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第8話:【放課後】廊下での「味見」の攻防戦

放課後の喧騒が少しずつ落ち着きを見せ始めた学園の廊下。シュウが夕食の買い出しのために校門へ向かおうとしていると、曲がり角の先から、計算し尽くされた足取りで一人の少女が現れた。

「……ふふ。シュウ様、奇遇ですわね。私がここを通る確率は、今朝の占いで百パーセントでしたの」

 扇で口元を隠し、艶やかに微笑むのはリィネだ。彼女の豊かな狐尻尾は、夕日に照らされて黄金色に輝き、ゆらゆらと優雅な弧を描いている。

「……リィネか。……奇遇にしては、待ち伏せの気配が強かったが」

「あら、心外ですわ。……それより、今夜は『森の奥に潜む巨猪』の背脂を使った煮込み料理だと、私の因果が囁いております。……隠し味に、この『月の雫の香油』を使ってみてはいかがかしら?」

 リィネが懐から小さな小瓶を取り出し、シュウに一歩歩み寄る。ふわりと、彼女自身の甘い香りと香油の香りが混ざり合い、シュウの鼻腔をくすぐった。

「……ほう。……悪くない香だ。……一口、試してみるか」

「ええ、喜んで。……あ、お口に運んで差し上げましょうか……?」

 リィネがさらに距離を詰めようとした、その瞬間――。

「待ちなさいッ!! そこまでよ、この泥棒狐ぉ!!」

 廊下の反対側から、凄まじい勢いでフィオナが突っ込んできた。彼女の周囲には、怒りの重力波が微かに渦巻いている。

「シュウ! 放課後の校内での不純な贈収賄……いえ、密会は禁止よ! リィネ、あなた、また計算高い手を使ってシュウをたぶらかそうとしたわね!」

「あら、フィオナ様。……これはただの『食材の相談』ですわ。……王女様には、少々刺激が強すぎたかしら?」

 リィネが余裕の笑みで受け流すと、フィオナの顔が真っ赤に染まる。

「し、刺激なんて関係ないわよ! ……大体、その香油が安全かどうかも怪しいわ。……私も市場まで同行して、厳しくチェックさせてもらうんだからね!」

 結局、両手に花……というにはあまりに火花の散る状況で、シュウは二人に挟まれて市場へ向かうことになった。

 校門の影から、その様子をじっと見つめていたミーニャが、銀色の猫尻尾をイライラと地面に叩きつける。

「……ずるい。……市場。……美味しいもの、いっぱい。……影から、ついていく」

 夕暮れの学園都市。少年と、正反対の美少女二人が歩く姿は、道ゆく人々が二度見するほど異質で、そしてどこか賑やかな幸福感に満ちていた。

次回予告

第9話:【ガストン工房】濡れた猫と狐の雨宿り

市場からの帰り道、突然の豪雨に見舞われた一行はガストンの工房へ逃げ込む。濡れた毛並みを気にするリィネとミーニャ。そこへガストンが「ふいご」を持って現れ、とんでもないケアが始まり……。

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