第5話:【廊下】ふざけすぎた「逃走劇」
聖クロイツ学園の午後の休み時間。平穏を愛する生徒たちが談笑する廊下に、突如として「ギギギ……」という不気味な駆動音と、焦げた鉄の匂いが立ち込めた。
「おいシュウ! こいつは俺の最高傑作だ! 名付けて『超高熱魔導旋回オーブン・プロトタイプ』だぜ!」
ガストンが誇らしげに叩いたのは、台車に乗せられた巨大な鉄の塊。その内部には、シュウが今朝仕留めたばかりの「炎を吐く大トカゲ」の魔力核が強引に組み込まれていた。
「……ガストン、出力が不安定だ。……核が、鳴いている」
「ガハハ! それこそが『情熱』ってやつよ! ほら、このレバーを引けば……」
ガッ、という鈍い音。
直後、オーブンの隙間から真っ赤な火花が噴き出し、凄まじい爆発音が校舎を揺らした。
――ドォォォォン!!
黒煙と共に、廊下にはこんがりと焼き上がりすぎたトカゲの香りと、焼け焦げた鉄の臭いが充満する。
「なっ、何事ですかぁぁぁ!!」
煙の向こうから、金色の髪を逆立て、瞳を怒りに燃やしたフィオナが姿を現した。彼女の周囲には、既に黄金の魔力オーラが渦巻いている。
「シュウ! ガストン! またあんたたちね! 廊下で爆発物を持ち歩くなと、何度言えば理解するの!」
「……やばい。……ガストン、撤退だ」
「おうよ! 姫様の重力魔法を喰らったら、今日の晩飯は抜きになっちまう!」
二人は息を合わせ、台車を捨てて脱兎のごとく駆け出した。
背後からは、フィオナの叫び声と、床を叩き潰すような重圧の波動が迫る。
「逃がさないわよ! ――ひれ伏しなさい、『絶対君主の審判』ッ!!」
廊下の床がミシミシと悲鳴を上げ、重力が数倍に膨れ上がる。シュウは走りながら腰の包丁を抜き、空間に漂う魔力の「結び目」を一瞬で断ち切った。
「……ふっ。……重いのは、心臓だけで十分だ」
重力の檻をすり抜けたシュウとガストンは、曲がり角の先へと消えていく。
それを見ていたエレインが、耳をパタパタと震わせながら呆れ果てたように呟いた。
「……もう、バカじゃないの……。……でも、……あのトカゲ、いい匂いしてたわね……」
夕暮れの校舎に、王女の怒声と、どこか楽しげな男たちの笑い声がいつまでも響いていた。
次回予告
第6話:【体育祭】障害物競走と「境界」の踏破
「魔法・スキル使用可」の過酷な障害物競走。他の生徒が派手な攻撃魔法で妨害し合う中、シュウは包丁一本で「道」を切り開く。そして、影から忍び寄るミーニャの助力が……。




