第4話:【中庭】精霊の苦味と、黄金の変貌
陽光が降り注ぐ学園の中庭。大樹の木陰で、エレインは耳をピンと尖らせ、目の前のタッパーを死守するように抱え込んでいた。
「……ちょっと、あんたたち! 私が精霊の森の奥深くで摘んできた、最高級の『月光草』のサラダよ。……感謝して食べなさいよね!」
自信満々に蓋を開けた瞬間、周囲の空気が凍りついた。
そこにあったのは、目に染みるほど鮮やかな緑色の葉。しかし、放たれる異臭……いや、「魔力」の濃度が濃すぎて、普通の人間が口にすれば即座に胃が裏返るほどの、凄まじい苦味の波動だった。
「……うえっ。……エレイン。……これ、毒。……影が、逃げ出した」
隣で一口かじったミーニャが、銀色の猫尻尾をボロ雑巾のように力なく垂らし、地面に突っ伏している。
「な、なによ! 精霊たちは『これこそ至高の栄養だ』って言ってるんだから! ……ほら、シュウ! あんたも何か言いなさいよ!」
エレインの翡翠色の耳が、不安と期待で激しくパタパタと震える。
シュウは無言でその「草」を一枚手に取ると、じっと見つめた。
「……なるほど。……魔力が循環しすぎて、苦味が結晶化しているんだな。……これ、少し手を加えれば、最高のデザートになるぞ」
「……はぁ!? 何言って……きゃっ!?」
シュウが腰から抜いたのは、黒光りする小ぶりな包丁だ。
一閃。
サラダを宙に放り投げると、空中でその「苦味の核」だけをミリ単位で削ぎ落としていく。
仕上げに、鞄から取り出した「火炎トカゲ」の蜜を薄く塗り、ガストンが以前打った魔導バーナーで一瞬だけ表面を炙った。
「……食ってみろ。……熱いうちが一番美味い」
差し出されたのは、宝石のように輝く琥珀色のチップス。
エレインが恐る恐る口に運ぶと――。
「……っ!! ……甘い……。……それに、精霊たちが……私の体の中で、歌ってるみたい……」
苦味は消え、濃厚な魔力の甘みだけが脳を突き抜ける。
エレインの耳は、もはや制御不能なほど高速で回転し、顔はリンゴのように真っ赤に染まっていた。
「……ふん。……まあ、合格点ね。……あ、あともう一枚、……毒味してあげてもいいわよ……?」
不器用なエルフの乙女が、消え入りそうな声でねだる。
その様子を、物陰からリィネが金色の瞳を細めて見つめていた。
「……ふふ。エレイン、計算通りに胃袋を掴まれましたわね。……次は、私の番かしら?」
次回予告
第5話:【廊下】ふざけすぎた「逃走劇」
ガストンが廊下で巨大な「魔導オーブン」を試運転させ、大爆発! 煙に巻かれながら全速力で逃げるシュウとガストン。激怒したフィオナの魔法が、背後から迫り……。




