた。


「減っている。お前の勝ちだ、シュウ」


 それはかつてのライバルからの、何より自然な賛辞だった。



 日が沈み、紅葉色の魔法灯が店内を染める。


 笑い声。

 食器の音。

 香ばしい匂い。

 仲間たちの忙しない足音。


 夏の山で確かめた“帰る場所”は、今こうして学園の真ん中にも根を張っていた。


 シュウは鉄板の向こうで笑い合う仲間たちを見て、小さく呟く。


「……悪くない秋だ」


 その言葉に、四人のヒロインたちの耳と尻尾が一斉に揺れた。


 学園祭の夜は、まだ始まったばかりだった。

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