第3話:【昼休み】鉄屑号の「秘密の定食」
学園の喧騒から離れた、廃棄物集積場に近い空き地。そこには、錆びついた装甲を繋ぎ合わせた無骨なキャンプ車『テツクズ号』が鎮座していた。
煙突から立ち上るのは、魔物の骨をじっくりと煮込んだ、野性味溢れつつも食欲を猛烈に刺激する芳醇な香りだ。
「……よし。……今日は、湿地帯に潜む巨蟹のハサミを、香草で蒸し焼きにしたやつだ」
シュウが特製の包丁を置いた瞬間、背後の影が揺れた。
音もなく、しかし確実な存在感を持って現れたのはミーニャだ。彼女はシュウのすぐ隣に陣取ると、銀色の猫尻尾をシュウの腰に、まるで「自分の所有物」であることを示すように、きつく、しかし温かく巻き付けた。
「……シュウ。……いい匂い。……殻、むいて」
無機質な声とは裏腹に、彼女の耳は期待に満ちてピクピクと跳ねている。シュウが慣れた手つきで真っ白な身を取り出し、彼女の口元へ運ぼうとした、その時。
「ちょっと! そこで何をしているのよ、この泥棒猫ぉ!」
砂埃を上げて駆け込んできたのは、給仕服(のような意匠の制服)を翻したフィオナだった。
「学園内で不純異性交遊は禁止だって、何度言ったらわかるの! ……それに、その……その蒸し料理! 公共の場に相応しくない、暴力的なほど美味しそうな香りを撒き散らして……っ!」
フィオナは憤慨しながらも、視線はシュウの持つ蟹の身に釘付けだ。
そこへ、車内から豪快な笑い声と共に、酒樽(中身はハーブ水)を抱えたガストンが這い出してきた。
「ガハハ! 姫様、相変わらず鼻が利くねぇ! シュウ、こいつは俺の打った新型オーブンの火加減が最高だった証拠だ。全員で『毒味』といこうじゃねえか!」
「……毒味じゃなくて、視察よ! 視察なんだから!」
言い張りながらも、フィオナは既にミーニャの隣、シュウの正面という特等席を確保していた。
無口な少女の尻尾がメトロノームのように幸せを刻み、王女様が頬を赤らめて「あーん」の順番を待つ。
ガラクタの車を囲んだ、不揃いな五人の昼食会。それは、かつての「ゴミ」と蔑まれた者たちが作り上げる、誰にも踏み込めないほど温かな聖域だった。
次回予告
第4話:【中庭】お弁当交換と、エルフの意地
エレインが持ってきた、精霊の加護が強すぎて「苦すぎる」サラダ。悶絶する周囲を余目に、シュウが包丁を取り出す。「……これ、少し手を加えれば、最高のデザートになるぞ」




