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第1話:【廊下】「境界」の調理師と、鉄屑の職人

 聖クロイツ学園の白亜の廊下には、不釣り合いな重苦しい足音と、どこか野性味溢れる香りが漂っていた。

 ドシン、ドシンと床を鳴らして歩くのは、煤汚れたエプロンを羽織った巨漢ガストン。その隣で、淡々と歩を進めるのがシュウだ。

「おいシュウ、昨夜の『岩場に棲む大トカゲ』の干物だがな。あれ、もう少し塩気を抜いた方が、俺の打った魔導オーブンには馴染む気がするぜ」

「……いや、あれはあの硬さがいいんだ。噛み締めるほどに、芯に眠る魔力が溶け出してくる」

 二人は、周囲の生徒たちが向ける「気味の悪いものを見る目」など一顧だにしない。

 片や、誰もが見向きもしない魔物を「喰らう」変わり者。片や、ガラクタに魂を込める偏屈な鍛冶師。学園内では浮きまくっているコンビだが、彼らの手には、今朝仕上がったばかりの「試作の干物」が握られていた。

「ちょっと! そこの二人、止まりなさい!」

 鋭い声と共に、廊下の向こうから黄金の髪をなびかせた少女が歩み寄ってくる。第一王女としての威厳を纏い、風紀を司るフィオナだ。

「廊下は歩行の場であって、調理法を議論する場ではありません! しかも、そんな……何なの、その禍々しい匂いのする物体は! 王立学園の品位を汚していると思わないの!?」

 フィオナが人差し指を突きつけ、シュウの鼻先でぷんぷんと怒る。しかし、彼女の鼻が、シュウの持つ干物の香りに「くんくん」と微かに、抗えない誘惑に負けて動いたのを、シュウは見逃さなかった。

「……品位、か。……フィオナ、これ、毒味してみるか? 意外と『王家の舌』に合うかもしれないぞ」

「なっ、誰がそんな怪しい……っ! 私はただ、風紀委員長代行として……」

 シュウが無造作に、薄く削ぎ落とした干物の一片を差し出す。

 指先から伝わる、魔物の生命力が凝縮された熱。

 背後でガストンが「ガハハ! 姫様、こいつは絶品だぜ!」と豪快に笑い、廊下にその声が反響した。

 これが、後に世界を救う英雄たちと、最強の料理店の看板娘となる彼女たちの、まだ少しだけ刺々しくも愛おしい「日常」の始まりだった。

次回予告

第2話:【教室】静寂を破る「魔力の残り香」

期末テストの最中、シュウの鞄から漂う「ある匂い」が、エルフの乙女エレインの集中力を極限まで乱す。そして、隣席のリィネは計算高い微笑みを浮かべ……。

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