第7話:【保健室】サボりと、影の添い寝
体育祭の喧騒が遠く響く中、学園の保健室は白いカーテンが午後の風に揺れる、穏やかな静寂に包まれていた。
障害物競走で魔力の「結び目」を断ち切り続けたシュウは、心地よい疲労感に身を任せ、誰もいないはずの最奥のベッドへと潜り込んだ。
(……少し、寝るか。……夕飯の仕込みまでには、まだ時間がある)
目を閉じ、意識がまどろみに沈みかけた、その時。
シーツの下から、ひやりとした、しかし柔らかな感触がシュウの腕に触れた。
「……ん。……シュウ。……ここ、落ち着く」
影から染み出すように現れたのは、ミーニャだった。彼女は既にベッドの中に潜り込んでおり、銀色の猫尻尾をシュウの足に絡め、当然のように定位置を確保していた。
「……ミーニャ、お前、いつからそこに」
「……ずっと。……シュウの匂い、……お腹空くけど、安心する」
無機質な瞳を細め、喉を微かにゴロゴロと鳴らすミーニャ。その銀色の耳が、幸せそうにピクピクと跳ねた瞬間――。
「ちょっと! ガラ空きの受付を放置して何をしているのよ、……って、なっ、何なのよその状況はぁぁ!!」
勢いよくカーテンが開け放たれた。そこに立っていたのは、救護班の視察と称して現れたフィオナだった。
彼女の顔は、ベッドの中で密着する二人を見た瞬間、茹で上がったタコのように真っ赤に染まった。
「不純! あまりにも不純よ! 王立学園の保健室を、そんな……そんな添い寝の場にするなんて! いますぐ離れなさい、この泥棒猫ぉ!」
「……やだ。……フィオナこそ、うるさい。……シュウが、起きちゃう」
「な、ななな……! 誰のせいで起きたと思っているのよ! ……大体、シュウもシュウよ! なんでそんなに平然としているのよ!」
憤慨するフィオナだったが、シュウが「……騒ぐなら、あっちのベッドへ行け。……眠いんだ」と力なく手を振ると、彼女の動きがピタリと止まった。
「……そ、そうね。……あんたがそんなに疲れているなら、風紀委員長代行として、……隣で監視してあげる必要があるわね!」
結局、フィオナは反対側の隙間に強引に割り込み、シュウを挟んでミーニャと火花を散らすことになった。
外から様子を見に来たエレインが、カーテンの隙間からその光景を目撃し、翡翠色の耳を真っ赤にしてパタパタと震わせる。
「……もう、バカばっかり……。……あんなに狭いところに三人で入るなんて、……暑苦しくないのかしら……っ」
そう呟きながらも、エレインは自分が入る余地がないことに、ほんの少しだけ唇を噛んでいた。
次回予告
第8話:【放課後】廊下での「味見」の攻防戦
買い出しに向かうシュウを、リィネが「因果の導き」で待ち伏せる。しかし、そこへフィオナが「風紀の乱れ」を察知して乱入! 結局、三人で夕暮れの市場へ向かうことになり……。




