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懐古第三話:【泥濘】聖剣の錆止め― 娯楽としての蹂躙

翌日、学園の屋外演習場は、冷たい雨に打たれていた。

ぬかるんだ泥土の感触が、ブーツ越しにシュウの足元を冷やす。

「……さあ、始めようか。対人魔導演習だ」

教壇に立つバルガス教官が、傘も差さずに悦に浸るアルトリウスを促した。

「今日の『動く標的』役は……言うまでもないな。シュウ、前へ出ろ」

周囲の生徒たちから、クスクスと忍び笑いが漏れる。

シュウは無言で、ガストンが夜通しで叩き直してくれた無骨な鉄の包丁を握りしめた。腰には、同じく鉄屑を繋ぎ合わせたような歪な盾が下げられている。

「ふふ、そんな鉄の塊で私の『聖剣』と踊ろうというのかい? 滑稽だね、シュウ君」

アルトリウスが白銀の剣を抜くと、雨空を切り裂くような清冽な光が溢れ出した。

「先生、彼には『格差』というものを、身をもって学んでもらう必要がある。……少々、手荒にいっても構いませんか?」

「教育の一環だ。聖騎士候補の訓練に協力できるのだ、彼にとっても光栄なことだろう」

バルガスの許可が出た瞬間、アルトリウスの瞳に、獲物をいたぶる猫のような「愉悦」が宿った。

「――『閃光連斬』」

光の速さで放たれた衝撃波が、シュウの視界を真っ白に染めた。

ガストンの盾で必死に防ぐが、骨を伝って全身に凄まじい衝撃が走る。

「……ぐっ……!」

泥の中に叩きつけられ、肺の空気が強制的に押し出される。

立ち上がろうとするシュウの指先に、アルトリウスはわざと狙い澄ましたように、追撃の小規模な爆破魔法を放った。

「おっと、危ない。避けないと指が飛んでしまうよ? ほら、踊れ、踊れ! ゴミらしく、泥の上で無様にね!」

アルトリウスは、決して一撃で終わらせようとはしなかった。

急所を外し、じわじわと体力を削り、シュウが泥まみれで這いずり回る姿を、周囲の生徒たちに見せつける。

それは「演習」などではない。ただの公開虐待だ。

「……はぁ、……はぁ……っ」

泥を啜り、血の混じった唾を吐き出すシュウ。

視界の端で、バルガス教官が満足げに頷き、手元の採点表に「アルトリウス:卓越した魔力操作。標的:無価値」と書き込むのが見えた。

「見てごらん、先生。彼のあの瞳。……あんなにボロボロになっても、まだ私を睨んでいる。……不快だね、分不相応な『意志』というやつは」

アルトリウスは、聖剣の切っ先をシュウの喉元に突きつけた。

剣から発せられる熱が、雨粒を蒸発させて白い煙を上げる。

「君のそのスキル、【魔物喰い】だったかな。……何かを喰らわなければ強くなれないのなら、この泥でも喰らっていればいい。君には、それがお似合いだ」

アルトリウスは、剣の平でシュウの頬を叩き、再び泥の中に沈めた。

冷たい雨、鉄の味、そして自分を「娯楽」として消費する者たちの、明るい笑い声。

(……忘れない。……この痛みも、この笑い声も……)

泥の中に顔を伏せたまま、シュウは心の中で静かに、だが決して折れない呪文のように繰り返した。

自分を「無価値」だと決めつけたこの世界の物差しを、いつかすべて喰らい尽くしてやる。

雨脚が強まる中、シュウの指先が、泥にまみれたガストンの盾を強く、強く握り直していた。

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